弱いなりに楽に生きる

シヨゥ

第1話

「あーもう嫌だ。死にたい」

「またなにかあったの?」

 彼女との同棲が始まってから気づかされたこと。そのひとつが極度のネガティブ思考ということだ。これまでうまく隠せていたもんだと感心してしまうほどにネガティブだ。

「だってだって」

 泣きつく彼女をあやしつつ落ち着くのを待つ。彼女のネガティブはこのプライベート空間でのみ表に出てくる素の表情だ。嬉しいやら悲しいやら。こうやって抱きしめるのももう慣れた。

「落ち着いた?」

「だいぶ」

「じゃあ質問をひとつ」

 しかしこう何度も泣き顔を見せられるのは辛い。だから少しでも楽なってもらうためにも問いを投げかけることにした。

「質問?」

「そう質問。第一問。いやだと思っているのはだーれだ」

「……わたし?」

「正解。第二問。じゃあ死にたいと思っているのはだーれだ」

「わたし」

「正解。嫌だと思うのも、死にたいと思うのも全部自分なんだよ」

「うん」

「誰かに『嫌になれ』とか『死にたいと思え』とか命令されているわけじゃないんだ」

「そう、だね。でも、やっぱり人との付き合いの中でそう思っちゃうんだよ」

「それって付き合っている人から悪い影響を受けて、自分でそう思っているってことだよね?」

「うん」

「じゃあそう思わないために距離を取るっていう対策がある」

「でもそれって逃げじゃ」

「逃げちゃ悪いなんて誰も言わないよ。それにこうやって僕のところに逃げてきているだろう?」

「たしかに」

「心の穏やかに過ごすために逃げる。それは別に逃げじゃなくて対処なんだよ。無理に嫌な思いをする必要はないんだ。何事にも動じない強い心を持てるのが理想だと思うよ。でもそんなの全人類ができるわけじゃないからさ。弱い僕らは逃げて、離れて、寄り添って。少しでも楽に生きようよ」

 彼女ほどではないが僕も死にたくはなる。彼女が彼女だけに表に出せずにいるが思いは一緒なのだ。

「そうだね。ありがとう。気分が楽になった気がする」

「それは良かった。じゃあその嫌な人から離れるにはどうしたらいいか。ちょっと話し合ってみようか」

 弱肉強食のサバンナで狩られる側は必死に逃げる。そんな狩られる側のように弱い僕らは逃げ隠れをして生きるしかない。それが自然なのだ。

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弱いなりに楽に生きる シヨゥ @Shiyoxu

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