206.脱出不可能な要塞

「マスター、私達の座標に変化はありません。つまりここは敵要塞惑星の中になります」


 金属に囲まれた広大な空間の中に浮いているブルース達だが、どうやら敵要塞惑星が直接ワープで座標を重ね、内部に取り込んだようだ。


『現在の環境を報告します。酸素はありませんがヘリウムなどが充満しており百万気圧を超えています。さらに異常な重力を検知、恐らくはこの要塞の中心部に向けてグランドールの数十倍の重力が発生しています』


「へぇ、グランドールよりも小さいのに重たいの? いや、今はココを脱出する方法を考えないと。壁を攻撃したら壊せそう?」


「いいえマスター、我々を囲っている壁には次元航行ミサイルと同じ原理で時空間が歪められています。攻撃をしても当たらないでしょう」


「え! じゃあどうするのよシルバー!」


「ワープを試みてはいかがでしょうか」


「ああそうなんだな! ワープで取り込まれたんだからワープで逃げればいいんだよ、ダヨ!」


『ワープによる脱出成功確率は一パーセント未満です。中心で発生している異常重力により外部の座標指定が安定しません』


「あの皆様? もう少し何といいますか……わかるように説明をしてくださいませんこと?」


 エメラルダが手で頭を抑えながら震えている。

 ブルースとローザがわかっている風に聞いているが、実のところシアン以外は内容を理解できていなかった。


「えっとねエメラルダ、今私達が置かれている状況はね、絶体絶命の大ピンチなんだな、ダナ」


「わかりやすすぎて逆に驚きましたわ! 一体どうしたらいいんですの⁉」


「シルバー、ブラウン。今はここから逃げ出したくても逃げ出せない、で間違いはないかしら?」


「『その通りですオレンジーナ』」


 壁を破壊しようにも壁付近の時空間が歪んでいるため出来ず、ワープで逃げようにも異常な重力によりこの空間全体が歪んでいて座標が指定できないのだ。

 つまり逃げるために使える手段が見事に封じられているという最悪の状態だ。

 なのにこんなにのんびりしているのは、焦眉しょうびの急(まゆが焦げそうなほどに火が迫っている状態)ではないからだが、


「遠くじゃなくてもいいから近くにワープ出来ないの?」


『ワープ座標が設定できないので距離は関係ないのです艦長』


「次元航行ミサイルで壁を壊しちゃえ!」


『こちらの次元航行ミサイルよりも出力が上なので不可能ですローザ』


「重力源に外部から干渉はできないのかな、カナ?」


『何度もおこなっていますが入り込めませんシアン』


「な、何とかならないんですの?」


『今のところ何ともなっておりませんエメラルダ』


「敵と会話は出来ないの?」


『どのチャンネル、手段にも反応がありませんオレンジーナ』


「ひとつ……ワープが可能になりそうな手段ならばあります」


『その手段は私もシミュレーションしましたが成功率は二パーセントですシルバー」


「「「その手段ってなに⁉」」」


『その説明は拒否しま「もう一つ重力源を用意して、要塞惑星の重力を中和するのです」シルバー!』


 シルバーの説明を受けて、五人は簡単な事だと感じた事だろう。

 確かに考えてみれば簡単な事ではあるのだが、実はどうしようもない問題がある。


「ブラウン、重力源をもう一つ用意しよう」


『……』


「ブラウン?」


『艦長、シルバーの説明は不足している部分があります』


「不足? それはなに?」


『要塞惑星の超重力に対抗する重力源、それは私のメインジェネレーターを外部に取り出し暴走させる事です』


「「「……え?」」」


 一行はブラウンの言葉を理解するのに少しだけ時間を要した。

 そして意味を理解するとその選択肢が良いのかどうかがわからなくなってしまう。


「それをしたらブラウンはどうなるの?」


『サブジェネレーターがあるので基本的な行動に問題はありません。しかしワープをするとなると出力が足りなくなり、どこかからジェネレータ分の出力を補充しなくてはいけません。今の状況ですと艦長の装着艦船IMAシップファランクスと接続する事でワープが可能となります』


「あら? 想像していたよりも問題が無いように思えますわね」


「そうね、ブラウンのジェネレーターが無くなっても後で修理をしたらいいし、エメの言う通り問題は無いように思えるわ」


「え? ちょっと待ってよジーナ姉さん、ブラウンのジェネレーターを外すんだよ? そんな痛い事をさせるのに問題がないって酷くない?」


「マスターの意見には同意しますが我々は道具です。搭乗者、使用者を護る事が第一であり使命です。私を破壊する必要がある場合も躊躇ためらわずにお願いします」

 

「し、シルバーは仲間なんだな。ブラウンも仲間なんだな。破壊するとか言わないで欲しいんだよ、ダヨ」


 機械に対する考え方が三者三様で中々意見がまとまらない。

 ひとまずブラウン内に戻り意見のすり合わせが必要だ。


「よし! 私決めたよ!」


 ブラウン内のいつもの食堂内に集まると、ローザが机を叩いて立ち上がる。

 

「ブラウンのじぇねれーたーを使って脱出しようよ!」


「ローザ……君が言うんなら僕は同意するよ」


「ううっ……仕方がないんだな、ダナ」


 エメラルダとオレンジーナは元々賛成なので特に問題はないようだ。

 だがそこでブラウンから追加情報が入った。


『ヘリウムが減少しています。同時にニュートリノを観測しました』


「えっと、それはつまり?」


『要塞惑星が重力崩壊を開始しました』

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