第58話 また貴女ですか……


 何?なんなの?声の主は大声で平民はこの場所には来るなと……まるでシャルロッテに対して聞こえる様に言ってない?!


 シャルロッテを見たら、俯いて今にも泣きそうな顔してるし、私が無理矢理二階に連れて来ただけなのに!

 こんな顔させるなんて本当ゴメンね。

 一体どんな奴が文句言ってるのよ?許さないんだから。

 私の席からは全く見えないので立ち上がり文句を言ってやろうとしたら……


 アイザック様とジーニアス様が先に立ち上がり、手で大人しく座っていろと合図される。


 むう……私だって言いたい事いっぱいあるのに。

 我慢したんだからコテンパンに頼みますよっ?

 私はシャルロッテの手を握りしめ大丈夫だよと笑った。

 シャルロッテは何故か頬を桃色に染めて何度も頭を上下に振った。

 何その可愛い動きは!


 すっと立ち上がったアイザックは、振り向き氷の様な目で文句を言っていた令嬢を見据えた。


「ええと君は……?」


 アイザックにいきなり声をかけられて声が上擦る令嬢達。


 そんな中一人の令嬢が前に出て来て、カーテシーをし挨拶をした。


「……わっ私はヘンディス侯爵家ロシアン・ヘンディスと申します、ロシアンとお呼び下さいませ」


 頬を赤らめながらアイザックを舐める様に見るヘンディス。


 それをゴミを見るかの様な、冷たい表情のままアイザックは答える。


「ああ……ヘンディス嬢?君はこの学園の生徒手帳に書いてある#学園について__・__#の所読んだ?」


「えっ?」


 いきなり生徒手帳の話をされポカンとするヘンディス達。


読んで・・・たら、そんな事言わない筈だよね?このカフェテリアの二階は貴族専用じゃないよ?そもそも学園に貴族専用の施設なんて存在しないけどね?」


「ええっ?」


 貴族専用施設などないと言われ、意味が分からずヘンディスは何も返せない。


「この二階はね?お茶を飲みながら学友達と討論したり、合同研究について話しあったり出来る様に、長時間いても疲れないゆったり座れるソファーなど、皆が寛げる様な作りになっているんだけど?

生徒手帳の何処にこの場所が貴族専用だと?書いてるのかな教えてくれないか?」


 アイザックは氷の目でヘンディスを睨みつける。  


「あっ……」


 そう言われ真っ青になるヘンディス。

 どうしたら良いのか分からず横に居る令嬢に頼った。


「あっ……だっだって!アイリーン様もそう言ってらしたわよね?」


 ヘンディスの横にいたのは何とヒロインのアイリーンだった。


「えっ?あっ……!私はちょっと用事を思い出しましたので失礼しますわ」

(何で私にふるのよっ!平民ヒロインがアイザック様と一緒にいるのが気に食わなくて、けしかけただけなのにっ!バカなの?私に飛び火しないでよねっ。アイザック様に私が嫌われたらどーするのよっ!)


 アイリーンはそそくさとその場を立ち去る。


「えっ!?」


「ちょっと待ってください!」


 アイリーンの後を追い、ヘンディスはバタバタとその場から逃げる様に走って行った。

 その姿は侯爵家令嬢としてはあるまじき姿であった。



……何だったの?



 このカフェテリアでの一件は直ぐに広まり、ヒロインである筈のアイリーンの評判はドンドンと落ちて行くのだった。



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