第27話 数秒でチャージ

 「え…旭くん…お昼それだけ?」


 ある昼休み。俺、高橋、美波、楓、のいつもの四人での昼食。

 各々自分の昼食を準備して口をつけようとしたところで楓が俺が手に持つ物を見てそう言った。


 「うん、自分で買ってきて失敗したと思ってる」


 「バカだろ」


今回だけは高橋からの罵倒も受け入れるしかあるまい。


 「それ、なに?」


 「数秒でチャージできるゼリー飲料」


 「いや、それは見ればわかるけど…」


 美波が怪訝な表情を浮かべる。


 「なんでそれだけ買ってきたの?」


 「なんか今日食欲ねぇなぁって思って」


 そう言って俺はゼリーを一気に吸い上げる。

 ゼリーのパックがクシャッと音を立てて一気に潰れる。

 中身がなくなったことを確認し、空のパックを鞄に突っ込む。


 「足りねぇ…」


 「だろうな」


 「それ、放課後までもつ?」


 「無理」


 出来るだけカロリーの消費を抑えよう。

 そう思って俺は机の上に突っ伏す。


 「何してるの?」


 「寝る。出来るだけカロリーの消費を抑える」


 「あはは…」


 おやすみ世界。さようなら俺の昼休み。

 本当なら談笑でもしながら昼飯を食っていたところだが、俺の昼飯は俺の腹を満たすことなく数秒で消え失せた。

 やべぇ、なんもする気が起きん。


 「あの、旭くん…」


 「…ん?」


 俺がふて寝をしようとすると楓が話しかけてきた。


 「よかったら…これ食べて」


 そう言って渡してきたのは大きめのお弁当だった。ふぁ?!


 「え、いいの?というかなんでお弁当二つ持ってきてるの?」


 「う、うん。お兄ちゃんの分だったんだけど、今日は彼女さんが作るらしくて、余っちゃったから」


 「神様!」


 「えぇ?!」


 ああ、神はここにいたのか。随分可愛らしい神様だ。

 あれ?楓が神様なら今までの試練は彼女が?


 「と、とにかく!食べて!さっきのゼリーだけだと倒れちゃうよ!」


 「お、おう」


 半ば無理やりに弁当箱の蓋を開ける。

 ご飯には卵のふりかけ、その横に卵焼き、サラダ、アスパラの肉巻き、などなど、栄養バランスが良く考えられた手作り感あふれる可愛らしいお弁当だった。


 「わぁお…」


 「お前、手作りは弁当は重罪だろ」


 「まだ言ってんのかお前」


 恨めしそうに俺と弁当を見る高橋を無視して卵焼きを箸で取り口に運ぶ。


 「うみゃあ…」


 甘い味付けだ。しつこくもなくとても優しい味に脳が溶けてしまいそうになる。いや、溶けた。


 「ど、どうかな?」


 「スッゲーうまい!」


 「そ、そう?えへへ」


 不安そうに聞いてきた楓は俺の言葉を聞いて顔を綻ばせる。


 「ちょっと頂戴」


 「あ!てめ!」


 高橋が弁当箱からアスパラの肉巻きを盗んでいった。


 「うんま!」


 「じゃあ私も!」


 「貴様ら」


 美波も卵焼きを奪っていく。


 「なにこれ!楓ちゃんじゃん!」


 「どゆこと?」


 卵焼きに頭をやられたのか美波は訳のわからないことを言った。あの卵焼き、頭を溶けるもんな。

 昼休みも終わりに近づいてきたので俺も弁当を食べ始める。うめぇ。

 




 「いやぁ、ほんとに美味しかったよ!」


 弁当を食べ終わった後、改めて楓にお礼を言う。

 しっかり完食。僕のお腹も心も満たされました。


 「そっか、良かった。ふふ」


 こんな弁当を皇先輩は毎日食べてたのか。羨ましいなちくしょうめ。

 そういえば彼女も居たんだっけか。末長く爆発してくれ。


 「楓と付き合う人は幸せだろうな」


 「へ?!」


 楓は顔を一瞬で真っ赤に染めた。すごい、手品みたい。

 「気が利くし、料理できるし、かわいいし、いいことばっかじゃん」


 「〜〜?!」


 「旭君…」


 「お前、よく恥ずかしげもなく言えるな」


 「本心ですから」


 よく考えたらこれ口説いてね?

 さっきの卵焼きのせいで俺も頭が溶けちゃってるのかもしれないわ。

 卵焼き、美味かったなぁ…。

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