第4章 先輩も放っておいてくれない

第30話 黒蜂

「頼む!何も聞かず、今日の昼は自由にさせてくれないか!?」

「「「・・・」」」


 週明けの月曜日。

 結局何も思いつかなかった俺は、愚直に頭を下げる。

 これは昼休みに入った直後の事だ。




「そーちゃん!一緒にご飯食べよ?」

「総司先輩。一緒にご飯食べましょう?」

「・・・」


 クラスに押しかけて来た柚葉と翔子。

 俺は言葉も無い。

 だが、それ以上に・・・


「・・・あれって一年の・・・」

「クールビューティ・・・だよな?」

「・・・どうなってんだ?やっぱり噂は本当だったって事か?」


 周りのざわつきが凄い。

 思わず顔を顰める。

 そんな折り、


「はいはい。総司は私とご飯食べるから、あんた達はいらないわよ。」

「むっ!詩音ちゃんだけズルい!!」

「そうです!詩音さん!ちゃんと総司先輩に聞きましょう!どうですか先輩?良いですよね?」


 俺を取り囲む詩音、柚葉、翔子。

 だが・・・


「・・・いや、今日は都合が悪いんだ・・・すまん。」

「「「!?」」」


 俺の言葉に絶句する三人。

 そして、


「どういう事よ総司!?なんで!?」

「そうだよそーちゃん!なんでなの!?」

「先輩!どういう事ですか!?」


 うわぁ・・・なんて言えば良いんだコレ?

 でも・・・本当の事言えねぇしなぁ・・・


「総司!」「そーちゃん!「総司先輩!」

「すまん!」


 そして冒頭に戻るわけだ。

 なんとかコレで納得してくれないだろうか・・・


「・・・わかった。じゃあ良いよ。」

「シオン・・・ありが」

「その代わり、今度言うこと一つ聞いて貰うから!総司の部屋で!2人きりで!良いわね!」

「な!?」


 こいつ!?

 一体何を!?


「そんなのズルい!じゃあ私も!そーちゃんと二人っきりで!すっごい事して貰うもん!!」

「お、お前!?」


 マジで何言ってんの!?

 めちゃくちゃ誤解されるんだけど!?

 

「・・・部屋で2人きりで凄いこと・・・だと!?」

「それも南谷さんから!?普段から南谷さん達、何やってんだ!?」

「あいつ絶対陰キャじゃねーだろ!?」


 ほらぁ!!

 もう!!

 止めてよぉ!!


 ・・・いかん・・・焦り過ぎてオネェになってしまった・・・


「・・・なら、私は少し変えましょう。私は、私の家で良いです。その方がお母さんも喜びますから・・・色々と、ね?サービスするって言ってましたし。」


 おーい!?

 翔子!?

 いや、確かに言ってたけども!?


「な!?・・・親子丼・・・だと!?」

「ど・・・どこまで・・・?」

「・・・そりゃ西條さんが馬鹿にするなって言うわけだわ・・・俺達じゃとても太刀打ち出来ねぇ・・・レベルが違う・・・」


 完全に誤解されてる!?

 俺ヤリチンみたいに言われてんじゃん!!

 童貞ですよ!?


「総司!それで良いわね!!」

「わかった?そーちゃん!」

「総司先輩。楽しみにしてますね・・・色々と。」

「・・・わかり・・・ました・・・」


 それで納得して貰い、三人に見逃して貰えた俺は、トボトボと目的地に向かう。

 ・・・たった一回の礼の為にこんなに犠牲を払う事になるとは・・・

 はぁ〜・・・


 そして、俺は目的地に着く。

 入る前に気を引き締める。


 こいつに会う時は、俺ですら気合を入れる必要があるからだ。

 何度か深呼吸してからノックをする。


 コンコン。

 

「どうぞ。」


 声が聞こえたので俺はドアを開け中に入った。

 この場所は・・・この学校の生徒会室だ。

 俺が会いに来たのはこの中で待つ・・・目の前のこいつ。


「さて・・・久しぶり・・・で、良いかな?・・・『あかい』の。」

「ああ・・・久しぶり、だな・・・『黒いの』。」


 そこに居たのは・・・この学校の生徒会長、北上黒絵きたがみ くろえだった。


 この女こそ、伝説とまで言われるヤンキー狩り『クレナイ』と、唯一引き分けた者、『黒蜂』と呼ばれた女だった。

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