182.全空議事会
「なんか拍子抜けするくらい簡単に入れたね!」
「本当だね、クロスボーダー教の本拠地だからひと悶着あると思ってた」
ブルース一行は昼過ぎにベラヤ=バイマーク連合議会の首都・キネリテゥイに入っていた。
街に入る時に門番に招待状を見せたのだが、宿を紹介されただけだった。
まだ雪は降っていないが気温は低く、石を積み上げて作られた家が立ち並んでいる。
「あ、お兄様アレじゃありませんの?」
後部座席から前を覗き込んでいたエメラルダが指さした先には豪華な宿屋がある。
宿というよりも高級ホテルといった出で立ちだ。
厚着をしている街の人を避けながら進み、ローザは車内で荷物を漁っている。
「えーっと、確かこのハッチに……あったわ、冬用のコート」
人数分取り出しているが、
いつも通り馬車置き場に
「随分と時間がかかったな。ようこそクロスボーダー教の本拠地、キネリテゥイへ」
その年老いた長身の男性は真ん中から分けた長い白髪、顔はしわだらけで口のまわりとアゴにも白いひげを生やしている。
白衣は茶色く汚れ、右目は閉じており、右目の上から頭頂部にかけて縫った後がある。
リック博士だ。
「「「リック博士!」」」
みんなが一斉に声を上げて武器を構える。
だがリック博士はもちろんホテルマン達も全く慌てるそぶりが無い。
「おいおい、こんな場所で戦闘をしようなんて常識がないな。我々が戦うと被害がな……それとも街ごと破壊するつもりなのか? クックック」
握った右手を口に当てて笑い、まるで子供をたしなめるように優しく語り掛ける。
「緊張するのはわかるが少し落ち着いたらどうだね、こんな場所で戦闘をするほど私もバカではないのだよ」
バカではないが狂人だと言いたいが、ブルース達も荒事にしたくないので武器をしまい、一呼吸入れるとリック博士を見る。
どう対応したらいいのか分からないブルースに替わり、オレンジーナが前に出た。
「ご招待いただきありがとうございます。始めて来る国なのでとても楽しみですわ」
「おおそうか!
もちろん嫌味のつもりで言ったのだが、リック博士に嫌味は通用しない様だ。
リック博士が近くのボーイに声をかけるとボーイはブルース達に近づく。
「お客様、手続きをしますのでこちらへどうぞ」
普通の客のように扱われるのだが、リック博士が関わっているのでこのボーイも関係者なのかと疑ってしまう。
だが見た感じだとボーダーレスや改造をされていない、普通の人間に見える。
戦うわけでは無いようなので、素直に従い部屋に案内される。
部屋はVIPルームで、最上階のワンフロア全てを使った豪華な部屋だ。
ブルースとローザは豪華すぎて落ち着かない。
「きっ、キレイすぎて緊張するじゃない! 全然落ち着かないわよ!」
「「え?」」
と驚いたのはオレンジーナとエメラルダ。
二人は王宮にもよく行くためあまり驚いていない様だ。
生まれの違いを見せつけられたが、上手く会話に繋がったので緊張もまぎれた様だ。
翌朝、ブルース達を迎えに来る者が居た。
「遅い! 迎えに来たんだからすぐに出てこないか!」
濃い茶色の髪を軽く横に流し、鋭い目つきの若い男性は上半身だけ金属の鎧を着た 騎士気取りの男、ブロンソンだ。
ブルース達の前に何度か現れたクロスボーダー教の男だが、馬車の横に立って腕を組みイラだっている。
「事前の連絡も無しに来ておいて、その言い草は何なんですの? 騎士風に見えますが、やはり騎士ではありませんのね」
エメラルダが不快感を前面に押し出して抗議すると、ブロンソンは舌打ちをして御者席に座り、早く乗るように首で促す。
マナーの無さにエメラルダだけでなくオレンジーナも呆れるが、当のブロンソンは全く気にした様子はない。
「おい何やってる早く乗らないか!」
馬車に揺られて到着したのは何と議事堂。
ベラヤ=バイマーク連合議会は国王が居ないかわりに議会で物事を決定する。
その政治の中枢がこの議事堂だ。
パルテノン神殿の様に沢山の柱が立ち並び、案内されるままに進むと柱の奥から強い光が差し込んで来る。
目を細めて光に向かうと、そこは芝生が敷かれた広場だった。
正確には芝生を階段状の石のベンチで囲まれている。
その芝生の真ん中にはリック博士が立っており、ベンチには沢山の人が座っている。
「ようこそ
ベンチに座る人々が
どうやらいきなり敵の真っただ中に放り込まれた様だ。
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