第10話 お触れ
もう一つの体が毒にやられて、じき3か月経つ。
「まだ死んではいないとはいえ……」
肉体が死んでいない事は感覚で分る。
根本が繋がっているためだ。
だが肉体へのアクセスは、未だシャットされたままだった。
「全く、どんな毒盛られたってんだよ……」
俺は宿のベッドから起き上がり、服を着替える。
室内を出た俺は、一階のレストランで軽く朝食を摂った。
「ふー、美味かった」
このレストランは値が張るが、どれも文句なしの味をしていた。
流石高級店である。
――今俺が滞在しているのは、街で一番の宿だ。
仮にも上から3番目のランク、
それ位のぜいたくは出来るさ。
実はこの前の2段変異種の一件で、俺は
オークエンペラークラスの化け物を単独で狩った事が、相当評価された様だ。
「さて、ギルドに行くか……」
毒で意識のない自分の事を考えていても仕方がない。
どうせ何もできないのだから、なる様になるだろう。
「そういや、俺が毒を盛られたって話は聞かないよな……」
仮にも第三王子が毒を受けて昏睡しているのに、周囲ではそういった話を全く聞かない。
勿論、国からの発表も無しだ。
……まあ、王家の人間が毒を盛られたなんて醜聞だから、隠してもおかしくはないか。
「ほんっと、しっかり治療頼むぜ」
ランクもダイヤモンドまで上がり、此方の体の生活水準も相当高くなってはいる。
だがそれでも、王子の体に比べれば鼻糞の様な物だ。
チートの事もあるし、何としても復活して貰わないと。
「――っ!?」
冒険者ギルドの前に、国からのお触れが張り付けられる立札がある。
俺はそこに張ってある内容を見て、目を見開いた。
――そこには、第二王妃の処刑が記されていたからだ。
罪状は、第一王子と第一王妃の暗殺である。
「……」
何故第二王妃がそんな凶行に及んだかも、そこには記されていた。
俺は黙ってそれを読む。
「おはようございます!」
お触れを呼んでいると、背後から元気な声を掛けられる。
振り返るとそこにはペンテが立っていた。
「ああ、おはよう」
「スバルさんも依頼を探しに来たんですか?」
「いや、ちょっと立ち寄っただけだ」
ギルドで仕事を受けるつもりだったが、もうそんな気分ではなくなってしまった。
「あの……なにか、ありました?」
ペンテが俺の顔を見て、そう聞いて来る。
どうやら表情に出てしまっていた様だ。
「ああいや、気にしないでくれ。ちょっと考え事をしてただけだ」
「そうですか。立札を見てたみたいですけど……って、ええっ!?これ、大事件じゃないですか!?」
ペンテが立札の内容を見て、驚いて大声を上げる。
王家のスキャンダル的な暗殺劇。
確かに、大事件といっていいだろう。
「王家って、怖い所なんですね」
内容を読んだペンテは顔を顰めている。
王位継承にまつわる醜い殺し合い。
決して読んで気分のいい内容ではないので、その反応は当然の物だ。
「そうだな……俺は用事があるから、これで失礼させて貰うよ」
「あ、はい。ではまた……」
俺はペンテと分かれ、宿へと戻る。
そしてベッドの上にその身を投げ出し、なんとなく片手を天井へと向けた。
「ありえねぇだろ……」
俺は一人、自分の母親の顔を思い浮かべた。
この世界で生まれた体の母親。
処刑された第二王妃、ガーネットの顔を。
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