第23話 忖度

「へっ、テメーの試験はここで終わりだ」


二回戦目。

俺の対戦相手は、例のクソガキ――ハブン子爵家の三男だった。

どうやら、組み合わせを誰かにコントロールされていると考えた方がいいだろう。


「……」


さっき当たった取り巻きは完全に雑魚だった。


だがそれは、俺から見た場合の話だ。

受験者全体を通してみた場合、間違いなく上位に入る強さと言っていいだろう。

そしてあれだけ動けているのなら、最初の二つの試験もそこそこの成績を残していたはず。


だから、少しおかしいなと思っていたのだ。

ダントツトップの成績である俺と、上位に入っている人間が当たった事が。


ハブン子爵家は、上二人が極地騎士団に所属している。

恐らくさっきの昼休み辺り、兄達に頼みにでも行ったのだろう。

俺を『自分の手で懲らしめたい』とでも言って。


「まぐれでもゾルンを倒した腕は認めてやるが、俺に目を付けられたのが運の尽きだ」


ガキンチョがドヤ顔でそう語る。

俺が取り巻き――ゾルンを倒せたのは、まぐれだと思っている様だ。


どうやらこの様子だと……こいつの兄貴達は、俺が誰の後ろ盾でこの試験に参加しているのか知らない様だな。

ま、普通に試験を受けさせてくれって言ってあるので、一部の人間以外その事実を知らなくても無理はないが。


「何せこのゲイル・ハブン様は、ハブン子爵家始まって以来の天才と呼ばれる男だからな」


「……」


……哀れだな。


本当に当代きっての天才だと言うのなら、俺と当たりさえしなければ楽に入団でき事ただろう。

さっき当たったソルンって奴だって、合格できていた可能性は高い。


――だが余計な事をしたばっかりに、こいつらは入団試験に落ちる事になる。


ま、自業自得だしいい薬だ。

世の中上には上がいるって事を、俺が教えてやろう。


「へへ……どうした?ビビッて声も出ねーか?」


「良くしゃべる奴だな」


第二試験までは、挑発的な発言は試験官に注意されていた。

だが今はそれがない。

そう考えると、今の試験官はこいつの兄貴達の息がかかってると考えていいだろう。

まあ、単に心理戦を許容する試験官だって可能性もあるが。


どちらにせよ、やる事は変わらない。


「なんだと!?」


「試合はまだでしょうか?」


俺はゲイルを無視して、試験管にせっつく様に尋ねた。

これ以上、子供の下らないイキリに付き合うつもりはない。


「む……両者準備がいいなら、試合開始だ」


「大丈夫です」


「ふん、直ぐに終わらせてやる」


「試合開始!」


「お前にいいもの見せてやる!よく見な、凡愚!」


ゲイルが手にした木剣を掲げる。

するとその剣を、淡い光の幕が覆っていく。


「へぇ、オーラブレードか……」


オーラブレード。

生命エネルギーを武器に纏わせ破壊力を上げるスキルで、その習得難度はかなり高い。

この年でそれを体得できている辺り、天才と言うのはどうやら嘘ではない様だ。


因みに、同じ様な原理で全身を包んで防御能力を上げるオーラバリアーというスキルもある。

但し、薄い刃を包むだけでいいブレードと比べて消耗が出鱈目に大きくなるため、此方は長時間維持するのは難しい。

そのため、瞬間的な防御方法として使うのがセオリーだ。


「くくく、凡人のお前ではたどり着けない境地だ。いくら身体能力が叩かかろうと――っ!?」


ゲイルが俺の木剣の変化――強い光に覆われる――を目の辺りにして、その得意満面の顔が固まってしまう。

言うまでもないとは思うが、当然俺にもオーラブレードは扱える。

その出力も段違いだ。


「な、なんで……お前みたいなガキが……」


ま、こっちも天才な訳だから。

それも神様から直で天恵を授かったほどの。


「こないのか?こないのなら、こっちから行くぞ」


俺が一歩前に出るとゲイルは慌てて下がり、そしてあり得ない事を口にする。


「う……ま、待て!いくら欲しい?金ならあるぞ」


「……」


買収かよ……


もう一度言うが、オーラブレードは習得難易度が高い。

当然会得している人間は、ある程度以上の戦闘技術を習得しているのが常である。


――つまり、最低限の見極めは出来る訳だ。


身体能力では、俺がゲイルを圧倒している。

オーラの量も圧倒的。

その事から、奴は自分が負けると瞬間的に判断したのだろう。


だからって……


「審判の前で、よくそんな堂々とふざけた真似が出来るな?」


審判だけではない。

周囲には試合を観戦している他の受験生達もいる。


審判の方をチラリとみると、頭を押さえて大きく溜息をついていた。

あきれ果てている感じだ。


「う……い、今のは冗談だ!お、お前なんか俺の敵じゃない!!」


ゲイルが顔を真っ赤にして此方に突っ込んで来た。

本人は気づいていない様だが、剣に纏っていたオーラはすでに消えている。

動揺しすぎ。


俺は適当に何合か奴の剣を捌き、奴の手元を打って剣を落とさせた。

ああ、勿論俺の方も既にオーラブレードは解除してあるぞ。


「ぐ……つぅぅ……まだ、だ――っ!?」


ゲイルが慌てて落とした木剣を拾おうとするが、それよりも早く俺が蹴り飛ばして遠くへ飛ばす。


「これで勝負がついてない扱いなら、これからこいつを滅多打ちにしますけど?」


普通に考えて、武器を落とされ遠くに飛ばされれば試合は終了だ。

にも拘らず即座にジャッジが下らないのは、ゲイル――正確には、その兄やハブン家への忖度が働いているからだろう。


しかし時間の無駄以外何物でもない。

俺はさっさと裁定を下せと、審判に脅しをかける。


「ぬ……勝者、214番アドン・クリストン」


「そんな……嘘だ。この俺が負けだなんて……」


ゲイルがその場に膝を付く。

呆然自失の表情で。


ほんと、馬鹿な奴だ。

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