181.首都キネリテゥイ

 ベラヤ=バイマーク連合議会に入り、最初の街に到着した。

 この国は土地は広大だが人が住める場所が少なく、北に行けば行くほど寒くなり氷で覆われている。

 なのに首都は北の方にある、不便そうだ。


「何のおとがめも無かったね!」


「本当だね、リック博士やクロスボーダー教の連中が何かして来ると思ってた」


 助手席で胸をなでおろすローザと、冷や汗を拭うブルース。

 ブルース達は魔動力機関装甲輸送車ファランクスに乗ったまま入国審査を受けたが、身分を証明できる物を見せたらあっさりと通してくれた。

 貴族の娘がいるから……だけではないように思える。


 というのも門を守る兵士の反応は、六人全員変わらなかったのだ。

 かといって誰でも通すのかと思えば、他のグループは通れない者もいた。

 何らかの手が回っているのかもしれない。


「とりあえずは最初の街に向かいましょう。そこでゆっくり休みたいわ」


「そうですわねお姉様。食事は豪華にしましょう、どうせ代金はローザ持ちですわ」


「はうぁ! あまり懐がゆたかじゃないから手加減して!」


 というフラグを立てたので、当たり前の様に高級そうな店に入って舌鼓をうつ五人と、最初は不満気だが美味しかったのでご機嫌なローザ。

 翌日になって街を出たのだが、すぐに衛兵らしき人物に呼び止められる。


「あなた方に招待状が届いております。こちらをどうぞ」


 渡された白い洋封筒に宛名は無く、送り主も書かれていない。

 六人で洋封筒を開くと中には厚手の紙が入っており、それに一言だけ『キネリテゥイまで来られたし』と書かれていた。


「キネリトゥイ? 確か首都だよね」


「そうよブルース。招待状について衛兵に聞きたいところだけど、もう姿を消してしまったわね」


 オレンジーナの言う通り招待状を渡した衛兵の姿はすでになく、他の衛兵に聞くもそんな招待状は知らないとしか返事は帰ってこない。


「招待されたのならば行くしかありませんわね」


「リック博士がいるのかな、カナ」


「これからの手掛かりがコレしかない以上、向かうしかないでしょう」


 エメラルダ、シアン、シルバーは向かう事に賛成のようだ。

 しかし難しい顔をしている人物がいた、ローザだ。


「あの、さ。キネリトゥイに行ったら間違いなく戦いになるよね?」


「そうだね、リック博士やクロスボーダー教の連中とは意見が合わないし、それにバンデージマンみたいに人を無理やりボーダーレスにするのは良くないと思う」


「それはわかってる。クロスボーダー教はボーダーレス至上主義だし、リック博士は許せない。でも……ブルー君大丈夫なの? お兄さんをあんな風にした犯人を前にして、冷静でいられる?」


 ブルースの兄であるシャルトルゼはリック博士によりバンデージマンにされ、ブルースとシャルトルゼは死闘の末にシャルトルゼを倒した。

 兄弟殺しをさせた張本人がリック博士なのだが、それ以降も出会っている。

 今になって心配する必要はあるのだろうか。


「それも含めてリック博士は許せないよ。でもどうしたの? ローザってこんなに心配性だったっけ?」


「今回はなんていうか……今までとは違う気がするの。ただの殺し合いじゃすまないっていうか……不安なの」


 ローザが何に対して不安をいだいているのかわからない。

 単純な強さで言えば、この星でブルース達にかなう者は存在しないのだから。


「確かにリック博士達は油断ならない相手だね。でも僕はずっとローザと一緒に居たいから、絶対に負けたりしないよ」


 不安がるローザの手を握り、優しく手の甲にキスをするブルース。

 ローザは一瞬理解できず手の甲を眺め、顔を真っ赤にしてブルースを見ると、ブルースは恥ずかしそうに目を逸らす。

 それを後部座席から身を乗り出してニヤけるオレンジーナ、目と口を大きく開いて踊りだしそうな顔のエメラルダ、シアンは喜んでローザの頭に抱き付き、シルバーは一度頷き安心したように後部座席に座り直す。


 キネリトゥイへ向かう道中は騒がしいモノだった。

 数日はみんなでブルースとローザを冷やかし、それにブルースとローザが言い返したり顔を赤くしたり。


 そろそろキネリトゥイに到着しようとする頃、首都キネリテゥイではブルース達を待ち構える集団がいた。


「調整は終わったか?」


「はっ! 調整は終わりました。後は実戦で運用するのみです」


 朽ちた教会の一室で、リック博士が研究員に確認をする。

 部屋には様々な実験道具が置いてあり、その一角に大きな人間らしき者が十字架に腕を広げた状態で鎖でくくりつけられている。

 身長は四メートル程、細身だが筋肉質で顔には鉄の面が付けられているが、他には破れたズボンをはいているだけだ。


 だらりと力なく首を落としていたが、その目は真っ赤に輝いていた。

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