第75話 子供扱い
やってきたのは3年生が経営している喫茶店。
店員は皆、本格的なウェイターやウェイトレスが着てそうな服を着用して、内装も落ち着いた雰囲気にしている。
「ここ、ほんとに教室か?」
「壁とか変えるだけで全然雰囲気違うね…」
これ壁紙か?剥がせるのか?やりすぎじゃね?
俺たちが内装に気を取られていると、店員が近づいてきた。
「いらっしゃいませ!二名様ですか?」
「あ、はい、そうです」
「それでは、こちらにどうぞ!」
元気そうな店員さんに席を案内され、メニュー表を渡される。
「注文が決まりましたらお知らせください!」
そう言って店員さんは奥の方に行ってしまった。
「俺らのクラスの出し物って何だっけ?」
「現実逃避しないで」
くそっ!これが三年生の力なのか?!
「それに、私たちのクラスだって頑張ってるでしょ?」
「まぁ…」
でもこれを見てからだとなぁ…。
「と、とりあえず何か頼もうよ!」
「んじゃ、俺はホットケーキとアイスコーヒー」
「私は…アイスコーヒーだけ、お願いしようかな?」
「食べないの?」
「まだ大丈夫かな」
なるほど。
「あれ?伊織ってコーヒー飲めるっけ?」
俺の記憶が正しければ、伊織はブラックは飲めなかったはずだ。
「ば、バカにしないで!子供じゃないんだからね!」
「わ、わかったわかった、子供じゃない子供じゃない」
「ふんっ」
伊織はそっぽを向いてしまった。
「ホットケーキちょっとあげようか?」
「…もらう」
そういうところが子供っぽいんだよなぁ…。
「すみませーん」
「はーい!」
伊織は絶賛不機嫌中なのを無視して店員さんを呼ぶ。
「お決まりでしょうか?」
「はい、アイスコーヒー二つと……」
「それでは、ごゆっくりどうぞ!」
そう言って店員さんは奥の方に戻っていった。
目の前にはアイスコーヒーと湯気を立てているホットケーキ、そしてアイスコーヒーをちゅるちゅるとストローで吸っている伊織。
「…砂糖ってないの?」
「ふっ…子供め…」
「う、うるさいばか!」
そう言って、またコーヒーを吸い始めた。
「別にそんなに無理しなくてもいいだろ?」
「…だって、私だけ子供っぽいのって、何か嫌だなって…」
「いやいや、気にしなくて良いだろ」
ホットケーキを一口サイズにしながらそう答える。
「旭は大人っぽいのに私だけ子供っぽいのって、それって私が旭に釣り合ってない、みたいで嫌」
伊織なりに、俺の事を考えてくれた結果なのだろう。
幼馴染から友達という、よくわからない関係になった俺と伊織。
そこから伊織は俺の事を異性として見ようとしてくれている。
…まぁ、やってる事は告白の返事の保留なわけだが…。
「別に気にしなくて良いだろ。そこがお前の良いところでかわいいところなんだから」
そう言いながらフォークに刺さったホットケーキを、伊織の口元に差し出す。
「…またそうやって子供扱いするんだもん…」
「いらないの?」
「はむっ」
「えぇ…」
無言でホットケーキを奪い取られてしまった。
もう一度一口サイズに切って、俺も食べる。
あ、これは美波の勝ちだわ。
「どうせ昔から知ってる仲だし、気を張らなくても良いって」
「そ、そう?」
「おん、そうそう」
「…適当になってない?」
その問いには答えずに、ホットケーキをまた食べる。
うん、うまい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます