第22話 手加減
「凄いな、君は。歴代最高記録だよ」
試験官が感心した様に俺にそう告げる。
「ありがとうございます」
スタミナの試験は至ってシンプルな物だった。
特殊な施設で、ただ座り続けるだけ。
何故それでスタミナが測定できるのか?
施設内には封印系の魔法が施されており、中に入ると急激に体力を消耗させられてしまう仕様だからだ。
そのため、その空間で座って耐えられる時間がイコールスタミナの量になる。
因みに、十人一組で入って、最初の五分以内に俺以外は全員脱落してしまっていた。
俺も一時間で出て来たが、頑張ってももう一時間程が限界だったと思う。
「これで勝ったと思うなよ!騎士として重要なのは強さだからな!!いいか――うっ……とにかく、覚えてろよ」
例の集団のリーダーが俺に噛みついて来るが、試験管に睨まれてすごすごと引き下がった。
学習能力のない奴である。
最後は実技のテスト。
消耗した体力の回復のためのお昼休憩を挟んでから、受験生は広いグラウンドの様な場所に集められた。
千人近くが受けている入団テストだが、この段階で残っているのは百人と少ない。
パワーの時は半分近くが通っていた様に思えたので、スタミナで相当落とされた様だ。
……どうやら、スタミナの試験の方が審査は厳しかったみたいだな。
「これから君達に二回、参加者同士で試合して貰う!負けた者はその時点で脱落!そして最終的に残った二十五名で試験管との試合だ!そこで騎士としての水準に達したと判断された人物のみ合格となる!!」
受験者同士の勝ち抜き戦。
参加者全員に装備が配られた。
革製の簡易な鎧に、木剣だ。
「万一相手を殺してしまった場合はその場で失格だ!ちゃんと罪も償って貰う!!」
木と言えど、力量差が開いていれば対戦相手を殺す事は簡単だ。
だから試験にかこつけて人殺しを行わないよう、試験官が釘を刺す。
「では呼ばれた物から!」
受験番号と名前が呼ばれ、次々と試合が執り行われていく。
内容はあっさりと勝負がつく感じのものが大半だった。
「成績で対戦相手はコントロールしてる感じか」
パワーとスタミナを見れば、大雑把な実力は測れる。
どうやら強い奴同士が当たらない様、コントロールされている様だ。
ま、優秀な奴を取るための入団試験でつぶし合いはさせんわな。
「214番、アドン・クリストン」
「はい」
俺の番が回って来る。
対戦相手は――
「ちょっと前の試験二つで、いい成績を残したからって調子に乗るなよ」
絡んで来た一団の、取り巻きの一人だった。
「俺はハブン子爵様の所で剣術の稽古を受けてるんだ。お前なんかここで終わりだ」
ハブン子爵家。
代々騎士を輩出している武闘派の家柄で、当主の三人の息子の内、上二人はこの地極騎士団に所属している。
という事は、リーダーのあいつが三男って事だろうな。
成程。
ハブン家の人間なら、あの年にして大したパワーなのも頷ける。
「それでは試合を開始する。準備は良いな?」
「はい」
「はい」
「では試合開始」
審判の合図とともに、相手が突っ込んで来た。
ハブン子爵家で手解きを受けていると言っていただけあって、子供にしては動きはいい方だ。
が、まあもちろん俺の敵ではない。
「おらおらぁ!」
此方からは攻撃はせず、適当に相手の攻撃を木剣で受け止める。
恥をかかせるために一撃であっさり倒す事も出来たが、生意気とは言え相手はガキだ。
そこまで大人げない事をするつもりはない。
「へっ!俺の攻撃に手も足も出ないみたいだな!!」
数合受けてやったら、どうも自分が圧倒していると勘違いしてしまった様だ。
調子に乗って大上段から大振りの攻撃を仕掛けて来る。
「アホか」
俺はそのがら空きになった腹部に、素早く木剣を叩き込む。
怪我しない程度に手加減して。
まあ
「ぐぇあ……ぐ……そんな……」
俺の一撃を受けて、ガキが腹を押さえてその場で蹲る。
「勝負あり。勝者214番、アドン・クリストン」
ま、対戦相手が悪かったな。
まあ次回頑張れ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます