第17話 シオン襲来

『もうすぐ着くよ。』


 シオンから、そんなLINが送られて来た。

 住所を送ってあるから、迷うことはないだろうが・・・一応、外で待ってるか。


 今日、家には母さんと瑞希が居る。

 二人共わくわくとしているのが、肌で伝わってくる。


 ・・・どうやら、昨日の柚葉の言葉を鵜呑みにしているようだ。

 まったく・・・シオンとは出会ってそんなに経ってないんだぞ?


 そんなにすぐ好きになるわけ無いじゃないか・・・


 そんな事を考えていた時だった。


「総司!」


 シオンが姿を見せた。

 ・・・え?なんか凄く気合が入った格好してないか?


 今日のシオンは、いつものストレートの髪に、桃色のノースリーブのニット、黒色のロングのスカートだ。

 いつにも増して大人びて見える。


「おはよう総司!」

「あ、ああ、おはようシオン。なんというか・・・似合ってるな。女子大生みたいに見える。」

「本当!?気合入れて来たんだ!!」

「そ、そうか・・・まぁ良い。入るか?」

「うん!お邪魔しま〜す!!」


 元気よく玄関から入るシオン。

 その声を聞いて、母さんと瑞希がいそいそとやってくる。

 ・・・恥ずかしいからやめてくれないかな。


「あ!おはようございます!お邪魔します!西條詩音と言います!詩音と呼んで下さい!総司・・・くんのクラスメイトです。よろしくお願いします!」


 シオンの気合の入った挨拶に、母さんと瑞希は一瞬固まるも、すぐに表情を綻ばせる。


「・・・詩音さんね?元気が良いわね。それに・・・本当に綺麗ね。驚いちゃった・・・私は総司の母親です。総司の事は、いつもの呼び方で良いわよ?よろしくね?」

「・・・すっごく綺麗・・・確かに、柚ちゃんの言う通りだ・・・あの!私は妹の瑞希って言います!よろしくお願いします!」

「はい!じゃあ、いつも通り総司って呼ばせて貰いますね。それと・・・瑞希ちゃんね!総司に似ず可愛いわね!よろしくね?」

「おい・・・誰に似ず、だって?」

「総司に決まってるじゃない。あんたの顔じゃ怖いじゃないの。」

「・・・お前なぁ。」

「プッ!」

「くすくす・・・詩音さん、本当に総司と仲が良いのね?・・・これはどうなるか・・・わからないわね。」


 シオンの物言いに笑う瑞希に、まだ誤解している母さん。

 やれやれ・・・まぁ良い。

 どうせ、そんな幻想はすぐに打ち砕かれる。

 

 なんちゃらブレイカーなんて右手を使わずともな。


「さて、シオン。それじゃさっそく俺の部屋に行くか?それとも居間でみんなで話すか?」


 俺がそう言うと、シオンは考え込んだ。


「う〜ん・・・みんなでお話も捨てがたいけど・・・それは昼からでも出来そうだし・・・先にあっちを済ませとかないと、手遅れになりそうだしね。総司の部屋で!」

「わかった。」


 なんかするつもりなのか?

 まぁ良いか。

 取り敢えず2階に上がろう。


 俺の部屋に行くと、


「うわぁ!ここが総司の部屋なんだね!えい!」

「あ、こら!?」


 こいつ・・・いきなりベッドにダイブしやがった!

 服がしわになるぞ!!


「す〜〜っ!!はぁ〜〜・・・総司の匂い・・・」

「おい!嗅ぐな!いきなりの変態ムーブは止めろ!」

「酷い言い草ね・・・誰が変態よ。」

「お前だお前!現在進行形で匂い嗅いでるお前!!」

「いやあね。テイスティングと言ってちょうだい。」

「お前本当に何言ってんの!?」


 話が通じねぇ!!


「す〜・・・うん!堪能したわ!さて、本題に入ろうかしら。」

「やっとか・・・んで?話ってなんだ?」


 そもそも、こいつが話があるっていうから呼んだんだ。


「う〜ん・・・その前に、昨日、南谷さんがここに来たのは間違い無いわね?」

「あ、ああ。それは間違いない。」

「それで、何かしらのわだかまりは解けたと。」

「・・・まぁ、そうだな。お前のおかげらしいな。礼を言うよ。ありがとな。」

「そう。良かったわ。・・・で、ついでに告白でもされたのかしら?」

「っ!?・・・ノーコメント。」

「・・・やっぱりね。危なかった。」


 シオンはそう言って呟いた。

 何が危ないってんだ?


「ねぇ、一つ聞いていいかしら?」

「・・・なんだ?」

「総司は、南谷さんと付き合う気があるの?」

「っ!!・・・いや、今は考えていない。」

「好きなの?」

「・・・嫌いじゃない。」

「・・・そう。じゃあ、質問を変えるわね。私のこと、どう思ってる?」


 ・・・いきなりぶっこんで来やがったな。

 思い切りの良いやつだ。


「・・・仲の良い友だちだと思ってる。お前に提案された時には面倒くさいとも思ったが・・・今は、なって良かったと思ってる。」

  

 そう、そうなんだ。

 俺は、シオンとの今の感じを心地よく感じている。


「なるほど・・・じゃあ、今から言うことをしっかりと頭に入れておいて。」

「?何をだ?」


 そう言うと、シオンは深呼吸した。

 そして、しっかりと俺の目を見る。


「あたし、総司の事好きだから。」

「!?なん・・・だと?」

「ぶっちゃけ、性的な目で見てるから。」

「言い直すな!!てか・・・は?だ、だってお前、そういうのいらないって・・・」


 言ってたよな?確か。


「ええ、そう言ったわ。でも、そのすぐ後、あんたに頭を撫でられた時にはもう、ちょっと良いなって思ってた。」

「・・・」


 ・・・早すぎんだろ・・・


「あたしもびっくりよ。だって、初恋だってまだだったのに、いきなりだもん。そもそも、あんたと友だちになった時、どうやって男女の仲を意識させないでいようかって頭を悩ませたのが、一気に吹っ飛んだわ。まさかこっちが好きになっちゃうなんてね。で、それからあんたと過ごした短い期間だったけど、その間にもどんどん惹かれていったわ。」

「・・・お前、少しは隠す気無いのか?」

「無いわ。」

「・・・いや、ちょっとは照れろよ。こっちが照れるわ。」

「馬鹿ね。照れてる余裕なんて無いわよ。敵は強大なのよ?まさか、学年でも有名な可愛い子があんたの幼馴染みなんてね。禿げろ。」

「ヒデェな!?」


 そして口が悪い!

 気にしちゃうだろ!?


「だから、あたしは真っ向勝負に出ることに決めたわ。覚悟するのね。」

「・・・」


 こいつ、本当に強いな・・・

 友だちになる時だって、正体ばらした時だって、形振なりふり構わなかったし・・・


「それに・・・あたし気づいてるのよ?」


 にやっと笑って、ベッドの上に四つん這いになって、俺ににじり寄るシオン。

 その妖艶さに腰が引けてしまう。


「な、何をだ?」


 そんな俺を見て、ペロリと唇を舐めるシオン。


「あんた・・・あたしの事好きになりかけてるでしょ?」

「!?」

「違うなら違うでいいけど・・・ちょっときちんと判別して見ましょうか?」


 そのまま近寄ってくるシオン。

 少しづつ後退するが、壁際に追いやられる。


「な、何する気だ・・・」


 あかん・・・声が震える・・・

 近い!近すぎる!!

 鼻と鼻がぶつかるまで、後数センチまで近寄るシオン。


「・・・ねぇ・・・私の目を見てよ。」


 照れて顔を背けるも、手で戻される。

 恐る恐るシオンを見る。

 その目は潤んでいる。


「総司・・・私の事嫌い?」

「・・・き、嫌いじゃ、ない。」

「じゃあ好き?」

「・・・」

「ほら・・・ちゃんと教えてよ。あたしは言ったわよ?逃げるのかしら・・・クレナイさん?」


 その言葉に、負けん気が刺激された。

 しっかりとシオンの目を見る。

 ・・・心なしか、シオンの頬が赤く染まった気がする。


「ああ、逃げねぇよ。俺はお前に惹かれている、と思う。だが、同じくらい柚葉も心にいる。」

「・・・」

「俺が付き合うのは、惚れた相手だけだ。惹かれてるだけじゃ付き合わねぇ。」

「・・・そう。わかったわ。」


 シオンはそう言って離れた。

 そこで、初めて肩の力が抜ける。

 ・・・緊張した。

 喧嘩とはまた違った緊張感だったなぁ・・・


「うん。やっぱり見立て通りだわ。じゃあ、あたしのやることは一つだけ。総司を惚れさせる。総司、逃げないわよね。」

「・・・ああ、逃げねぇ。」

「じゃあ覚悟なさい。私は本気であんたを堕としに行くから!・・・多分南谷も、ね。」


 えらい事になった。

 おかしい・・・俺は無難に過ごすつもりだったんだが・・・

 学校でも綺麗な女子に、ここまでかまわれるとは思ってもいなかった。


「ふふふ・・・腕が鳴るわね!とは言っても、あたしも初めての恋愛ではあるのよね・・・どうしたら良いのかしら・・・よし!総司!まずは一緒にベッドに入ってみましょう?」

「アホか!!何考えてやがる!!」

「だって、添い寝してみたら何か変わるかも知れないじゃない・・・あ、もしかしてあんた・・・違う事想像しちゃったんじゃないの?この〜スケベ〜!!流石は童貞ね。」


 俺をニヤニヤしながら、肘で突いてくるシオン。


「う、うるせ〜!!俺だってそんな恋愛経験ね〜んだ!!童貞で悪かったな!!」

「あら、何言ってるのよ。むしろ、総司が童貞で良かったわ。だってあたしが初めての・・・そして最後の女になるのよ?こんな素晴らしい事無いわ。それに、私も処女だし。お互いの初めてを交換する・・・とても良いと思うわ。」


 ・・・こいつ・・・ぶれねぇ・・・


「ほら。早く来なさいよ。」

「ぜってー行かねぇ!ぜってーだ!!」

「もう・・・ヘタレめ。」

「・・・お前、そんな考えじゃ、そのうち、痛い目に遭うぞ?」

「何言ってんのよ。私は総司にしかこんな事言わないわ。だから、痛い目見る=勝利なのよ。・・・あら?悪くないわね。ほら、総司?おいで?」

「そんな見え見えの罠に誰が突っ込むか!早くベッドから降りやがれ!!」


 俺は無理やりシオンをベッドから下ろし、不満タレタレのシオンをなだめる。


 ・・・なんでこうなった?

 俺の、愛すべき何も無い穏やかな日々はどこに行ったのか・・・


 ピンポーン!


「お邪魔しま〜す!そーちゃん来たよ!!」

「っ!!来たわね!絶対負けないから!!」


 玄関が開く音と、柚葉の声、そして、気合いを入れるシオン。

 ・・・ホント、なんでこうなった? 

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