第6話 厚かましい

豚の様な顔をした、人型の緑の巨体。

それがオークの特徴だ。


「オークです」


森の中にあるオークの集落近く、疾風のメンバーが魔物を発見して伝えて来る。

俺はそれに、もっともらしい顔で頷いて返した。


ま、大分前から俺は気づいてたんだけどね。

サーチあるし。


「3体か……俺が全部やるから、テメーらはここで待ってな」


オーグルがはそう告げると、こっちの返事も待たずに勝手にオークに突っ込んでいく。


周囲と連携を取る気は全くなさそうだ。

まあ性格が悪いとはいえ、奴はプラチナランクだからな。

単独でも、オーク3体ぐらいは軽く蹴散らせるだろう。


因みに、オークは決して弱い魔物ではない。

ゴールドランクあたりだと、1対1でも楽勝とはいかないレベルだ。


「速ぇ……流石プラチナランクだ」


「同じ人間とは思えないわ……」


オーグルは右手にショートソード。

左手にナイフのを持つ、二刀流のスピードタイプだ。

彼は木々の間を音も無くすり抜け、手前の一匹に背後から近づいてその首元を容易く切り裂いて始末する。


その鮮やかな動きを見て、疾風のメンバーが感嘆の声を漏らした。


……スピードは流石だな。


2匹、3匹目と、苦も無くオーグルは仕留めていく。


けど、技術面は荒く感じる。

完全にスピード頼りだ。


現在が実力の7割しか出していないと想定して……もしあいつと俺が戦えば、ほぼ5分といった感じだな。

もちろん、それは転移無しで戦った場合の話だ。

それを縛らないというのなら、まあ楽勝だろうが。


ぶっちゃけ、目の前の敵がいきなり背後にとかなると、余程の達人でも無いかぎり対処不能だからな。


「へっ、どうだ?」


オークを始末したオーグルが、ドヤ顔で戻って来る。

正直、どうだと言われても、普通としか返しようがない。

プラチナへの昇格条件を考えると、あれぐらい出来て当たり前の範囲なのだから。


「オーグルさん!凄いです!」


「さっすが、電光の二つ名は伊達じゃありませんね」


まあとは言え、シルバーやゴールドランクである疾風の面々の評価は、当然俺とは別だ。

彼らは戻って来たオーグルを持て囃す。


「あの程度じゃ、肩慣らしにもならないぜ。誰かさんはどうか知らないけどな」


奴はそう言いながら、此方を見て来る。

やっすい挑発極まれりだ。

ちょっとイラっとはしたが、スルーしておく。


「……」


その後、俺達は2度ほど――合計3回オークと遭遇する。

2度目は俺が自分から買って出た。

そして3度目は、疾風の5人が自分達もという感じに。


「疾風もなかなかやるな」


オークを倒し終えた疾風に、俺は声をかける。


「へへへ、ありがとうございます」


疾風の面子は個人の能力こそ高くはないが、その連携は中々の物だった。

オーク討伐の依頼を受ける際に優秀だと聞いていたが、その言葉に嘘偽りはなかった様だ。


「こいつは……居やがるな」


オーグルが口の端を歪め、嬉しそうにそう呟く。

居るというのは、恐らくオークの変異種の事だろうと思われる。


――魔物は極稀に、変異する事があった。


「みたいだな」


オークは集落なんかを作って、集団で生活する習慣がある。

だがその知能は低く、行動する際は単独で動く事が多い。


まあもちろん集団で動く事もあるが、大体その数はバラバラだ。


だが、今回俺達が遭遇したオークは全て揃って3匹組。

それにその動きは、オークの集落周り――位置は魔法で事前に分かっている――を巡回している物だった。


知能の低い魔物が統率だった行動をしている。

それはつまり、オークの中に知能の高い変異種――統率者がいるという事の表れだ。


「おいスメラギ。変異種キングは俺がやる。テメーは手を出すなよ」


オーグルが、変異種は自分が始末すると言い出す。

当然それはメリットありきの主張だ。


メリットは二つ。


変異種は、ノーマルな物よりかなり強い。

だがその強さに見合った、いや、それ以上の経験値を手に入れる事が出来た。

つまり、倒せれば美味しい魔物と言う訳だ。


もう一つは箔である。


強い魔物を単独で倒せば、冒険者として箔が付く。

ドラゴンスレイヤーなんかは、その最たる例だろう。


まあオークキングはドラゴンの様な圧倒的強さはないが、それでも強い魔物である事には変わりない。

奴はその討伐の手柄を、自分で独り占めしたいのだ。


「厚かましい話だな。けど、今回は年長者の顔を立ててやるよ」


経験値は少し惜しいが、今回は素直に譲ってやる事にする。

奴にとってプラチナランクはほぼ最終到達点だろうが、チート持ちの俺はもっと上のランクを目指せるからな。

オークキング討伐の肩書程度、有難がる必要はない。


「良く分かってるじゃねぇか。ははは」


俺の返事に、オーグスが機嫌よさげに笑う。


……ま、小物らしく精々オークキングでも狩ってキャッキャしてろよ。

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