マイチー州の我が家


 マイチー州に着いた。王都訪問は大変だった。祝福を授かれば前代未聞で大騒ぎになり、まさかの王様との謁見、二人の女の子と仲良くなり、火事騒ぎ、最後にゲオルグの陞爵と色々ありすぎてマジで疲れた。

 馬車での移動も時間かかるし、揺れるし、ケツが痛くなるし。もう今日と明日はゆっくりするんだ。決めたんだ。


 家に着いた。マイチー州では大きい家だが宮殿の門ほどもない。マジで宮殿デカすぎ。


「ネロ~、おかえり~!!」


エリスママンが出迎えてくれた。ハグしてくれる。おう、胸部装甲が半端ない。息が‥‥‥。


「エリスよ、ネロが苦しそうだぞ」

「えっ? あ~! ごめんなさい、ネロ。大丈夫!?」


「祝福の儀はどうだったの?」

「うむ、その話だが夜に皆が揃ってからにしよう。長旅でネロも疲れただろうし少し休むが良かろう」

 ありがとう、ゲオルグ。早速ベッドへ。


 昼寝出来たので体力も回復した。そろそろ夕ご飯か。手伝おうか。

「母様、お手伝いします。どうしたらいいですか?」

「あら、ネロ。ありがとう。体力は戻った?」

「はい、大丈夫です」

「じゃあみんなのお皿と食器を並べてくれるかしら?」

「はーい」


 夕ご飯だ。この国は日本ぽくもあり西洋っぽくもある和洋折衷した不思議な文化圏だ。

 特に食事は米もある、小麦もある、肉は魔物がメインかな、野菜もある。

 酒はまだ飲んで無いので詳しくは知らないが日本酒ぽいモノ、ビールみたいのとか種類は少なそうだが日本で飲めてたモノは大体ありそうだ。

 と言ったところなのでママンのご飯は美味しいと思う。少なくとも前世で自炊していたモノよりは遥かに美味しい。


 今日は鍋かな? オーク肉の薄切りがあるからオークしゃぶだろう。俺も家族もみんな大好きなメニューだ。


「さて、今回のネロの祝福についてだが‥‥‥」

 夕ご飯も半ばに差し掛かったところでゲオルグが切り出す。


「『神級の祝福』だった」


 食卓が静まり返る。鍋の沸騰するポコポコ音だけが聞こえる。


「何ですって!? 神級? キャー!! スゴイわ、ネロ!!」

 エリスママン大騒ぎ。


「ホントか!? スゴイな! ネロ!」

 ポール兄さんもテンション上がる。


「神級なんて本当にあるんだ‥‥‥」

 ピーター兄さんは冷静だ。


「私も信じられなかったがな。それだけでは無い。実は‥‥子爵に陞爵した」

 エリスママンが倒れそうになり、俺が支える。


「スッゲー!!」

 ポール兄さんは飛び上がる。


「ウチの財政状況が大きく変わるね」

 ピーター兄さんクール! 微笑んでるから嬉しいのだろうけど。


 その日のヴァッサー家の晩餐はお祭り騒ぎだった。


ーーーーーーーーーーーー


「ネロ、少し話をしてもいいか?」

 ピーター兄さんが部屋に入って来た。

「何でしょう?」

 神妙な顔だ。


「お前はこの家を継ぐつもりはあるか?」

「無いよ」

 即答する。


「本当か?」

「王都に行く前にも言ったけど、僕は冒険者になりたいんだ。貴族の付き合いってのも嫌いだし」


「そうか。もし継ぐつもりならこれからどうしようと思っていたところだが。安心したよ」


 貴族は世襲制だ。そして基本的には長男が継ぐ。それこそ長男が病気であるとか他の弟が超優秀だとか以外は。それこそ神級なんて引き当てたら下克上も成立するだろう。


 ピーター兄さんとしては九割九分決まっていた後継と言う就職先を、俺に取られることを危惧したのだろう。普段から関係は良好にしていたのもあって、思うところを確認してくれたのだろう。

 人間関係ってやっぱ大切だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る