第11話 恩義

正直、第二王妃である母親とは親愛を感じるほどの間柄ではなかった。

半身が生きたままこの世界に来た事と、関係がドライだった部分が大きい。


だが……それでもショックは隠せなかった。


「ふぅ……一体どこのどいつがやりやがった」


お触れには、第二王妃の息子である第三王子――転生した方の俺を毒殺しようとしたのが、第一王妃だったと記されていた。

そして第二王妃ははは息子の仇を取るため、第一王妃と、その子供である第一王子を暗殺し、その咎で処刑されている。


……ハッキリ言ってありえない。


俺も20年以上生きているので、他人がどんな目で自分を見ているかは分るつもりだ。

俺の目から見て、母は俺に対し、親子の愛情など持ち合わせてはいなかった。


まあひょっとしたら少しぐらいはあったかもしれないが、どちらにしろそれは希薄な物でしかない。

だから息子が毒殺されそうになったからといって、リスクを負ってまでその復讐する可能性は低いと言わざる得なかった。


「……」


勿論、王位につけようとしていた息子をダメにされて、自分の目的を邪魔された事に腹を立てて凶行に及んだという可能性も0ではないが……俺の知る限り、母はそんな単純で直情的な人間ではなかった。


つまり、誰かに嵌められた可能性が高いという訳だ。


「この一連の騒動で一番利を得たのは……」


――第三王妃と、その息子の第二王子。


第三王妃は伯爵家の出で、その後ろ盾は侯爵家であった母と第一王妃に劣る。

そのため第二王子は、王位継承権争いにおいて3番手という立ち位置だった。

順調に進めば、まず王位を手にする事はなかっただろう。


だが……1番手と2番手が揃って脱落した事で――まあ2番手の俺はまだ死んでいないが――一気に王位継承候補筆頭に躍り出ている。


普通に考えれば、第三王妃が黒だ。


「だけど……第三王妃――伯爵家に、それが可能だったかは甚だ疑問が残る」


権力と言うのは、行ってしまえば影響力だ。

そして影響力は、そのままダイレクトにやれる事の範囲に直結していた。


第三王子おれを毒殺し、ついで第一王妃親子を暗殺。

更にその罪を第二王妃ははに被せる。


果たして伯爵家の限られた手札で、それだけの大事をやり遂げる事が本当に可能だろうか?


不意を突いた俺の毒殺ぐらいなら、頑張ればできたかもしれない。

だが第三王子に毒が盛られるなんて事件が起これば、間違いなく第一王妃も警戒したはず。


その警戒していた相手を暗殺し、母に罪を被せる。

そんな真似を、伯爵家の力で行うのは少々無理がある気がしてならない。


「黒幕は他に誰か……伯爵家に手を貸した人物がいると考えた方が無難か」


パッと思いつくのは、この国にある三つ目の侯爵家、もしくは公爵家だ。


どちらか片方。

もしくは、両方が伯爵家に手を貸して今回の騒動を……


「……まあ、考えてもその辺りは答えが出ないか」


部外者である今の俺では、少ない情報から推測する事は出来ても、犯人を特定するのは不可能に近い。

今目星を付けた公爵と侯爵家も、果てしなく怪しいというだけで、どちらも実は外れているという可能性だって考えられる。


「仇を討ってやりたい所だが……」


俺の半身が毒殺された程度なら、まあ仕方がないと流していただろう。

そっちが駄目でも、こっちの体がある訳だからな。

そこまで拘るつもりはなかった。


だが……母親が殺されたなら話は別だ。


俺は第二王妃である母に、親子の情愛と言う物をほとんど感じていなかった。

母の態度がドライだったのもあるが、転生前の記憶と体を持って活動できていたというのが大きい。


だがそれでも、俺の半身をこの世界に生んでくれた人物には変わりない。

そう言う意味で、俺は彼女に借りがあるのだ。

だから仇を討ってやりたい。


所なのだが……


今のままでは、それを果たす事は難しいと言わざる得なかった。


「しょせん部外者の、ただの冒険者に出来る事なんて限られてるからなぁ」


チートがある事を考えても、犯人を特定する事すら難しいだろう。


「仇討ちするには、再起して王位争いに復帰するしかないよな」


復讐には、半身の再起が必要不可欠だ。

王位継承に再び食い込んで行けば、俺を排除したがっていた相手が再び動いて来るはず。


そこを返り討ちにする。

恐らくそれだけが、確実な報復の手段となるだろう。


「問題は、再起できるかどうかだ」


既に3か月、もう一つの体は意識不明のままである。

最悪の場合、このままずっと目を覚まさないままという可能性もありえた。


「というか、その可能性の方が高いわな」


3か月も経って回復の見込みがないのなら、そこから意識を取り戻す可能性はどう考えても低い。

侯爵家ははのじっかも、もう諦めていてもおかしくはないだろう。


「毒について、一応自分で調べてみるか」


今までは、自分で出来る事は何もないと場の状況に任せていた。

だが今のまま放置しても希望が薄い以上、ダメ元でも自分で動くしかないだろう。


「解決方法が見つかってくれればいいんだが……」


俺は毒について調べるため、早速部屋を解約して王都へと向かう。

情報を得るのなら、人や物が集まる場所が良いからだ。


とにかく、自分が生きている内に解毒方法を見つける。


そう急いで毒について調べ始めた俺だが……その成果はまるで出る事無く時間だけが無駄に過ぎ去っていく。

冷静に考えれば当然だ。

専門家でもない人間が、少し調べた所でどうにか出来る訳もない。


そこで毒を調べる事を早々に諦め。

俺は別の方向でアプローチする事に決める。


それも相当時間のかかる物だったが、幸いな事に俺の半身は意識こそ戻らなかったものの、死ぬ事無く長く生き続けてくれた。

自分のしぶとさに、乾杯である。


――そして毒で倒れてから5年。


――ついに、俺の半身が目覚める時がやって来た。

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