彼女の死に華束を

MrNobady

彼女の死

 それは突然のことだった。彼女は自殺した。彼女は僕の愛する妹である。

 最後に見たのは吹奏楽部の個人練習の時だった。彼女が教室でトランペットを吹いていると、いきなり部長と副部長、それと部長に纏っている女子数人ほどが入ってきた。

 部長は彼女の目の前で同じようにトランペットを吹き始めた。それはそれは上手な演奏で、彼女の演奏では遠く及ばなかった。部長は彼女が練習していた節と同じところを演奏し始め、曲が終わるころには部長の音色しか聞こえなくなっていた。まるで部長は他にトランペット奏者なんていらない、私が一番だ、と伝えに来たかのようだった。

 彼女は教室を飛び出していった。

 教室には部長を称讃する女子達の声が響いた。

「部長、凄い演奏でした!」「あんな奴足元にも及びませんね」

 対して部長は

「ありがとう。でも、そんなこと言ってはダメよ」

 と笑いながら言った。

 一時間の練習の後、副部長は楽器を片付けながら

「あいつ帰ってこないな」

 と呟いた。部長は

「どうしたんでしょうね?」

 と他人行儀のように言った。

 その後、吹奏楽部にも自宅にも彼女は姿を現さなかった。

 翌日、彼女が校舎の裏で死んでいるのが見つかった。

 彼女は校舎の屋上から飛び降りたそうだ。屋上には遺書らしきものも見つかった。大半は濡れていて読めないが、部長が憎い、殺してやりたいという恨み辛みが書いてあった。

 もちろん部長は尋問されたが、前日一緒に練習しただけです。の一点張りだった。

 結局、事件は自殺として処理され、彼女は還らぬ人となった。

”僕の部屋にはトランペットが一つある。”

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