第2話 西條詩音(2)

「あ!?なんだお前!?」


 仲間の一人が凄んできた。

 俺は無言で近づく。


「てめぇ!!舐めてんのか?」


 男が俺のパーカーの胸ぐらを右手で掴んだ。

 なんだ。

 ただの馬鹿か。


「な!?痛てぇ!?やめ・・・がっ・・・」


 俺はその手を男の手首ごと、左手で固定したまま掴み捻ると、同時に体勢が崩れた男の顎を揺らすように掌打を打った。

 頭を揺すられて、膝から崩れ落ちた男の鳩尾を蹴り飛ばす。


「てめぇ!なにやってやがる!!おい!ぼさっとしてんな!!」

「この野郎!」

「殺すぞ!!」


 女子の手を掴んでいる男以外の三人が、一斉に襲いかかってきた。

 まず、最初に殴りかかって来た奴には、カウンターで頬を殴りつける。

 そのまま倒れる男を尻目に、蹴飛ばして来た男にはそのまま一歩ずれて躱し、股間を蹴り上げてやる。


「ぐおっ!?」


 そして動きが止まったところに回し蹴りを顎を掠めるように当て、二人目。

 

「な!?なんかやってる奴か!?だが・・・」


 最初に殺すぞと脅して来た奴がナイフを取り出した。


「嘘!?逃げて!!」


 女子が逃げるように促す。

 ・・・見た目はどうあれ、悪い奴では無さそうだ。

 

 俺はナイフを持っている男の手首を蹴り飛ばして、折ってやる。


「ぎゃああ!?」


 そして、落としたナイフを蹴って、手が届かないようにしてから、手首を抑えて悶絶している男の髪を掴み、引き上げて目を合わせる。


「お前こんな事してただで済むと・・・ひっ!?」


 凄もうとしていた男は俺の目を見て固まった。

 まぁ、目つきはきついほうだからな・・・俺。


「・・・殺すって言ったな。なら、お前も殺される覚悟は出来てんだな?」

「・・・そ、そんなもん・・・」


 何か言い始めた男の鼻と上唇の間に、特殊な握りをした拳で突きを入れた。

 人差し指と中指の第2関節を尖らせたもの。

 人中にモロに入り、男の前歯二本が飛び散る。


「がああああああ!?」

「次はどこがいい?何も言わないなら今度は・・・ここにするか。」


 男の足の甲を思い切り踏み抜く。

 ビキッと言う音。

 おそらくひびが入った。


「ぎゃああああああ!」

「さて、次は・・・」

「もう許して下さい!!お願いします!!」


 涙を流して叫ぶ男。

 スッと顔を寄せると、そのまま男の表情が引きつる。


「二度と顔を見せるな。」

「はい!」


 髪から手を離し頭を踏みつける。


「な・・・な・・・」

「・・・すご・・・」


 固まっている頭と言われていた男に近づく。

 目の前まで歩いて行くと、男はガタガタ震えだした。

 どうやら、力量差がわかったようだ。


「お、お、俺に手を出したらチームの奴が・・・」

「てっとり早い。今すぐ呼べ。」

「・・・はっ?」


 男は呆けている。


「っち!反応悪いなお前。面倒臭いからここで潰してやるって言ってんだ。さっさと呼べ!」

「お、お前なんなんだ・・・」

「なんだ・・・口だけか。まぁ良い。三秒で女から手を離せ。」

「何?」

「3、2、1、忠告はしたぞ。」

 俺は、女の子の手を掴んでいる男の手首を左手で掴み、そのまま右手をハンマーの様に振り下ろし、男の肘を折った。


「ぎゃあああああ!?痛えええええ!?」

「うるせぇなぁ?ちょっと黙れ。」


 俺はそのまま男の顎を突き上げるようにアッパーカットを打つ。


「がああああああ!?」


 そして、そのままローキックで太ももを蹴り、痛みでしゃがませた後、髪を掴んで地面に頭を叩きつける。

 勿論、殺す気は無いの手加減はしてある。


「なぁ・・・もうちょっと痛い目見るか?」

「〜〜〜!!か、勘弁してくれ!」

「なら、二度と俺に姿を見せるな。それとチームは何て言うんだ?」

「・・・」

「早く言え。嘘を教えたら・・・わかるな?何があっても見つけ出して責任を取らせる。」


 男の顔を地面にこすりつけると、男は泣き叫びながら答えた。


「わ、わかった!わかりました!チーム名はレッドクラウンです!本当です!」

「じゃあ、解散しろ良いな?次にその名前を聞いたら・・・このてめえの免許証の所に行くぜ?」


 俺は、足で男の頭を踏みつけながら、男のケツポケットから抜き出しておいた財布の中を確認し、免許証を取り出し、男に見せてから携帯を取り出し、写真を取る。

 男は顔面蒼白だ。


「ひぃ!?わかりました!もう二度と姿を見せません!!」

「・・・よし。ついでだ。この女にも二度と手を出すな。姿を見せるな。連絡もするな。こいつには後で連絡先を聞いておく。定期的に俺がこいつに連絡して確認するからな?わかったか?お前の名前で広く拡散しろ。手を出したら、俺が潰しに行くってな。」

「わかりました!」


 俺は男の頭から足をどけた。

 男は弾けるように俺から距離を取る。


「どうした?さっさと失せろ。それとも・・・まだやるか?」

「や、やらない!・・・目深に被ったパーカー・・・この強さ・・・あんたまさか・・・あのクレナイか?」

「・・・だったらどうした?報復するか?」

「い、いやそんな事はしない!あんたに潰されたチームや暴走族がどれだけあるか・・・だが、一年位前から噂を聞かなくなったから消えたのかと・・・」

「・・・おしゃべりがすぎるなぁ・・・あんまりうるさいと・・・」

「ひっ!?す、すみません!もう消えます!」

「おう、そこのゴミも拾って行けよ?それと、そいつらにも徹底させとけ。いいな?」

「はい〜!おい!お前ら!行くぞ!!」


 男たちが公園から消えた。

 俺は無言で立ち去ろうとした。


「ね、ねぇ!ちょっと待ってよ!!」


 俺は取り合わない。

 そのまま立ち去ろうとする。

 しかし、その女子は俺の前に回り込んできた。


「なんで帰るの?連絡先は?」

「・・・あれは方便って奴だ。ああ言っとけば、あいつらはあんたには手を出さねーよ。」

「・・・」

「じゃあ、俺は行くわ。やることあるんでね。それと、つるむ相手は良く考えるんだな。じゃあな。」

「待って!名前位・・・お礼くらい言わせてよ。」

「・・・いや、いい。そんなつもりで助けたんじゃない。礼を言うなら、もうちょっと良く考えて行動してくれ。」

 

 俺はそのまま歩き出す。

 しかし、その時、


「!?」


 女子が俺のフードを取り払った。


「・・・何をする?」

「ふ〜ん・・・そういう顔してたんだ。結構イケメンじゃん。」

「・・・」

「何よ。そんなに睨まないでよ。どうせ名前も教えてくれないんでしょ?これくらい良いじゃない!お礼を言うだけだから!助けてくれてありがとう!」

「・・・わかった。受け取っとくよ。じゃあな。」


 俺はその場を後にした。

 途中で上着とカバンを回収する。

 はぁ・・・やっちまったなぁ・・・まぁ良いか。

 どうせあの女子にも、あいつらにも二度と会わないんだからな。

 素顔を見られたのは失敗だったが・・・保険を掛けといて良かった。


 それより早く家に帰って夕飯作らないと!



 その時俺は気づかなかった。

 その女子が、俺の後をこっそりとつけていて、そこまでを見られていた事を。


「・・・え?あの制服・・・ウチの学校のじゃん。隠してたんだ・・・こんな所に・・・ってあれ?生徒手帳落ちてる。やっぱり同じ学校だ・・・あんな人居たかな?この生徒手帳あいつのだよね・・・え!?嘘!?」

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