第88話 愛想
「佐倉さんって明日もお休みなんですか?」
「そだぞー」
「最っ低…」
「さすがに理不尽じゃない?」
親の敵でも見るような顔をしてオレンジジュースを飲みながら俺を見る水無瀬。
俺、悪いことしてないよね?
「今週、三日しか学校に行かなくていいんですよね?いいなぁ…」
「お前、そんなに学校嫌いだったか?」
「もちろん」
「堂々として言うことじゃないぞ」
当たり前じゃないですか?みたいな顔で俺を見るな。当たり前じゃないから。
いや、俺も好きではないけどね?
「疲れるじゃないですか」
「それはそうだろ」
「いえ、そうじゃなくて」
水無瀬は、ストローに口をつけたり手でいじったりし始めた。
言い出すべきか迷っているのだろうか。
「…ずっと愛想良くしてると疲れるんですよ…」
「あぁ…ね」
なるほど、そういう事か。
「愛想良くしてると男子が集まってくるんですよ」
「言ってて恥ずかしくないの?」
大分すごい事言ってる自覚ある?
「すると女子から妬み嫉みの小言が飛んでくるんですよ」
「…」
これが普通です、と言わんばかりの表情で淡々と言う水無瀬。
「どうしろって言うんですかね」
そう言って笑った水無瀬は辛そうだった。
何か言ってやりたい気はあるが、俺の方からは何も言えない。
その現場を見たわけでもないし、状況が掴めていない以上、他の生徒を貶めるような発言もしてはいけない。
「…まぁ、高校生にもなれば状況だって変わるだろ。後ちょっとだけ頑張れよ」
「そうですね〜」
そう言いながら水無瀬は、テーブルの上にうつ伏せになって、力を抜き始めた。
行儀が悪いぞ。
「…それでも、多分同じ事を繰り返しちゃう気がするんですよね…」
「まぁ、愛想良いやつの演技を続けてたらそうなるだろうな」
「人間ってめんどくさいです」
「その考えはちょっと危ないぞ」
「はやく妖怪になりたい…」
「んー、ちょっとよくわからないかなぁ…」
こいつ、ほとんど脳死で会話してねぇか?
そんな水無瀬を見て、疑問が出てきた。
「…演技、やめようとは思わないのか?」
確実に聞いてはいけない事を聞いてしまった気がする。
それでも、水無瀬がどう思っているのかを知りたかった。
「…怖いんですよ…愛想良くなくなった私を見て幻滅される事が…」
「俺の時は普通じゃん」
「それは佐倉さんが最初から変人だっただけです」
「てめ」
やはりこいつは俺を馬鹿にしないと気が済まないらしい。
「…正直、私には佐倉さんしかいませんよ」
「その発言は色々と危ない」
「佐倉さんしかいりませんよ」
「うん、もっと危ないね」
今日のこいつのテンションはヤバいな。
「佐倉さん、高校でもお願いしますね」
「は?何が?」
テーブルに伏せたまま、よくわからない事を言い出す水無瀬。
「私、佐倉さんと同じ高校行くつもりなので」
「え、やめて」
「…さすがに酷くないですか…?」
不服そうな顔をしながら顔を上げてこちらを見てきた。
「…え、なんで?」
「なんでって、特に行きたいところとかないからですけど…」
「適当すぎるだろ」
「じゃあ、佐倉さんはどうして華野高校に入ったんですか?」
「知ってる人がいるから」
「よく人の事言えましたね」
あと、家が近かったからってのもある。
「ということは、ですよ。『佐倉先輩』って呼んだ方がいいですかね?」
「えぇ…なんか違和感」
というか気が早すぎませんかね。
もう入った気になっちゃってるよ。
「そもそも受かるかわからんだろ」
「…受験生にそういう事言うのどうかと思います…」
「あ…すまん」
これは完全に俺が悪い。
適当に返しすぎた。
「…まぁ、受かったらファミレスくらいなら奢ってやるよ」
「ホントですか?!約束ですよ!」
「さっきの空気はどうしたよ」
ちょっと不安そうになったと思ったら、すぐに明るくなりやがった。
…まぁ、こいつに対しては考えながら会話するだけ無駄か。
俺としては楽だから別にいいんだけどね。
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