196.見えない敵
ブルースが敵の膨大な戦力にどう対処すべきか悩んでいる時、シアンとシルバーは別の事で悩んでいた。
そして二人は一つの結論を出した。
「ブルースぅ、ダメなんだな、ダナ」
「え? 確かに手ごわいけど何とか策を考えて……」
「違うのですマスター。アレはこちらとは根本的に違うのです」
ブルースだけでなくローザ、エメラルダ、オレンジーナも意図が分からず目をパチクリさせていると、ブラウンから説明が入った。
『敵人型兵器の構造は表面上はこちらと同じように物質を使っていますが、その内側、人が入っているであろう場所には人が入っていません、カラッポなのです。カラッポにもかかわらず人と同じような質量を観測できています』
更に混乱しているが、シアンが補足説明をする。
「遠隔操作しているのに人としての質量があるんだよ、ダヨ。つまり遠隔操作なのにタイムラグが発生せず、外装さえあれば無限に湧き出て来るんだな、ダナ」
「さらに追加すると、アレ等はマスター並みに強く、さらに小型なのでこちらの命中率は低く、なのに攻撃力は戦艦以上なのです」
次々と聞かされる言葉にローザが待ったをかけた。
「ちょ、ちょーっとまった二人とも! つまり相手はブルー君並みに強い上にこっちの攻撃が当たらないって事⁉」
無言で頷く二人。
シルバーは変わらず無表情だがシアンは困り果てた表情だ。
それもそうだろう、今のままではどうやっても勝ち目がないと言っているのだから。
「な、なら防御に徹してスキを見て母艦である戦艦を倒す?」
『残念ながら時間切れです艦長』
ブラウンの通信と共に敵艦載兵器が侵攻を開始した。
シルバーが集めた情報によれば人型の艦載機は騎士の鎧に近い形をしており、全身が銀色に輝いている。
身長と同じほどの長く太いライフルを両手で持ち、肩のあたりから斜め上に向けてスラスターが付いた部品が一メートル近く飛び出している。
しかし動いているにもかかわらず炎らしきものは見えない。
ブルース達はレーダーを見ながら防御姿勢を取っているが、不意に敵の最前列がレーダーから消えた。
「あら? 敵の最前線の数が減ってるわよ?」
「え? あ本当だねジーナ姉さん。一体どこにい――」
ブルースの声をかき消すようにアラートがなり響き赤い警告灯が点滅する。
『艦長! 敵人型艦載機が要塞母艦に取り付いています!!』
「なんだって!?」
レーダーには自分よりはるか後方に敵を示す点が表示されていた。
その数は約二百。
それに気が付いた時はすでに遅く、要塞母艦は無数の光の線に切り裂かれ、搭載していた修理中の船もろとも大爆発を起こした。
急いで迎撃すべくブルース達が艦載機を差し向けるが、相手は一瞬で姿を消すと艦載機が同時に破壊されてしまう。
そして次に姿を現したのは敵の最前線、暴れるだけ暴れて味方に合流したようだ。
「……なにが起きたの……?」
『敵人型艦載機の移動速度を計測しました。秒速十五万キロメートル、光速の五十パーセントで移動したようです。つまり一瞬でブルース艦隊に到着し要塞母艦を破壊し、戻るついでに艦載機を破壊していったのでしょう』
「じゃあどうするんですの!? それは防御を固めても意味が無いという事ですわ!」
『はいエメラルダ。要塞母艦を破壊した光線、アレはこちらの防御シールドでは防ぐことは出来ません』
絶望に次ぐ絶望に、すでに言葉が無くなっていた。
秒速十五万キロメートルの移動速度を持つ相手に、一体どんな手段が通じるというのだろうか。
「ジーナ姉さんの聖遺物で使える物はある?」
「無理よブルー。一度や二度の攻撃を防げてもその後に倒されるだけ。それにあれだけの数を相手にどうこう出来る物ではないわ」
オレンジーナの聖遺物は基本的に限られた範囲、限られた人数にしか通用しない。
これほど広い戦闘宙域と一万もの相手には効果が無いのだ。
「じゃあ親玉を倒すしかないね! あの船ならそこまで速くは動けないんじゃない?」
ローザが三隻の敵艦を指さす。
今は動かないでいるようだが、艦載機ほど早いとは考えにくい。
「そうだね……あの艦載機を
「大丈夫だよ! こんな時こそエメちゃんとの姉妹攻撃があるんだから!」
「ちょっとお待ちになって⁉ まだローザとは姉妹じゃありませんことよ!?」
「よ~っしエメちゃん、アレを使うわよ!」
「あーんもう! 仕方がありませんわね、よろしくってよ!」
エメラルダが巨大な鳥ジズを召喚し、大きな翼に包まれるようにエメラルダ艦が入り、その前にローザ艦が入る。
「姉妹活殺砲! ローザ……」
「パーンチ!」
ローザに続いてエメラルダが言葉を続ける。
戦艦の間の空間が歪み、爆発的な勢いでローザの戦艦が発射される。
ブレる船体をジズの翼で挙動を安定・方向修正されて一直線に飛び出していくと、敵の銀色の船に向けて一直線に向かう。
約一キロメートルの巨大な弾丸が秒速二百キロメートルの速度で突き進むのだから、その破壊力は凄まじいものとなる。
ものの数秒で敵戦艦に接近し敵戦艦のエネルギーシールドに触れると……そのままローザ艦の船首が消えていく。
「うへやぁ⁉ 何コレ何コレぇー!!」
速度を落とすことなく飲み込まれるように姿が消えたように見えたが、敵艦を挟んだ反対側から船首が現れており、勢いを落とすことなくすり抜けるように飛んでいってしまった。
「えーー!! なんでなんで! 反転! 反転……って減速できないよ~……」
『ローザ艦、通信範囲外に出ました』
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