第43話 眠い
先輩たちをあしらいまくって、ようやく仕事に取り掛かってくれたので俺も仕事の手伝いをする。
と、言ってもやっているのはレシートを見て金額をパソコンに打ち出すだけの簡単なお仕事。
特に考えることもなく誰でも出来るような仕事のはずだった。
「…ねみぃ」
先輩たちに聞こえないようにそう呟く。といっても周りは結構集中しているみたいで俺を気にしすることはなかった。
昼まで頑張れば少しは寝れるはず。
昼休憩まで残り二時間弱。わぁお、まだ二時間もあるの?
回らない頭で必死に作業をする。レシートの数字もぼやけて見えて、明らかに作業のペースが遅く、手伝いどころか邪魔しているのではないかと思ってきた。
そんなこんなでなんとか昼休憩に入ることができた。
しかし、俺の作業が明らかに遅れてしまっているので、お馴染みの数秒でチャージできるゼリー飲料を片手にパソコンと向き合う。
チラッと周りを見るが生徒会室には雨宮先輩しかいなかった。皇先輩と羽月先輩は二人でどこかで食べているのだろう。
「…ねぇ佐倉君。休憩しないの?」
「…これ終わったらしますんで」
完全に目の前の作業に集中しているためか、いつもならもっとマシな返しができていたのに今回はする余裕がなかった。
「…本当に大丈夫?」
「はい」
「お昼それだけ?」
「食欲ないんで」
「…」
眠い時に見る数字の羅列は頭と精神にダメージを与えてくる。
俺のHPはおそらくゼロに近い。多分デコピンで死ねる。
夏の熱い日差しが生徒会室を照らしつけてくるが、もはや熱いのか寒いのかわからない。
「今日は三時くらいまでにしようか」
突然聞こえてきた皇先輩の声に少し驚く。いつの間にか皇先輩と羽月先輩は帰ってきていたようだ。パソコンの画面に表示されている時計を見ると一時を指していて昼休憩はすでに終わっていた。
結局、昼休憩は休憩できなかったか…。
まぁでも、後二時間で解放されるんだ。
それに、引き受けた以上、途中で投げ出すわけにもいかないだろう。
そう思い、俺はゼリーを一気に飲み、一度背伸びをしてもう一度パソコンに向き合う。
「…んぁ」
目が覚めた。
今の状況はそう言っていいだろう。
生徒会室はオレンジ色に染まっていて先輩たちの姿は見えなかった。
「やっちまった…」
おそらく、というかほぼ確定で作業中に寝落ちしてしまったのだろう。
受けた仕事も最後までまともにやらないで寝落ちするとかマジで無いわ…。
「…帰るか」
とりあえずここにいてもしょうがないので荷物を持って扉に手を伸ばすがその手が扉に触れることはなかった。
「あっ、起きてる」
「…雨宮、先輩?」
そこにいたのは副会長雨宮先輩だった。あれ?帰ったんじゃ?
「帰ってなかったんですか?」
「誰がここの鍵閉めて返しにいくの?」
「あ…」
そりゃそうだわ。ここの鍵の権利は生徒会にあるんだから俺がいたら鍵かけれないし返せないよな。
「すみません…叩き起こしてくれても良かったんですよ?」
「そんなことしたらかわいそうじゃん」
優しいな。これが陽葵だったら耳元で大音量でアラーム音鳴らされるからな。
そんな優しい先輩に申し訳なさを覚えていると先輩はジト目でこちらを見る。あらかわいい。
「…大丈夫だって言ってたよね?」
「うっ…はい」
「結果は?」
「申し訳ございません」
先輩の顔から目を逸らす。見れない…さっきかわいいと思ったはずの顔をなぜ見れないのだろう。
「はぁ…まぁいいけどね」
「ホントニスミマセン」
雨宮先輩は大きくため息をついた。やめてください、そのため息は俺に効く…。
「とりあえず、帰ろっか」
俺に気を遣ってくれたのだろう。雨宮先輩は笑ってそう言ってくれた。
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