§ 1ー3 虚ろな群衆



 刀を手にすたれた神殿の外に近づくと、少しずつだが自然に発せられるものとは違う音が聞こえだした。


「うぅぅ……」


「また来る。また来る。また来る。また来る。また来る……」


 夕日の光が差し込み、目がくらむ。手をかざし光をさえぎり、少しずつ目を開ける。


 そこには、数百人はいるであろう人間がいた。


 多くの人は座り込み、俯き、光を失った目をしている。ただ泣いている女学生。仰向けに寝転がりうなっているブレザーの男子高校生。膝を抱えて震えている小学生の男の子。よく見ると全員、小中高校生だ。


 どうしたんだ、この人たちは? 学生しかいない……


 その異様な光景に絶句ぜっくする。神殿の出口近くで虚ろに座り込んでいる、同じ年ごろの華奢きゃしゃな男子学生に尋ねずにはいられなかった。


「何なんですか、ここは?」


 男は視線を変えず、一言だけ言葉を返した。


「奴らが来る……」


「奴ら? 奴らとは何なんだ?」


 質問には答えない。男はただただ遠くを眺めて座っている。目が座っている。何を聞いてもまともに答えてくれそうにない。他に話ができそうな人がいないか周りを見渡したが、みな、生気が感じられない。どうしたものかと思ったそのときであった。


グアァァーン…… グアァァーン……


 黄昏たそがれの世界に鈍い鐘の音が鳴り響く。


 その鐘の音が鳴り響くと同時に、みな一斉に悲鳴を上げ始める。目は恐怖の色に染まり、周りをきょろきょろとし、何かを探し始める。



 何かが始まる……



 そして、奴らが現れた。


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