第46話 お前はわかっていない

 花火大会。

 学生、カップル、家族、友達などに広く親しまれているイベントの一つ。花火好きなら一人で行く人だっているだろう。しかし、内容は本当に花火を見るだけなので人によって好き嫌いが別れるイベントだ。

 ちなみに俺は好きじゃない。

 嫌いではないが、花火を見て特別何か思うこともないため花火大会に興味を持てないからだ。 

 それに、花火自体は今の時代、スマホやテレビでだって見れるし、わざわざ人混みの中行く必要はないと思う。


 「女子たちまだ〜?」


 「もう少しって言ってるけど」


 スマホの画面を見ながら九十九がそう言った。

 花火大会に興味がない俺が今いる場所は花火大会の会場。

 俺たちは陽葵からのお誘いで半ば強制的に花火大会に来ている。


 「早く来ないかなぁ」


 そう佐藤が言う。お前は何でそんなに元気そうなんだよ。


 「あぢぃ〜…帰りてぇ〜…」


 「おいおい佐倉。ほんとに帰っていいのか?」


 「逆に何でお前はそんなに元気そうなんだよ」


 夕日は沈み、午前中よりはマシな気温だが暑いものは暑い。この暑い中待たされてなぜそんなに元気でいられるのか。


 「佐倉、お前はわかっていない」


 「なにが」


 佐藤の偉そうな物言いと暑さのせいでイラッとくる。


 「女子は時間がかかるんだよ」


 「何でだよ、財布持って来るだけだろ?しかも陽葵までわざわざ現地集合とか言い出しやがって…」


 何を思ったのか、陽葵は一緒に家を出ればいいものを「先に行ってて!」と俺を家から追い出したのだ。理由は待ち合わせの方がそれっぽいから、らしい。なんだよそれっぽいって。

 それを思い出すとさらにイライラしてきた。

 そんな俺を見て佐藤はやれやれと言った感じで俺を見てきた。よし、殴ろう。


 「佐倉、周りの女性を見てみろよ」


 「あ?」


 「やべぇ、爆発寸前だ」


 そう言われて周りの女の人を見てみる。字面だけ見ると完全にヤバいやつだな。

 周りには家族や学生などが見えるが、男女のカップルのようなものが多く見える。爆発してしまえ。

 女の人は浴衣が多いのか…はっ?!


 「フッ…どうやら気づいたようだな」


 「お前…天才か…?」


 目の前の現実に戦慄する。

 そうか、浴衣か!

 露出は全く多くないのに何故だか女の人を綺麗に見せてしまう最強装備。

 そういえば浴衣とか着るのって結構面倒くさいらしいな。

 そうなると…伊織も浴衣を着て来るのか?!

 やべぇ!テンション上がってきたぁ!


 「おっしゃ!いくらでも待ってやるよ!」


 「それでこそ佐倉だ!」


 俺と佐藤のテンションが爆上がりする。今ならどんなボスでもワンパンしてしまいそうなくらいステータスが上がってる気がするわ。


 「さっきまで帰りたいとか言ってたやつのテンションじゃないな」


 「何言ってんだお前。なんでテンション下げなきゃならないんだよ」


 「何で俺が怒られてんの?」


 九十九君。君は逆に落ち着きすぎる。

 伊織だぞ?伊織の浴衣だぞ?!お前伊織が好きならもっとテンション上げろや!

 そんな九十九に非難の視線を浴びせていると、視界の端に高橋が映った。

 そういえば高橋いるの忘れてたな。

 高橋は九十九の後ろで黙って何かを考えている仕草をしている。


 「どうした高橋、なんかあったのか?」


 「…ん?いや、ちょっと考え事」


 「お前に考えるほどの悩みがあったのか?」


 「殴るぞ?」


 「というか考えられる頭があったのか?」


 「よし殴る」


 拳を振り上げ殴るフリをしてくる高橋を見て違和感を覚えた。

 …こいつ、なんか隠してる?

 確証はないが、なんとなくわざと俺のおふざけに乗ってきているような感じがする。

 …気にしすぎか?

 そんな事を考えながら高橋の殴るフリに俺も殴られるフリをして頭を後ろに倒すと、そこには電柱があり、俺の後頭部は五百のダメージを負った。

 アサヒはしんでしまった。テレデレデレレ〜♪

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る