第74話 開会

 文化祭当日。

 開会を宣言した瞬間の雰囲気は本当にすごかった。

 俺の語彙力では表現しきれないほどに盛り上がっていた。

 一言で言うと、うるさい。

 開会宣言した瞬間に隣やら後ろやらから大声が聞こえてきてビクッとしてしまった。


 「それでは、各自見回りをお願いします。多少の自由行動は許可しますが、ハメを外し過ぎないように、よろしくお願いしますね」


 他の生徒が持ち場に戻る中、実行委員は雨宮先輩から最終確認を受けるために一度集められていた。


 「その場で対処できない場合は先生を呼ぶか、生徒会に連絡をお願いします。それでは、皆さんも楽しんでください!」


 以上です、という言葉を最後に、その場は解散となった。

 伊織がこちらに近づいてくるのが見えたため、俺は伊織に話しかける。


 「さて、どっから回る?」


 「楽しむ気満々だね…一応、私たちは仕事中なんだけどね」


 そう言って伊織は苦笑する。


 「当たり前じゃん。俺は働きたくはない」


 「怒られちゃうよ」


 「まぁ…大丈夫だろ」


 「適当だね…」


 そんなこと言われてもなぁ…。

 実行委員の仕事はやる事が多いわけではない。

 トラブルがあればその場で対処、もしくは報告をして対処に向かう、後は雨宮先輩にしっかり見回りの報告をすれば良いだけだ。


 「気を張っててもつまらないだろ?どうせなら楽しもうぜ」


 「…そっか、そうだね!」


 伊織も吹っ切れたようで、声が明るくなる。


 「見ながら考える?」


 「お、いいね、賛成」


 伊織の案を採用して、とりあえずは校舎の中を探索する事にした。




 見れば見るほど不思議な光景で、今まで静かに勉強をしていただけの場所だったのに、壁は華やかに飾り付けられ、スピーカーからは楽しげなBGMが聞こえて、静かとは程遠い客寄せの声があっちこっちから聞こえてきた。


 「すげー…高校生の文化祭ってこんな感じなんだ…」


 「去年とは全然違うね…」


 高校生になって初めての文化祭は、俺がイメージしていた文化祭とはかけ離れていた。

 中学の文化祭と比べるなって話にはなってしまうのだが、中学の頃は、小さい店を構えて輪投げや射的などの簡易的な店が並ぶ程度だった。

 それがどうだろう。目の前に広がっているのは、本格的に調理をしている食べ物の屋台、気合の入った服装、クラスの出し物として演劇をしているところや、お化け屋敷なんかも見える。

 やはり高校生になってやれる事が増えて、先生の制限をあまり受けないのが大きいのか?

 俺らのクラスも三島先生は基本、放置してたからな。

 …よく考えたら、それはそれで良いのか先生よ…。


 「映画なんてあるんだ…」


 「まじかよ…」


 やべぇな高校生。

 テンション上がってきたァ!

 そんな事を考えていると、伊織が袖をチョイチョイと引っ張ってきた。


 「あれ、行ってみない?」


 そう言って指を刺した方を見てみると、そこには俺たちのクラスとは違う喫茶店があった。なるほど。


 「敵情視察か」


 「えと、そんなんじゃないんだけど…」


 「攻め込むぞ!」


 「攻め込んじゃダメでしょ?!」


 いざ、出陣!

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