189.クロスボーダー教、終焉
「ブルー、それは六段階になってないわね」
オレンジーナがキャロラインを指さしてそんな事を言った。
キャロラインは三体のバンデージマンを組み合わせて作られているため、ボーダーレスを超えた第六段階目に入っている。はずだ。
「え? でも姉さん、バンデージマンを三体って事はスキルが六つ、六段階目じゃないの?」
「確かにスキルは六つあるわね。
直列じゃなければ並列だと思うが、三角という言葉に混乱する。
ブルースだけでなくローザ達やリック博士までもが頭に?が浮かぶ。
「えっと、ジーナ姉さんもう少し分かりやすく」
「多分だけど、三つの脳が三角形でつながっていて、三つの脳で考えた結果で体が動いているの。簡単に言えばバンデージマン三体が連携を取っているだけね」
「でも姉さん、バンデージマンよりは力が強いと思うよ?」
「力だけは、ね。体が大きい分強いだけで、他は際立って強くないわ。特に
「あ、そういえば魔法なんて使ってきてないや」
「それにバンデージマンはレベルアップせずに、強制的にボーダーレス化したからステータスが低いままなのよ。一段階上がった際の多少の恩恵しか得られていないわ」
レベルアップという知らない言葉を聞いて、リック博士が目を輝かせて口を開く。
「レベルアップとはなんだ!? ボーダーレス化したら全ての能力が上がるのではないのか!?!?」
敵にもかかわらず戦闘よりも知識欲が上回るリック博士に、オレンジーナはため息をつきながら答える。
「スキルに見合った経験を得る事でレベルが上がるのよ。そしてレベル100になったらボーダーレス、一段階上がってステータスにボーナスが入るの。バンデージマンはレベルが低いまま上がったから、単純な改造による身体強化と、最低限のボーナスしか入っていないわ。なんならボーダーレス化せずにレベルを上げた方がステータスが高いくらいよ」
目を輝かせて話を聞くリック博士。
リック博士は理解できたのかもしれないが、他のメンバー、敵も味方もイマイチ理解できていない様だ。
しかし一つだけ理解できたことがある。
最高傑作であるキャロラインが勝てない以上、クロスボーダー教の面々はブルース達に勝つことはできない。
リック博士以外は肩を落としてしゃがみ込むが、当のキャロラインは戦いをやめていない。
「ねぇジーナ姉さん、この人は意識があるの?」
「……残念だけどブルース、ソレは命令に従って動く事しか出来ないわ」
キャロラインは周りの状況など見えず、すでに戦闘が終わっているのに戦いをやめようとしない。
ブルースとの力比べに負けて膝を付いているのだが、息を荒くして巻き返そうとしている。
「そっか、キミには意識が無いんだね……うん、じゃあ終わりにしようか」
漆黒のパワードスーツのバックパックからレーザーガトリングガンが現れ、右肩に装着された。
レーザーガトリングにドローンが合体し、巨大な砲門になる。
「バイバイ」
太い青色のレーザーが発射され、ブルースの前方数百メートルが一瞬で火の海と化す。
ブルースの手にはキャロラインだった者の腕と、地面には足だけが残っていた。
「ブルー君やりすぎぃ!」
「え? ……あ」
ローザに言われて我に返ると、ブルースの攻撃により街が崩壊していた。
議会場はすでに瓦礫と化し、辺り一面も無数の隕石が落ちたように穴だらけになっていた。
「で、でもローザだってあちこち燃やしてたじゃないか!」
「わ、私のは仕方がないんだもん!」
「僕だって仕方がないんだよ!」
ブルースとローザが責任のなすりつけをしていると、宇宙のブラウンから通信が入った。
『艦長、戦闘が終わったようなので後片付けを行います。合流の許可を』
「えっと、うんお願い」
すでに高度を下げていたブラウンは、その大きな船体は遥か上空にいても確認ができる。
ブラウンの演出なのだろうか、普段は音もなく降下できるのだが、今回は低い唸り音と共に雲の中から現れた。
「ティ、ティナン・ノールの浮き島⁉」
リック博士がブラウンの船体を確認すると目を見開いて驚いている。
だがそれ以上に驚き急いで振り向いてブラウンを凝視する人物がいた。
オレンジーナだ。
「ティナン・ノールの浮き島……経典に出て来る聖遺物がなぜ……」
オレンジーナは浮き島を改めて確認する。
ティナン・ノールは高度な文明を持つ神話時代の国で、周囲の国とのあまりの文明の違いから悪魔の国と呼ばれていた。
恐怖にかられた周辺諸国は協力してティナン・ノールに攻めたのだが、ティナン・ノールは戦う事なく大地の一部と共に空へと飛んでいってしまったのだ。
それがティナン・ノールの浮き島だ。
ブラウンは外宇宙探査戦艦だが、全長三十キロメートル、全幅四十キロメートルのL字型をしており右側が前に出っ張っている。
確かに宇宙船を知らない人間が見たら島が浮いているように見える。
「そう……だから私の浮き島が出せなかったのね」
一人で静かに納得するオレンジーナだが、リック博士以外のクロスボーダー教四人はブラウンの姿に畏怖している。
そしてやはり演出だったのだろう、さらなる演出として六人の専用人型機動兵器が射出され、それぞれの主の背後に着地する。
「鉄の巨人……なんでぇ、はなっから俺達じゃ勝負になってなかったって~事か」
「うむ。ワシらではどうしようもない相手だったようじゃな」
「くっ! 騎士としては負けを認めざるをえない!」
チョイ悪オヤジのシャバズ、ヒゲ面小男のエンヴェア、騎士かぶれのブロンソンは悔しがるそぶりすら見せずに負けを悟ったようだ。
おかっぱ長身の女性アリアナは意識が戻ったのか、指を組んで祈りをささげている。
リック博士は……情報を得ようとブルース達ににじり寄っていた。
「アレはお前達が呼んだのか!? お前達は何者なのだ!? 第四段階なのにワシ等よりも強いのは何故だ!? ワシもお前達の様に強くなれるのか!? 改造に間違いがあったのか!?」
などなど、少なくとも反省はしていない。
「こ、この人怖いんだな、ダナ」
「負けてもタダでは起きないタイプですわね」
「あなたの質問に答える必要性を感じません」
シアンは怖くてブルースの足にしがみ付き、エメラルダは腰に手を当ててため息をつき、シルバーは冷たい目線をリック博士に向ける。
「ま、まぁとりあえずは一件落着、でいいのかな?」
「そうだね。ねぇブルー君、この人達はどうするの?」
「犯罪者として国に差し出したいんだけど……国の要人は全部改造されて死んじゃったし、どうしよう」
『艦長、ローザ、それについては提案があります』
ベラヤ=バイマーク連合議会での戦闘から数日が過ぎた。
主にブルースとローザによって破壊された街は、ブラウンと作業ロボットにより瓦礫の撤去は九割がた終わり、復旧作業に入っている。
肝心のベラヤ=バイマーク連合議会の議員たちだが……以前とは打って変わって国民の為に働いていた。
「議員のクローンを作っていい人にするって、反則じゃない?」
「ですがローザ、今のところ順調にいっていますわ」
死んでしまった議員たちはブラウンによりクローンが作成され、心だけを善人にして政治家として活動していた。
もちろんブルース達には歯向かえないように調整済みだ。
ブルース達は久しぶりに自宅に戻り、近くの湖のほとりでノンビリとしていた。
今までがあまりにも忙しかったので休暇もかねて、本当にのんびりしている。
だが……遠い宇宙ではすでに動きがあったようだ。
ブルース達とは別の宇宙で、何も無い白い部屋に突如として二人の男性が光と共に現れた。
一人は少しニヤケ顔でビーチを散歩していそうな格好の男、もう一人はスーツなのだが……よく見ると燕尾服だ。
「原始人たちに負けた星はどうなるんだ?」
「すでに粛清が行われた様だ。元々短期の管理しかさせるつもりはなかったようだが、それが千年ばかり早まっただけだがね」
この二人の男性には実体がないのだが、白く何も無かったはずの部屋に光の線が走ると重役の会議室の様に豪華なイスやテーブルが現れた。
そして椅子を引いて腰を下ろす二人。
「原始人に負けるような連中なんて必要ないからな」
「だが報告によると大型の船を持っているらしい。油断はしない方が良いだろう」
堅い喋り方をしている男性がテーブルを指で叩くと、目の前に一つの星が立体映像として現れる。
それはブルース達が住んでいる星だ。
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