ひょわーーーーーっ!!!
神庭
本編※特に記載がない場合一話ごとに完結します
第一話 木葉李葉子
……どうも。
コレで、りよこ、じゃなくてりょうこ、って読むの。珍しいでしょう?
高校に勤務するしがない……あん? 誰だ、いまオバサンつったのは。
……こほん。失礼いたしました。
そんな私ですが、生徒にも先生方にも友人の大半にもお見せしてない秘めたる一面を持っておりますの。
「PVつかねー……」
「ブクマ消えてるんば」
「安定のランク外」
そうです。
小学生の頃からの夢でした。
学校司書になったのも、ひとえにガk……子供たちではなく、本を愛しているから。
私もこんな小説を書きたい、あの感動を誰かに与える側になりたいと、日々某小説投稿サイトにて、粛々と創作活動に励んでおります。
といっても、疲れているとか仕事が忙しいとか時間が無いなんて言い訳して(ただし、年々体力が無くなってきているのは本当)、賞への応募は全ッ然できてないんですけどねー。
すみません。ごめんなさい。
作家になるだとか、書籍化を目指すだとか、クチばかりで本当に申し訳ありません。
あ、これだーって自信作がなかなか書けなくて……ゴニョゴニョ。
はい。すみません。
私はダメです。カスです。
でもいいの。私は誰にも迷惑かけていないのだから。文句があるならお天道様にでも言ってちょうだい。
「なんでよ。異世界に転生してTSしてエロくて最強でハーレムなのに、なんで?」
仕事から帰って、体にまとわりつくお堅いスーツを脱ぎ捨て、ベッドでごろごろ。
ビール片手にスマホの画面をカシカシやりながら──あ。爪伸びたなぁ──、爪と違ってそう簡単には伸びない閲覧数と睨めっこする。そんな毎日。
本日も一桁……けれど、ありがたい。始めたばかりのときなんて、PVゼロとかざらだったもの。ほんッと、ありがとうございます。このビールとチータラをお供えして、拝ませていただくわ。なむなむ。
「あっ!?」
赤い通知マークを見て、年甲斐もなくベッドから跳ね起きる。……いや、年甲斐てなんだよ。私は
急いで確認すると、なんとコメントが、一件二件三件。
あー、やっぱりテンション上がるわね。おねーさん嬉しい。さぁて、なんて書いてあるのかしら。ルンルンル……ほぁっ!?
『TL転生モノなのに最強の怨霊になるって意味わかんないです』
あぐっ。
『いくらエロくてもおっ●いすら触れないんじゃ意味なくね?』
キャインッ。
『流行りの要素ムリヤリ盛り込んだだけのホラー。異世界である必要性が感じられない』
ひぃいぃん……!!
「……」
言 い た い 放 題 !
そして、皆さんのおっしゃること、ごもっともなのだわ。
もう、返す言葉もございません。
「ぐ……っ」
なによ、仕方ないじゃない!
私はホラーが大好き。
もう三度の飯より、とまでは行かないけど、三日に一度晩酌をガマンしてもいいくらいには好きなのよ!
自分なりにサーチした
再びベッドに丸まり、くやしさとやるせなさで足をバタバタさせる私の目に、追い討ちを掛けるようなコメント……いや、これレビューか。あざっす。あざっす。ありがとうございまーーーッす!
『序盤はそれなりだけど(いや、ごめん。やっぱ意味わからないわ)、途中からネタ切れ感がある。描写にもイマイチ(中略)、作者は本当にホラーが好きなのか?』
「……」
『っていうか、ホラー映画とか観たことある?』
「…………」
死んだ。
最後の一文が、胸囲八十五センチのムネに突き刺さる。
なにを隠そう……私は、ホラーが大好きなくせに、ホラー映画を観ないのだわ。
心霊スポット巡りとかもやらない。っていうか、できない。
いや、本は読むわよ? 実話怪談、小説、漫画、ホラーアプリもやるし、怪談朗読とかも聴く。
けど、どうしたって映像だけは。
びっくりしてざわざわして、心臓がぎゅーってなると、命を削られたような気がするし、我慢できずにギャーッて叫んだって、優しく抱き締めて手を握ってくれる相手なんていない……。
他にも、
“就寝時に明かりを消せない。”
“うっかりお風呂のタイミングが遅くなるとカラスの行水になる。諦めて翌朝になることもしばしばある。”
“なにも映っていない真っ暗な画面が嫌で、テレビは基本小音でつけっぱなし。”
“デスクの下にできる暗がりを覆い隠すために、先日大きな布を買った。……サ●リオのきいろいやつ。”
“ホラーゲームは、いつも片手で画面を半分隠しながら明るい時間帯にやる。”
などなど。
……なんでって。
そんなこと、訊くまでもないでしょう?
怖いんだもん!!
わかってるわよ、ホラー好きを豪語しといて──本物のオバケも見たことないくせに──、こんなんじゃ話にならないってコトは!
けど、無理なものは無理。
怖いものは怖いの。
本気度が足りない?
なんとでも言えばいいわ!
……しかし、例のレビューコメントで、私はちょっと躍起になっていた。
ビビりのくせに、日頃ちょっと偉そうだけど実はチキンのくせに、謎の勇気と、謎の度胸と、謎の自信が無尽蔵に湧いてくる。
私は、部屋の明かりを消した。
しとしとと、ホラー映画のエフェクトにはうってつけの雨降る夜。
「あーもうっ、出るなら出なさい! 今の私には、おまえらなんてネタにしか見えん! 出てこい、ネタにしてやるーーー!!」
誰にともなく叫びながら、私は暗がりを目隠しする黄色い布を取り払い、テレビのスイッチをオフにし、とどめに窓のカーテンを開けた。
ふん。
どうせ、なにもありは……。
「……ん?」
心の声を途中で止めて、私は窓ガラスに顔を近付けた。
異変。
なにかが、窓ガラスの外側にべったりと張り付いている。
「……」
目を凝らして、じっと見る。
どうやらそれは、ふたつの大きな手のひら……の指先部分のようだった。
白い点が、左右五つずつ。
続いて、
「……?」
血走った両の
そして、その上には白い三角の角隠し……。
「…………??」
わけもわからず、私はソレとしばし見つめ合った。
そしてあることに気付く。
「ひょわーーーーッ!!」
我ながら冗談みたいな悲鳴を上げて、私は窓を開け、ソレに向かって空のビールジョッキを振り下ろした。
鮮血が散り、派手な落下音が響く。
……やば。ここ、二階だった。
その数分後、ずぶ濡れの男がぐったりした様子で、駆けつけたふたりの警官に確保された。
男はなぜか私のパンツをかぶっており、頭部から血を流しながら、しきりに『チヂョダチヂョダ』と謎の言葉を繰り返していた。
……どうやら、頭を打っておかしくなったみたいね。
「いや~、お姉さん。大変でしたね」
帰り際、警官のひとりが、ビールジョッキ片手に立ち尽くす私に声をかけてきた。
よく見るとけっこうイケメンじゃない。
愛想笑いで返すと、彼はやや顔を赤らめ、気まずそうに目を逸らす。
やだ。もしかして、照れてる?
こんな事件から始まる恋も……あり?
「でも……」
「はい?」
「そんな格好してたら、どっちがそうなんだかわかりませんねえ」
イケメン警官の苦笑。
私は、Tシャツの胸元がやけに通気性抜群であることに気がついた。
外から流れ込んだ冷気のおかげで、いつも以上に存在を主張するふたつのかたまりを両手でおさえ、その場に崩れ落ちる。
「着けて、なかった……」
なお、下はパピヨンモチーフの黒いレースをあしらった、パンツ一丁。
消え入るような声で呟きながら、あのパンツをかぶった
『痴女だ……痴女だ……』
ビールで冷えた胃の底から、マグマのような怒りがこみ上げる。
「……ッ!!」
どこぞのエロ漫画のように、イケメン警官とめくるめくピンク色のフラグが立つわけもなく。
ただ“ドン引き”と“苦笑”と“わずかな憐憫”という、常識的極まる彼のリアクションを一身に受けて。
私はただ、恥をさらしただけ。
「ざっけんな、金払えーーーーー!!」
こんこんと大地を濡らす
潤んだ空気と私の鼓膜を激しく振動させたのち、しめやかな雨の音に呑まれて消えた。
……なお、半裸の私からたちのぼる、めんどうくさい空気を読み取ったのか、若い警官は早々に立ち去っていた。
<了>
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