第87話 ふざけようか
「佐倉さん、ここどうやるんですか?」
午後四時過ぎ頃。
俺は小さな喫茶店で、コーヒーを片手にソシャゲのイベント周回をしていた。
そんな中、目の前に座っている顔はかわいい年下は、サイドテールを鳴らしながらテーブルに置いてある教材を指差して話しかけてくる。
「あ?…わからん」
「使えませんね」
「貴様」
水無瀬一花。
最近やたらと会う機会が多い、口の悪い中学三年生の女の子。
なぜ、俺がこの子と喫茶店にいるのか。
それは数分前の出来事のせいである。
…数分前。
高橋とはその後、適当にゲーセンなんかで時間を潰して、その場で解散となった。
俺もそろそろ帰ってソシャゲのイベント周回でもしようかと思い、自販機で飲み物を買っていた時だった。
「佐倉さん?」
最近よく聞く声だなぁ、と思いながら声のした方を向くと、そこには思った通りの人物がいた。
「うわぁ…水無瀬じゃん」
「女の子に向かって『うわぁ…』は酷くないですか?」
「お前疲れるもん」
「まぁ!辛辣!」
そういう割には全然気にしてなさそうだけどな。
「てかなんでここにいるんだよ?」
「なんでって…ただ帰り道を歩いてただけなんですけど…」
「へぇー」
たしかに、もう学校が終わる時間だし、遭遇するのもおかしくはないか。
「佐倉さんは相変わらず暇そうですね。ぼっちですか?」
「そういうお前もぼっちだろ」
「やめてください、一緒にしないでください」
「お前なんなの?」
こいつと喋ってるとゴリゴリ体力が削られていく気がする。
「んじゃ、また今度な」
「あ、ちょっと待ってください」
缶ジュースを持って家に帰ろうと思ったら引き止められてしまった。
水無瀬はカバンから教科書のようなものを取り出して指を刺す。
嫌な予感がする。
「勉強、教えてくれませんか?」
「え、やだよ」
即答。文字通りの即答だった。
なんで休みの日に知り合いの勉強を見てやらなきゃならないんだ。
「ダメですか?」
「俺は休日に勉強に関する事はしたくない」
「教えられるほどの頭がないから無理だって事でいいですか?」
「お前は何を聞いていたんだ」
完全に馬鹿にしてるよな?
というか解釈の仕方が酷すぎる。
「いいじゃないですか〜。わからないところがあったらでいいので、ちょっとだけ付き合ってくださいよ〜」
「えぇ…」
「一人じゃやる気が出ないんですよ」
「普通逆じゃない?」
というか、それなら友達を呼べよ。
あっ…そういう事か…。
「…なんですか…その、かわいそうな人を見る目は」
「…お前、友達いないもんな…」
「処しますよ?」
処さないでください。
「まぁ、このまま家に帰っても暇だからいいか…」
「暇なんですね」
「お前は俺を煽らないと気が済まないのか?」
と、いうわけで現在に至る。
勉強を教える、と言っても、俺はほとんど何もせずにスマホをポチポチしているだけなのだが…まぁ、こいつも真面目にやってるし、ちょっとくらいは俺も真面目に付き合ってやるか。
「ちょっと教科書貸せ」
「え、あ…はい」
そう言いながら水無瀬は不思議そうに俺を見る。
え、何?
「どした?」
「あ、いえ…結構真面目に取り合ってくれるんだって思って…」
「んじゃ、ふざけようか」
「やめてください」
まぁ、中学生の問題なら、教科書見れば思い出せるだろう。
「これをここに入れて、前の式をここに入れる」
「おぉ!なるほど!」
「らしい」
「最後の一言で台無しですよ」
いや、多分合ってるはず。
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