閑話 嘘から出た真 side黒絵
「あら?黒絵、何か良いことあったのかしら?」
「いいえ母上。」
「珍しいな。お前が浮ついているのは。」
「そうでしょうか父上?」
ワタシは、金曜の夜からご機嫌だった。
何せ、明日はいよいよソウが自宅に来るのだ。
思えば、あいつと出逢って既に二年以上たつ。
もっとも、ここ一年は話はしていなかったが。
だが、今回の件と・・・後は上手く立ち回れば、あいつに目立たないように生きる事を撤回させ、関係性の向上をさせられるかもしれない。
ウキウキするとは、こういう気分の事を言うのだろうか・・・
あ、そうだ!
「父上、母上、明日お時間いただけるでしょうか?」
「ん?何かあるのか?」
「ええ、珍しいわね。」
「はい。実は明日紹介したい者がいるのです。」
ワタシがそう言った瞬間、父上と母上の顔が少し強張った気がする。
何故だろうか・・・
「・・・それは・・・」
「黒絵・・・それはもしかして、男の子?」
「はい。」
「「・・・」」
「?どうされました?」
「いや・・・そうか。」
「あなた・・・」
父上と母上が顔を見合わせ目で会話している。
・・・もしかして、ワタシが彼氏を作ったと分かったのかもしれないなコレは。
偽ではあるがな。
まぁ、良い。
いずれは通る道なのだ。
「で、よろしでいでしょうか?」
「・・・うむ。」
「あなた・・・良いの?」
「仕方があるまい・・・ボソッ(先送りにして来たツケなのだろう・・・)」
「ボソッ(・・・そうね・・・)」
何か小声で話し合っておられるが・・・まぁ良い。
今の所、策は順調だ。
ソウを偽の彼氏として紹介し、今後も上手く関係を保持すれば、『黒蜂』と『クレナイ』では無く、黒絵とソウとして新たに関係を上書き出来るだろう。
そうすれば、また、一緒にいられるかもしれない。
そのために、ありもしない婚約話をでっちあげたのだからな。
・・・あいつの優しさに漬け込むようで、気が引かないわけでは無いが・・・あいつが言った事を実行出来ていない事が悪い!!
だいたい、完全に関係を断つ事に、どれだけの意味があると言うのか!
この際、その辺りをしっかりと改めてもらわねばな。
・・・何せ、今あいつの周りにいるのは、いずれも危険な女ばかりだ。
どいつもこいつも、その辺にいる女よりも明らかに容姿が優れている。
まったくけしからん!
お前の側にはワタシがいるだろうが!
決して、彼女らにワタシが劣っているとは思わん。
くくく・・・楽しみだ。
そんなワタシの思惑は、粉々に打ち砕かれてしまった。
「我が道場には一つ決まりがあってな。跡取り娘には門下生の中から相手を選ぶ事になっている・・・道場主がな。」
「黒絵は知らなかったものね。だから貴方の相手はもう決まっているのよ。暮内くん、申し訳ないけど、別れてくれるかしら?」
父上と母上が何を言っているのかわからなかった。
いや、理解したくなかった。
そんな話は・・・今まで一度も聞いていない!
「ちょ、ちょっと待って下さい!そんな事・・・」
しかし、父上と母上は聞く耳を持ってくれない。
「黒絵。もう少し跡取り娘としての自覚を持て。」
「そうよ?暮内くんが悪いとかそういう事じゃないの。もう、決まっているのよ。」
「そんな・・・」
ワタシは『クレナイ』との別れ以来の絶望を感じさせられた。
涙が出そうになってくる。
これは罰なのだろうか・・・
嘘をついて、ソウを騙したバチが当たったのか・・・
何もこんな事を本当にしなくても良いじゃないか!
好きな人と一緒になろうとして何が悪いというのか!!
ようやく・・・ようやくソウとの関係を戻せると思ったのに・・・
しかし、
「待って下さい。それは、どのような理由で決められているんです?」
ソウが父上と母上に待ったをかけた。
「・・・先程言った通り、強い子孫を残す為だ。だから、弱いものでは務まらぬ。門下生であれば、強さには申し分ない。」
「なるほど・・・じゃあ、その相手より、俺の方が強かったら問題無いって事ですね?」
「むっ・・・」
「あら・・・?」
ソウがワタシを助けようとしてくれている。
・・・ソウはおそらくワタシの嘘の台本通りにしてくれている。
それでも・・・
「・・・中々良い性格をしているようだな。」
「そりゃ勿論。あなたの娘さんが選んだ男ですから。」
「・・・ソウ・・・」
強面の父上に噛み付いてくれている姿は、胸が締め付けられる。
そうしている間にも、話は進み、ソウは門下生代表・・・あの、いけ好かない奴と戦う事になった。
あの男は、確かにそこそこ強いが、傲慢な上、気持ちの悪い目でワタシを見てくる。
以前、他の門下生と話しているのがたまたま聞こえた事がある。
『にしても、お嬢さんはやっぱり綺麗ですよね!その辺のモデルやアイドルなんて、目じゃないくらい!出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでるし!』
『まあな。確かにそうだ。あの強さだし、普通に手を出せばボコボコにされるが・・・まぁいずれは俺のモノになるんだけどな!そしたら毎晩可愛がって、あの身体を好き放題にさせて貰うぜ!』
何を
悔しくて涙が
しかし、それはすぐに驚きに変わった。
そんなソウに、母上は立ち会いを止めるように言ったが・・・
「そうでしょうね。でも、それこそ俺の勝手ですよ。最愛の彼女と別れさせられるかどうかの瀬戸際でしょう?意地の一つも見せないと。」
「・・・後悔するわよ?」
「させてみて下さい。出来るなら。」
そんな風に言ってくれたソウ。
ソウの表情を見ていればわかる。
あれは、台本通りとは言え、心からワタシの為を思っての言葉だ。
・・・ワタシにはわかってしまうのだ。
それに・・・
「・・・ソウ・・・最愛って・・・」
柄にも無く、胸に響いてしまった。
・・・やはり、ワタシはソウが良い。
ソウじゃなきゃ嫌だ。
ワタシは決意をした。
考え難い事ではあるが、もし、ソウが負けたり、父上や母上が約束を反故しようとしたら・・・ワタシは家を出よう。
ワタシであれば、どこでも食べていけるくらい稼げる能力はある筈だ。
そして、ソウと一緒にいるのだ。
死ぬまで一緒に。
だから、ソウ。
もし、万が一があれば・・・ワタシも共に戦おう。
・・・例え、両親が相手になったとしても、な。
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