197.戦艦がダメなら格闘戦

「なんだぁ? 今のは」


『ふむ、アレはひょっとしたら古代の戦法にあったモノかも知れぬな。確か……神風とか』


 宇宙に浮いているような目線でアロハ男ベンジャー司令官が左を見ると、三〇四号四本足の機械が試験管内の顔を傾けながら答える。


「カミカゼ? それはどんな戦法なんだ?」


『何の事はない、誘導兵器すらない未発達な時代の苦肉の策よ。人が兵器を操作して敵に自爆攻撃を仕掛けるのだ』


「な、なんだよそりゃ! そんなの戦法なんて言えないだろ!?」


『私に言われてもな。そんな事をする程度の相手という事だろう。早く終わらせて帰った方がよっぽど有意義という物だな』


「違いねぇな。お前みたいな物質原理主義者どころの騒ぎじゃねーや、命の無駄遣いじゃねーかよ、ったく」


 右腕を前に差し出してブルース達を指さすと人型艦載機に続いて戦艦も全身を開始する。

 人型艦載機はそろそろブルース達と接触しそうだが、流石に戦艦はそこまで速くないようだ。

 ブルース達は防御態勢を解いて攻撃に移行する。


『艦長、敵人型艦載機が八百キロメートルまで接近しました』


「ある意味ローザが居なくなって良かったかもしれないね。勝てない勝負をする必要がないんだから……全艦一斉攻撃!!」


 五千隻の船と一万を超える艦載機から一斉にレーザーやミサイルが発射された。

 レーザーは光学兵器なので発射とほぼ同時に着弾するのだが、それを敵人型艦載機は当たる事なく避けている。

 なのでミサイルなどは避けるよいうよりもコバエをはらう程度の感覚で撃ち落としている。


「ブラウン! 次元航行ミサイルファランクスも撃って!」


『すでに発射しています。しかし全弾異空間でロストしてしまいます』


「……どういうこと?」


『敵は異空間内でもレーダーが使用可能で攻撃も出来るのでしょう』


 次元航行ミサイルファランクスの一番の強みは防御不能という点だった。

 それは別次元の異空間はわずかに空間がズレただけでも観測できないため、発見や迎撃が困難だからだ。

 だがそれを平気でやっているのが今回の相手だ。


『敵人型艦載機、再接触します』


 人型艦載機としてはゆっくりな通常航行での接近だが、ブルース達の攻撃が全く効果が無いため向こうはナメプも良い所だ。

 なにせ銃を使わずにわざわざ接近して船に取り付き、光学ではない剣を突き刺して走り回っているのだから。


 そんな事をしていてもブルース達の艦載機は近づ事も出来ず、背中にある自動迎撃武器らしい小型マシンガンで撃ち落とされていく。

 人間サイズのマシンガンで大型ロボットを蜂の巣にし、船外を子供の様に走り回って装甲を切っていく。


「くっ! 戦艦に乗ったままじゃダメだ! ブラウン、姉さん達のバトルプロテクターは宇宙でも使えるの?」


『可能です。しかし改良を加えて宇宙戦に対応していますが、エネルギーの消耗が激しいため船から十キロメートル以上離れると三十分以内に活動限界を迎えます』


「離れちゃいけない船は専用艦?」


『巡洋艦以上です』


「上等! シアン! 姉さん! エメ! シルバー! 船外に出て五人で順番に倒していこう!」


「「「了解!」」」


 シアン達が座っていたシートが後ろに下がり、後ろの壁が左右に開いて明るい部屋に入る。

 シートが座っている姿勢から立つように伸びるとバイク用のフルフェイスヘルメット・全身プロテクターのような装甲が胸部・背中・腕・足に装着される。

 更にその上から大量の銀色の液体が吹きかけられると余った分が足元から排水される。


 余計な液体が流れ出るとそこには一回り大きく、そして余計な凹凸が無くなった特殊金属のそれぞれのカラー装甲を纏った姿があった。

 シアンは明るい青色を、オレンジーナは橙を、エメラルダはエメラルドグリーン、シルバーは銀色を基調としている。


 五隻が密着するように横に並ぶとそれぞれの船の上からせり上がって来る。

 シアンは腰に手を当てて、オレンジーナは腕を組み、エメラルダは手に持ったサーベルを一振りし、シルバーは周囲に小型ドローンを数機飛ばしている。

 ブルースは漆黒のパワードスーツで片膝を付き、右拳を床に押し付けていた。


「シルバー、一番近くの敵は?」


「はいマスター。右上方五キロの地点でミサイル艦を破壊しています」


「よし、まずはそれを倒そう!」


 すっくと立ちあがり、ヘルメット内に表示されるデータを確認する。

 右上を見ると一か所が拡大され、敵人型艦載機が暴れているのが確認できた。

 少し屈み、ジャンプすると同時にブースターが点火する。


 人型艦載機はサーベルを片手で持ち、ミサイル艦に足を着けて船体に下手糞な落書きでもしているような感じで乱暴に傷をつけていた。

 ふいに左手を上げると顔を向ける事もなくブルースのフォトンレーザーナイフを手のひらで受け止める。

 面倒くさそうに押し返そうとするが左手は逆に押し返されており、ようやくブルースに顔を向けると目の前には四体の人型兵器が居た。


「ブルー! そいつを逃がさないで!」


 オレンジーナが声を上げて人型艦載機の真横を通り過ぎる。

 人型艦載機の腰にはお札のような紙が貼りつけられており、お札の文字が光ると人型艦載機は一瞬だけ動きが泊まる。


「流石ですわジーナお姉様!」


 続いてエメラルダが接近すると人型艦載機の足に無数の見たこともない黒い昆虫が張り付き、ミサイル艦から離れられないようにする。


「これで逃げられないんだよ、ダヨ!」


 シアンは人型艦載機の背中に小さな四角い機械を取り付けた。

 小さな赤い光が一つまた一つと増えていき、五つになった時点で光は青色に変わる。


「解析完了。システムハッキング……完了、マスター、コレのコントロールを奪いました」


「了解! 空っぽの人型の中核は……頭か!」


 フォトンレーザーナイフを逆手に持ち直し、人型艦載機の額に力いっぱい突き刺す。

 体がビクビクと震えると、全身から力が抜けたように体が揺れ始めた。


『内部の質量消失を確認しました。この個体は制圧完了です』


 ブラウンの報告でようやく一体倒せた実感がわき、思わず拳を握る面々。


「よし! この戦い方なら敵を倒せる!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る