207.脱出
『要塞惑星が重力崩壊を開始しました』
ブラウンから報告が入り、要塞惑星中心部の重力が強くなったことを告げる。
強くなったというよりも要塞惑星が自重に耐えられなくなり中心に向けて崩壊を開始したのだ。
「ブラウン! すぐにジェネレーターを分離するんだ!」
『了解しました艦長。これよりジェネレーター分離シークエンスに入ります。これ以降は状況報告のみ可能となります、必要な事はシルバーからお聞きください』
アラートが鳴り響き大型モニターにはその場で待機するように指示が出され、船体の概略図も表示されており今の状況が分かるようになっている。
「お任せくださいブラウン。ありがとうございます」
『後の事は任せます』
「マスター、ジェネレータールームへ移動をお願いします。ブラウンのジェネレーターが外れると同時にIMAシップを装着し、動力パイプを接続します」
「わかった! じゃあみんな行ってくるよ!」
シルバーに誘導されてブルースは部屋を出て行く。
ローザ、エメラルダ、オレンジーナの三人は手を振って見送るが、シアンだけはうつむいたままブルースを見ていない。
ブルースとシルバーは通路の床にある四角いマークに乗ると、四角から透明で大きな泡が出て体を包み込む。
全身が包まれると硬化し、四角が高速で移動を開始した。
全長が三十キロメートルあるので、約時速百キロメートルで移動する手段が必要になってくるのだ。
「シルバー、ジェネレーターの切り離しにかかる時間は?」
「予想時間は十八分三十二秒、到着から三十二秒で準備をしたら間に合います」
「け、結構ギリギリなんだね」
「ブラウンの為にも間に合わせなくてはいけません」
「そうだね、わかった!」
ジェネレーターがメインからサブに切り替えられ、一瞬だけ照明が点滅する。
太いパイプが何本も外されてパイプ内に残った液体が少しだけこぼれ落ち、パイプがジェネレーターから離れていくと、今度はジェネレーター内で循環させる用の曲がったパイプが接続される。
『接続パイプの切り替え完了。固定装置の解除に移行します』
大きな食堂のモニターで様子を見ているローザ達が、その声とモニターに表示される内容を見て不安そうな顔をしていた。
「ね、ねぇ、じぇねれーたーが外れても大丈夫なんだよね?」
「ブルーお兄様の装備と接続したら問題ないと、そう言っていたではありませんか」
「だけどさエメちゃん、じぇねれーたーってブラウンの心臓部なんでしょ? それが無くなったら普通に動けるの?」
「う、動けるはずですわ」
オレンジーナも今になって不安になりモニターを静かに見ているのだが、その膝ではシアンが泣いていた。
この場で一番事情を理解しているシアンが泣いていることが、皆を不安にさせている原因でもあった。
確かにジェネレーターの切り離しに反対していたシアンだが、修理をしたら元通りになるはず……
そこまで泣く理由はなんだろうか。
「ブラウン……ごめんなんだよ……だよ」
『進行状況九十一パーセント。ジェネレーター切り離し最終シークエンスに入ります。以降はサブコンピューターによる案内に移行します』
『サブコンピューター に いこう かんりょう しました』
声はブラウンだが、どこか昔の人工音声を思わせる喋り方だ。
ジェネレーター切り離しも最終段階に入り、船内では作業による振動が増え、重ねて要塞惑星の重力崩壊も進んでいる。
空洞内の壁がはがれ始め、すでに壁を防御する次元フィールドも消え去っている。
「マスター、間もなく到着しますので、簡単な手順をお伝えします」
手順はかなり単純なもので、メインジェネレーターの側にサブジェネレーターがあるので、そちらの動力パイプにIMAシップの動力を接続するだけだ。
ただしIMAシップの出力が強いため、最小出力から必要な出力に上げるまでの調整はシルバーが請け負う。
「わかったよ。調整は任せるから、僕は動かないようにしたらいいの?」
「メインジェネレーターが離れた後はサブもしばらく外界にむき出しになるので、重力に負けないようにしがみ付いていてください」
『ようさいわくせい の じゅうりょくほうかい から だっしゅつかのうじかん ごふん を きりました』
「急ごう! ブラウンのジェネレーターが重力の相殺をしたと同時にワープさせないと!」
ジェネレーターを固定していた部品が小さな爆発とともに外れていき、最後のケーブルが切り離された。
『ジェネレーター きりはなし まで じゅうびょう きゅう はち なな ろく ご よん さん に いち』
ジェネレーターが格納されている外壁が線を引く様に爆発し、ゆっくりとジェネレーターが船から離れていく。
ジェネレーターを格納していた壁がボロボロと崩れ落ち、むき出しになったジェネレーターが出力だけを上げて異常なエネルギーを発する。
「マスター! 出力を上げます!」
「わかった!」
要塞惑星の重力に引っ張られないように残った床や壁にワイヤー、アンカーを打ち込んで体を固定するブルース。
船体が少しだけ中心部に引っ張られるが直ぐに立て直し、徐々に元に位置まで戻る。
船の修復機能が動き始め、むき出しのサブジェネレーターを鉄板で囲い始めるとメインジェネレーターが見えなくなる。
『めいんじぇねれーたー が ばくしゅく を かいしします』
「あれ? 切り離しは終わったんだよね? まだ元のブラウンに戻らないの?」
「そういえばそうですわね。まだ向こうが忙しいのではありませんこと?」
「そっか、微調整が必要そうだもんね」
ローザとエメラルダの会話を聞いて、シアンは大声で泣きだした。
「し、シアン⁉ どうしたの? ……シアン、あなた何を知っているの?」
大声で泣きだしたシアンに驚くオレンジーナだが、その様子から何かを察したようだ。
しかしオレンジーナの声が聞こえていないのか、モニターに映るジェネレーターの無い船内図に頬を当てて泣き出した。
「マスター! ジェネレーターの重力崩壊が開始しました! ブラウンが重力を相殺した瞬間にワープに入ります!」
「タイミングは任せる! 何としてもここから脱出するんだ!!」
要塞惑星の重力に引かれていたジェネレーターだが、自ら発するエネルギーにより真っ赤に燃えたぎり今にも溶けてしまいそうだ。
そしてジェネレーターと要塞惑星の重力が同じになった瞬間、ジェネレーターの移動が止まる。
「ワープイン!!」
船の前方の空間が歪み、見えないはずの宇宙が見えている。
そして吸い込まれるように船体が入ると同時にジェネレーターは臨界点を突破、大爆発を起こして要塞惑星もろとも宇宙の藻屑となってしまった。
「……今ワープしたよね?」
「しましたわね」
「あ、今ワープアウトするわ」
「うわーん! ブラウン! ブラウンー!」
『わーぷあうと しました』
「あ、ジーナさんの言う通りワープアウトしたね。じゃあ成功したんだ! やったぁ! ブラウン流石だね!!」
「本当ですわ。あれだけ低い確率で成功させるなんて、流石はお兄様の船ですわ」
『げんざいいち を とくてい しました ようさいわくせい から さんこうねん の いち です』
「三光年か~、思ったよりも近くに出たんだね。って、ブラウン、いつまでカタコトでしゃべってるのよ」
「まったくですわ。つかれているのしょうか?」
「……ブラウン?」
『しんろ を せってい してください』
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