第156話 それはきっと君のせい
流歌君を連れて、いつも通り、いつものスーパーで買い物カゴを持って散策する。
「メニューとかって、いつも陽葵が決めてるの?」
「う、うん」
「へぇ〜」
「…」
なんにも考えずに誘ってみたけど…これって、あたしから二人きりになるような状況を作ったって事だよね…?
「〜?!」
やばい。どうしよう。何話せばいいんだろう。
というか、なんで買い物に誘っちゃったの?!一番会話が弾まないような所じゃん!なんで後先考えないの?!バカじゃないの?!
「…陽葵?」
「は、はい!」
「どうした?考え事か?」
「へぁ?!いや、その…そう!今日の晩ご飯は何にしようかな〜って!」
「いいなぁ〜旭は。前にクリスマスで陽葵の飯食ったけど、めっちゃうまかったもん。毎日食えるとか羨ましすぎる」
「そ、それは、あたしも作った甲斐がありますというか…」
やばい!すっごい嬉しいんだけど?!えへへ…はっ!いけない、油断すると顔がニヤけちゃいそうだから気を引き締めないと…!
そんな事を考えていると、流歌君が私を見て、なにやら悪い笑顔を浮かべた。
「おやぁ〜?どうしたんですかぁ〜?顔が変ですよ〜?」
「な?!に、ニヤけてないから!」
「いや、別に『ニヤけてる』って言ってないんだが」
「〜?!?!?!」
意地悪な笑みを浮かべながら煽ってくる流歌君。
くっ!このままやられっぱなしなのはなんか癪だ。というかなんで流歌君はこの状況で平然としてられるのさ!女子と二人で買い物だよ?!こっちは終始気を張ってるのに、流歌君ときたらお気楽な感じで…ちょっとムカつく…もういいや!なんかボロ出して!
「る、流歌君だってさっきから落ち着かないけど、どうかしたのかな〜?やっぱりぃ…こういう状況って男の子はドキドキするものなのかなぁ〜?」
「な、何言ってんだ。別にいつも通りだろ?」
流歌君のさっきまでの余裕の表情は崩れ、一瞬だけ焦りの表情が見えた。
おや…?これは…。
「そう?いつもより余裕が無さそうだけど?」
「いやあるから。全然余裕だから」
立場が逆転した事によって、いくらか気が落ち着いてきた。
そして、やられた分の仕返しをするべく、追い討ちをかける。
「そう?あたしは結構、余裕ないんだけどなぁ…」
「は…?へ?!」
明らかに動揺している流歌君を見て、もうちょっと何かないか考えてみる。その際に、なんで流歌君がこんなに動揺しているのかを考えてみた。
…何言ってんのあたしぃ?!これ、もう言ってるようなものじゃない?!「私、あなたを意識してますよ」って言ってるようなものだよね?!も〜!だからどうして後先考えないのよぉ〜!
…
あの後、あたしも流歌君も、お互いに頑なに目を合わせようとはしないまま、買い物は終わってしまった。すっごい気まずかったよぅ…。
会計を済ませて、買ったものを袋に詰めている今でも会話は一切発生していない。どこで間違えたんだろ…。
「そ、それじゃあ帰ろっか!」
袋詰めの作業が終わり、買い物袋を持ち上げながら、努めて普段通りにそう言う。
「…ん、あぁ、そうだな。んじゃあ、ほい」
そう言って流歌君は手を差し出してきた。
「へ?」
「いや、早く」
「あ、うん…」
差し出された手に、あたしは手を置いた。
「いや、『お手』じゃなくて」
「わん?」
「買い物袋、持つから寄越せって言ってるんだよ」
「へ?あぁ、そういう事!それなら言ってよ!」
一瞬、馬鹿にされてるのかと思っちゃったじゃん。
「ついでに家まで送ってくから」
「へ?」
「お前、さっきからそれしか言ってないぞ」
だってさっきから理解できない事ばっかりなんだもん!
「てか、そのために俺を連れてきたんじゃないのか?」
「…あ、あぁ…そっか…」
「え?違うのか?」
「ううん!そうだよ!」
「自信満々に言うことでもないけどな」
そう言いながら流歌君は苦笑した。
そっか…楽しんでたのはあたしだけだったか…。
そんな事を思いながら、あたしは買い物袋を流歌君に預けた。
「よし、帰るぞー」
「うん」
先にスーパーを出て歩く流歌君の後ろをあたしは着いていく。
空はいつの間にか赤く染まっており、陽の光がちょうどこちらに差してきていて眩しかった。
「いやぁ〜面白かった!」
「…え?」
いきなりそんな事を言われてしまい、びっくりしてしまった。いったい何が面白かったんだろう。
「特に陽葵が」
「へ?!何が?!」
何の脈絡もなくそんな事を言われてしまい、更に頭がこんがらがってしまう。
「いやさ、やっぱ陽葵と話すと退屈しないなって思ってさ」
「…なんかバカにされてる…?」
「いや?普通に楽しかったなって話」
「〜?!」
「ん?あっ!いや、変な意味じゃないからな!単純に楽しかったってだけだからな?!」
途端に顔が熱くなっていくのを感じる。
流歌君も楽しいって思ってくれていた。その事実だけで胸がいっぱいになるには十分だった。
「なんか顔赤いけど大丈夫か?」
「…流歌君こそ、真っ赤だよ?」
流歌君の顔を見ると、わかりやすく赤くなっていた。
「いや、気のせいだろ。うん。夕日のせいじゃない?」
「じゃあ、あたしも多分それのせいだよ」
「そっか」
赤い空の下、そんな軽口を叩きながら歩いていく。
多分、あたしのは夕日のせいじゃない。きっと流歌君のせいだ。
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