第44話 母親たち(1)side総司母(暮内双葉)

『ああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!?』


 二階から総司の叫び声が聞こえて来たわね。

 うふふ・・・本当に仲良くなって。


「あ〜・・・お兄ちゃん叫んでるなぁ。お母さん、私も部屋に戻るね?その方が色々聞こえてきそうだし!」

「はいはい。あんまり盗み聞きしないようにね?」

「無〜理〜」


 瑞希はワクワクしながら2階に上がっていったわ。


 それにしても、思えば夫を亡くしてから、総司には色々苦労をかけちゃったわね・・・

 少しは報われて欲しいものだけど・・・


「それにしても・・・まさか、こんな事になるとは思わなかったわ。」


 目の前にいる、柚葉ちゃんのお母さん・・・清見きよみがそう呟いた。


「・・・ホントね。こんな風に集まる事になるなんて・・・ね。」


 翔子ちゃんの母親である翼もそう同意する。


「それはこちらのセリフよ・・・あなた達が総司くんを取り巻く女の子の母親だなんて・・・思いもしなかったわ。」


 これは黒絵さんの母である、葵の言葉。


「どう思います?双葉?」


 清見が、私を懐かしい呼び名で呼んだ。

 そう、私はこの三人と同じ高校の一学年上の先輩だった。


 切っ掛けはなんだっただろうか・・・

 

 ・・・そうだ。

 思い出したわ。

 生徒会だったわね。


 夫のあの人が生徒会長で、私は副会長。

 清美が庶務、翼が会計、そして、葵が書紀だった。


 そして・・・夫を取り合った仲だったわ。


「・・・懐かしいわね・・・面白い符合だと思うわ。」

「何がです?」


 葵が不思議そうにそう聞いてくる。


「だってそうじゃない?私と同級生だったあの人、それを取り合う、あの人の幼馴染の清見と翼、中学校からの後輩だった葵、いまの総司の状況に良く似てるじゃない。」

「あはは!そうかもしれませんね?もっとも、葵はいち早く結婚したから、私達よりも先に子供を産んで、黒絵さんは総司くんの先輩になっちゃたけど。」

「何よ清見・・・良いじゃない。私は、後悔していないわ。今は夫にべた惚れだもの。」

「懐かしいわね・・・私と清見、葵、双葉センパイでいつも取り合ってたわね・・・あの子達のように、さ?」


 本当にそうだったわね・・・懐かしいわ・・・

 あの頃、ライバルが強力で大変だったけど、充実していた気がする。

 まさに、今のあの子達の様にね・・・


「まぁ、もっとも?結局センパイに持っていかれちゃったんだけどね?」

「そうよ。双葉先輩は上手く同じ大学に進んで、ちゃっかり入学後すぐに付き合っちゃうんだもんなぁ・・・」

「あれはズルいですよ・・・」

「な、何よ・・・良いじゃないの・・・」

「「「良くない!」」」


 翼、清見、葵はジト目で私を見るので、ついタジタジになってしまった。

 でも、


「「「「プッ!クスクス」」」」


 全員で一斉に笑い合う。

 いつもこんなだったわね。

 私達の青春は。


「はー・・・久しぶりにこんなに笑ったわ!それにしても・・・黒絵さんを初めて見た時には驚いたわ。葵の若い頃にそっくりだったんだもの。」

「それを言ったら、私だってそうですよ。柚葉さんも、翔子さんも、清見や翼にそっくりなんだもの。それに・・・総司くんも・・・」


 その言葉に、清見と翼、葵が暗くなる。

 

「・・・最初、道場で見た時には、気が付かなかったわ・・・でも、黒絵に目立ちたくなく思っているというのを聞いて、全部が終わってから見た、髪を上げたあの子の顔出ち・・・亮司さんにそっくりだった。最初は驚いたもの。」

「ええ・・・そうね葵の言う通りだわ。私も久しぶりにそーちゃんに会ったけど・・・本当に良く似ているわ・・・」

「・・・総司くん、なんで目立ちたくないなんて言るんです?普通にしていればモテそうなのに。もしかして・・・亮司さんが亡くなった事に関係が・・・?」

「あ、それ、翼と同じで私も知らないのよ。総司くんに聞くわけにもいかなかったし・・・先輩、教えて頂けますか?」

「・・・そうね。清見は知ってるけど、離れていた翼と葵は知らないものね・・・話すわ。亮司は殺されたの。あの、庄司に。」

「・・・庄司・・・あいつか。」

「・・・あの人が亮司さんを・・・」


 清見は目を伏せ、葵と翼は憎々しげな表情になる。


 全てはあいつが元凶だった。

 あの、傲慢で我儘、子供のまま大人になったあいつの。

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