無敵のダブルボディ~なんか二人の神様にそれぞれ転生と転移を同時に施されたたせいか、体が二つになりました。当然加護も2倍。成長も2つの体で共有~ 

まんじ

第1話 転生&転移

「アドル」


気づいたら赤ん坊だった。

目の前では赤い髪をした、優しそうな女性が微笑んでいる。

どうやら俺の母親の様だ。


俺は抱きかかえられており、周囲には大量のメイドさんが数人立っている事が分る。


今度の人生・・・・・は王族だった。


――そう、俺は転生者だ。


――と同時に、転移者でもあった。


「どこだここ?」


転生した俺とは別に、転移させられたもう一人の俺は、見た事もない森の中に立っていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


俺の名は双星昴そうせいすばる

神の手違いで死んでしまった存在だ。


そんな俺の目の前で、二人の女神が言い争っていた。


「このまま転生させるべきよ!生き返らせて異世界に送るなんて、そんなの労力の無駄よ!」


「記憶を持ったまま0から赤ん坊をやりなおすのは、彼にとって苦痛でしょう。私達のミスなのですから。元の世界では無理ですが、それでも元の体で生きていける様にするべきです」


俺を転生させるべきと力強く主張する、大胆な衣装を身に纏った怪しく美しい黒髪の女神。

蘇生してから転移させるべきだと言う、清廉な美しさを持つ白髪の女神。


「転移すべきです」


「絶対転生よ!」


俺の魂を回収した二人の女神は、説明の途中から、その後の補填をどうするかで急に揉めだしてしまう。

そんな二人のやり取りを、俺は黙って見つめる。

まあ神様の揉め事なんかに、ただの人間じゃ首の突っ込みようもないからな。


「ふん!頑固ね!こうなったら強引に!」


黒髪の女神が俺に手を向ける。

その掌には、黒い魔法陣が浮かんでいた。


「させません!」


それに対抗するかの様に、白髪の女神も俺へと手を向ける。

其方には白い魔法陣が。


「加護を上げるわ!喜んで転生なさい!」


「急で申し訳ありませんが、貴方を蘇生して新たな世界で生活できるようにいたします。どうかご容赦を」


黒い閃光と、白い優しい光が俺を包み込む。


それは俺を二つに引き裂き――


割かれた片割れは、異世界の王族へと転生し。

そしてもう片方は、蘇生した肉体に戻され異世界へと転移した。


――2人の人間として異世界へと送られてしまう。


◇◆◇◆◇◆◇


「しかし……何とも言えない不思議な感覚だな」


赤ん坊に生まれ変わった自分と、蘇生して転移した自分。

俺の中にはその両方の感覚があった。

不思議なのはその状態でも、両方とも問題なく体を動かせる事だ。


急に体やその感覚が二倍になったら、普通は処理しきれずに混乱をきたす物である。

だが、俺にはそう言った感じは一切なかった。

片方が赤ん坊の状態で殆ど何も出来ないという分を差っ引いても、全く問題が無い様に思える。


……取り敢えず、街を探すとするか。


転移した体の方の初期スタート地点は森の中だった。


何でこんな辺鄙な場所?と、思わなくもない。

まあ何となくだが、別の女神と争った結果なのだろうかなと、個人的には予想する。

干渉しあってずれたって感じで。


「取り敢えず、北に進めば町がある筈」


白髪の女神が施した転移の魔法には、この世界の情報が込められていた。

そのお陰で、少々大雑把にだがこの世界の情報は把握できている。

今の自分の位置もだ。


因みにこの世界の名はファーレス。

転生した方も、どうやら同じ世界の様だ。


「取り敢えず、加護を使ってと――」


この体に与えられた加護は三つ。


一つは言語チート。


どんな言葉でも、人間が使用している物なら瞬時に理解し、扱う事が出来るという物だ。

転生の方はともかく、転移に関しては言葉が話せなければ問題外だからな。

女神様も新たな世界で生活できるようにって言っいたし、当然と言えば当然の能力チートである。


もう一つは転移。


転移できるのは視界の範囲と、一度でも行った事がある場所限定となっている。

ラノベなんかでよくある、異世界チートの代表的な能力の一つだ。

これを使えば戦闘だけじゃなく、行商とかで生活費も稼ぐ事も出来るだろう。


そして最後が、今使った加護だ。


広域探索エリアサーチ

これは半径1キロ――円状の範囲の様子を、完全に把握できるチートだ。

地形は元より、そこに存在する生物などのサラっとした情報も確認できる。


サーチ内に居る魔物は5匹。


「ワイルドウルフ三匹に、角ウサギが二匹……と」


ウルフは集団行動をしている様で、名前の部分が赤く表示されている。

色は相対的な強さを表示する物で、赤は俺より強い事を示していた。


ま、素手の人間が狼より強い訳がないから当たり前だな。


角ウサギの方は、角の生えた兎だ。

説明文を見る限り、魔物だけあって普通のウサギより大きい様だ。

名前は青色で表示されている。


色は青が俺より弱い。

白は互角位。

で、赤は此方より強いという分類だ。


更に色の濃さで、その差も分かる様になっている。

オレンジに近い明るい赤より、血の様な鮮明な赤の方がより能力差は大きい。


「範囲内に町はないな。取り敢えず、北に向かって飛ぶか」


転移は一度行った事がある場所か、見える範囲にしか飛べない様になっている。

そのため、周囲に鬱蒼と木の生えた視界の悪い場所では余り長距離の移動は出来ない。


普通なら――


どうもエリアサーチで把握できている範囲は、見えている扱いの様だ。

スキルとしては相性抜群である

女神様もその辺りを考慮して授けてくれたのだろう。


俺は北に向かって転移を発動させる。


「一瞬だな。転移酔いみたいなのもなし、と」


移動は一瞬だった。

発動と同時に視界が暗転したかと思うと、景色が一瞬で森の外へと変化する。

凄くあっさりした感じだ。

これなら小説なんかである転移による酔いの様な事態は、まず起きる心配はないだろう。


「さて……んじゃ、もう一回」


エリアサーチからの転移を繰り返して、俺は近場の街へと向かう。

どうも両方とも、体力なんかを使ったりはしない仕様の様だ。

数度繰り返し、北にある街についた時点で――門は転移でスルーした――疲れは全くなかった。


「流石チート」


無消費なのは非常にありがたい。


「さて、金はあるし――」


腰に付いている革袋には金貨が詰まっていた。

女神さまがくれた軍資金って奴だ。


中身は金貨100枚。

日本円換算だと1枚で10万円ぐらいの価値なので、約一千万円相当という事になる。


これを元手に転移で行商をやるか、それとも高額な装備を買って冒険者を始めるか――


「ま、取り敢えず街中でも歩いて回るか」


何をするにしても、最初は街を闊歩して異世界の雰囲気を楽しむ事にする。

エリアサーチでただ情報を知るだけってのは、味気ないからな。


「じゃ、俺の新たな人生を楽しむとしようか」

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