第38話 お泊まり

 夏休み。

 社会人の大人達が忙しく働いている中、学生達は長期休みに入る。

 遊び・勉強・家事・旅行・読書…などやれることを挙げればいくらでも出てくる。

 しかし、我々学生達には『課題』と言うものが存在する。我々はこの課題をこなさなければ休み明けに説教、もしくは追加議題などを課せられる。それだけで済めばいいが、個人の評価を落としてしまえば進路先だって制限されてしまう。

 そのため、計画的に学生達は休みの期間を過ごさなければならない。

 もちろん、俺もそのうちの一人だ。これからの休み、どう過ごすかを夏休み前にはもう考えてある。

 そんな俺が今、何だをやっているかと言うと…。


 「…やべぇ、やっちまったな」


 寝ぼけ眼でスマホの時計を見ると、そこには電子の文字で十六時三十四分と書かれていた。

 昨日は朝までクラスメイトの高橋と佐藤と通話をしながらゲームをしていた。気づいた頃には六時くらいになっており、一度解散と言うことでその場は終わった。俺はその後すぐにベッドに入り、昼くらいに起きればいいや、程度に思いながら眠りについた。

 その結果がこれである。大体十時間くらいの睡眠。

 いやぁ、よく眠ったな。健康的だぜ。お陰で体がだるい。完全に寝過ぎだ。

 朝と昼の食事を抜いたはずだが全然腹は減った気がしない。

 まぁでも、これから晩飯を作らなければならない事には変わりはないから陽葵ととりあえず相談しに行くか。

 着替えるのも面倒だったので寝巻きのままリビングへと向かう。

 テレビの音が聞こえたから部屋にはいないようだ。なんなら晩飯を作ってくれているのかもしれない。

 扉を開けて中に入ると冷気が外に逃げて来た。あいつ、温度下げすぎだろ。


 「あっ!やっと起きて来た!」


 「お邪魔してまーす!」


 「お邪魔して…ます」


 「またこんな時間に起きて…」


 「…は?」


 そこにいたのはもちろん陽葵。

 たが、陽葵だけではなく、楓、美波、伊織がそこにはいた。


 「旭君、休みだといつもこうなの?」


 「前回私が来た時はお昼くらいに起きて来たよ」


 「まぁ、適当な性格してるからねぇ」


 「あはは…」


 各々、俺に対して言いたいことを言い合っているが、本人の俺はこの状況についていけていない。


 「えっと…なんでいるの?」


 「なんでって、遊びに来たんじゃん」


 「じゃん」


 「あ、そう」


 なんか最近もこんなやり取りしたような気がする。


 「んじゃ、ごゆっくり」


 「ちょっと待て」


 こんなやり取りも最近やった気がする。デジャブかな?


 「どこ行くの?」


 「どこって、俺らの飯買いに行くんだよ」


 陽葵が今まで伊織達の相手をしていたってことは飯の準備はまだ。しかも帰るにはちょっと早い気がする。ならば俺がスーパーとかで弁当を買ってくるのが一番だろう。


 「ご飯なら今から作るよ」


 「いやいや、お客人がまだお帰りではないですわよ」


 「だって今日、朝香達泊まって行くから」


 は?泊まって行く?


 「俺聞いてないんだけど」


 「あんたがこんな時間まで寝てたからでしょ」


 ふぐぅ…何も言い返せない。

 なんでこんな事に…。今日はゲームであまり余計な事は喋れないな。そもそも通話自体、今日は控えた方がいいかもしれない。


 「んじゃ、ちゃちゃっと作っちゃうから朝香達の相手よろしくね〜」


 そう言って陽葵は台所に向かっていった。

 え?俺に女子三人を相手にしろと。地獄かな?

 女子の話についていける気がしねぇ。


 「旭君!ババ抜きしようよ!」


 そんな俺の事なんてお構いなしにテーブルの方から美波が言ってくる。

 気は乗らないが、このまま客人を放置するわけにもいかないだろう。

 別に女子の相手をしたくない、と本気で思っているわけではない。

 伊織。

 あいつは俺なんかがこの空間に混ざっても嫌じゃないのだろうか。


 『旭が朝香を嫌いにならないように、朝香も旭を嫌いにはならないんだよ、きっと』


 本当に俺の事を嫌っていないのか。

 陽葵はそう言っていたが、それは陽葵が言っていた事。本人の意見とはまた違ってくるだろう。

 まぁ、考えても仕方ないか。

 こいつらの相手をする。

 それが俺に課せられた任務だ。今はそれをこなすしかないだろう。 

 そう思い、配られたトランプを受け取り、ババ抜きの準備を始めた。

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