第40話 風呂上がりのソーダ

 高橋との通話を終えてから少し外を歩き、自販機からソーダを買って家に戻るとリビングには誰もいなく、上の階から話し声が聞こえて来た。


 「風呂入って寝る準備した感じか?」


 だったら俺もシャワー浴びてさっさと寝る準備をしようか。

 洗濯機に服やら下着やらを全部突っ込んで全てを解放した状態で風呂場に突入する。この状態の私は無敵だ!

 シャンプーで髪を洗い、ボディーソープで体を洗い終えた俺は浴槽に入ろうとして止まる。


 「っぶねぇ」


 そう、この浴槽には彼女達が入った後のお湯だ。べ、別に変なこととか考えてないんだからね!

 仕方なく風呂場から退出し体を拭いて寝巻きに着替える。ついさっきまで着ていたやつだな。お前に会いたかったぜ。

 リビングに向かい、冷蔵庫からさっき買って来たソーダを出し、適当に腰を落ち着ける。

 ソーダのキャップを捻るとカシュッと小気味いい音がしてシュワシュワと音を立て始める。

 俺はその液体を一気に半分ほど飲む。


 「くぅぅぅ!しみるねぇ!」


 舌と喉に炭酸の爽快な刺激が走る。

 やっぱり夏といえば風呂上がりの炭酸だろう。これに勝るものはエアコンの真下で食べるアイスくらいだ。でも、あれ気をつけないと風邪ひくからな。陽葵はシャツだけでたまにやるからマジでヤバい。あいつが風邪ひいたら思いっきり煽ってやる。

 その陽葵は今、女子だけのお泊まり会を楽しんでいるだろう。正確には俺がいるから女子だけではないけど。

 すると、テーブルの上に置いてあったスマホが震え始めた。一回だけだったのでおそらくメッセージだろう。

 ソーダをちびちびと飲みながらメッセージを見る。


 音羽 「明日、学校にこれますか?」


 雨宮先輩からだった。

 皇先輩と羽月先輩のイチャイチャ空間に一人でいたくないからと俺を道連れにしようと企んでいる先輩だ。


 旭 「なるほど、頑張ってください」


 音羽 「ん?」


 ん?ってなんだよ。何で一文字とクエスチョンマークでそんなに圧が出せるんだよ。これだけで「これるよなぁ?」みたいな事を言われているような気がして怖い。

 

 旭 「わかりました…」

 

 音羽 「さすがです」


 何がだよ。

 明日は学校に行くことが確定してしまった。

 盛大なため息が無意識に漏れる。何で、こんな事に…。

 そう考えているとガチャっとリビングの扉から音が聞こえて、見るとそこにはひょこっと顔を出した楓がいた。


 「旭…くん?」


 「楓?どったの?」


 「ちょっとお手洗いに行ってきただけだよ」


 「あーね」


 まぁ、普通に考えればそれしか理由が思いつかないな。電気がついてたからちょっと見にきただけと。


 「旭くんは…寝ないの?」


 「あーそろそろ寝るよ」


 「そっか」


 そう言うと楓はこちらに歩いて来て、顔をずいっと近づけて来た。なんだ?てか近い近い!


 「な、なに?」


 「…旭くんって…彼女いるの?」


 「へ?」


 只事ではない雰囲気の彼女から出てきた質問はものすごくどうでもいい質問だった。


 「いない、けど」


 「そ、そうなの…?」


 「逆にいると思う?」


 「朝香ちゃんは…?」


 「あー俺あいつに振られてるから」


 「あ…ごめんなさい…」


 「別にいいよ」


 申し訳なさそうにする楓の頭をポンポンと叩くと楓は恥ずかしそうに頬を赤らめた。


 「てかどうしたの?いきなり」


 「ちょっとみんなで旭くんがモテるのかなって話してて」


 「なに話してんだあいつら」


 というか何故そんな話になっている。


 「それじゃあ…わたし戻るね」


 「はいよ」


 そう言って扉の方に戻っていったが、扉を開ける前に楓はこちらを見てモジモジし始めた。


 「楓?」


 「…お、おやすみ」


 「あぁ、うん。おやすみ」


 そう言って満足したのか、楓は扉を開けて出て行こうとする。

 せっかくだ、俺も楓に聞きたいことがあったんだ。


 「なぁ、楓」


 「…ん?」


 「楽しいか?」


 ちゃんと楽しめているのか、無理をしていないか、楓が不登校になりかけていた理由を知っているから気になってしまった。


 「あぁいや、無理とかしてないかなって」


 言葉が足りていなかったので慌てて付け足す。

 正直、彼女は本当に学校や友人関係を楽しめているのか不安だった。

 だが、俺の不安を断ち切るように淀みのない笑顔で楓は言った。


 「ううん…すごく楽しいよ!」


 「…そっか、それはよかった」


 ほんと、いい顔するようになったよな。

 見てるこっちが嬉しくなってくる。

 楓はリビングを出て、上の陽葵の部屋に戻っていった。

 俺は残りのソーダを一気に飲んだ。


 「あっま…」


 炭酸は既に抜けきっていて、ただの砂糖水と化していた。

 でも、不思議と嫌な気はしなかった。

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