第35話 北上 黒絵(5)side黒絵

 また、つまらない日々が始まる。

 学年が上がり、ワタシは高校二年生になった。


 当時生徒会に入って、書紀となっていたワタシは、入学の挨拶を壇上で聞いていた。

 新一年生を見下ろしていると・・・驚愕した。

 

 そこには・・・『紅いの』が居た。

 向こうも驚愕の目でワタシを見ていた。


 また会えた!

 そう思ったのも束の間、すぐにあいつの言葉を思い出した。

 目立たずに生きる、と。


 あいつは、約束を破るような男では無い。

 自分で言った事を曲げるような男でも無い。

 だから、ワタシには近づかないだろう。


 とても悲しくなった。


 いつしか、その事を考えないようにするようになった。


 しかし、現実は無情なものだ。

 校内でたまに見かけてしまう。


 その度に目で追ってしまう自分が嫌になる。

 

 あいつは宣言通り、目立たないよう、絵に書いたような陰キャを演じていた。

 邪魔は出来ない。


 ワタシは、どうしても見た目なんかで目立ってしまう。

 ワタシが近づけば、彼の生き方を邪魔してしまう。


 更に学年が上がり、三年生となった。

 ワタシは生徒会長となっていた。


 人はワタシの容姿や能力を褒め称える。

 しかし、何も響かない。

 見たくれなんかじゃなく、心を好きになってくれたのはあいつだけだった、と思う。

 直接は聞いていないが、多分そう、いや、絶対そうだ。

 そうでは無かったら許さん!


 だから、どれだけ告白されても、誰とも付き合う事は無かった。


 そんな時だった。


 あいつのクラスの西條という女生徒が、突然変わったと生徒会のメンバーが話していた。

 曰く、モデルの様に綺麗なギャルだと。

 そして・・・何故か陰キャの男と仲が良いと。

 嫌な予感がした。

 そして、それは的中する。


 2人で帰るのを目撃してしまった。

 そして、それは更に続く。


 今度は、美少女で有名な、南谷という生徒に懐かれていると聞いた。

 そして、またしても目撃してしまう。

 朝、登校時に、凄く親しげに!


 ブチギレそうになった。

 今すぐ殴り込みに行って、思いっきり殴ってやろうかと思った。

 

 どんな気持ちで、ワタシが身を引いたのか、忘れてるんじゃないだろうな!!

 ふつふつと燃え上がる気持ちを、無理やり押さえつける日々。


 そして新学年も一ヶ月近く経つと・・・更に増えてるだと!?


 今度は新入生のクールビューティと呼ばれていた女の子だ。

 ちょうどその子に用事があって生徒会のメンバーで探していたら・・・あいつと教室にいた。

 それに、西條と南谷も。

 ・・・やっぱりキレていいだろうか?


 ・・・だが、元気そうなのが見られて良かった。

 思わず微笑んでしまった。


 その後、生徒会として、その子に聞き込みをする。

 『セロス』の件だ。

 間近で見たからクールビューティの可愛さがよく分かった。

 こんな可愛い子があいつのそばに…腹が立つ!


 ワタシは、『セロス』が『クレナイ』の名を利用している事が我慢できなかった。

 潰してやろうと思っていたら、さる筋から、あのクールビューティはあいつの幼馴染みだと聞いた。

 ・・・間違いなく助けにいくだろう。

 あいつの性格ならば。


 ワタシは、こっそりと生徒名簿であいつの家の住所を確認し、張り込み、助けに行くのを尾行した。

 ストーカー?

 なんの事だか。


 物陰に隠れて、あいつの戦いを見る。

 おお・・・ブチ切れてるな。


 ん?あれは・・・

 あいつにいつもくっついている西條と南谷を見つけた。

 2人が人質に取られてしまう。

 ・・・仕方がない。


 ワタシは助けに入った。

 あいつと目があう。

 ・・・変わらないなあいつは・・・カッコイイよやっぱり。

 ひらひらと手を振りその場を後にする。


 ・・・やっぱりこの気持ちは捨てられない・・・

 どうせあいつは律儀に礼を言いに来るだろう。


 約束を破るのを嫌うあいつが、自分の言った事をひるがえしても。

 だから・・・人目につかない場所は提供してやろう。

 

 そう考えて、あいつが自分に言い訳し易いように、LINを送ってやる。

 ブロックされてなくて良かった・・・

 というか、こんなに尽くす女なのだぞ?

 ワタシは。

 もう、ワタシにしとけば良いのではないだろうか?


 まあ、そうはいくまいがな。

 少しだけでも話しが出来れば本望だ・・・

 この時はそう思っていた。



 そして週明け。


 三人が『紅いの』にくっついているのを見た。


 ワナワナと震えが来る。

 当然、怒りによるものだ。

 あの野郎・・・!!

 めちゃくちゃ目立ってるじゃないか!!

 

 もう我慢の限界だった。

 あいつが好き勝手するのなら、ワタシだってしてやる!!

 もう、あいつが目立ちたくないなんて言っても知った事か!!


 礼を受け取るだけのつもりだったが・・・気が変わった!

 こうなったら、思い知らせてやる!


 お前は目立たず生きるのは不可能だと!

 だから大人しく・・・ワタシのものになれ!とな!!

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