176.再・六人の勝負①

「じゃあどうする? みんなで一緒に行く?」


「一緒に行ったらブルー君が一人で倒して終わっちゃうじゃない!」


 ローザが愚痴るとエメラルダが提案をした。


「丁度六名いるのですから、それぞれが一つの国へ行けばよいと思いますわ」


「エメの言う通りね。活躍の場はみんなに平等に与えるべきね」


 エメラルダの提案に乗っかる姉のオレンジーナ。

 しかしシアンはたまったモノではない。


「え? みんなは良いけど私は戦闘は得意じゃないんだよ、ダヨ⁉」


「大丈夫ですシアン、勝てばよいのです」


 反対するシアンをたしなめるシルバー。

 勝つ、とは一体??

 ゴールドバーグ王国に戻って来て、そのまま北の大国ベラヤ=バイマーク連合議会へ行くのかと思ったが、やはり国を囲んでいる六国をどうにかしていく様だ。


 リック博士が改造した人間、目が繊維の怪物を放置していくと、ゴールドバーグ王国は一瞬で無くなってしまうだろう。

 アルマルカ帝国を出て直ぐの山道、魔動力機関装甲輸送車ファランクスの中での会話だが、シアンの反対をよそに勝手に話が進んでいく。


「じゃあ一番遅かった人は晩御飯オゴリね」


「「「さんせーい!」」」


「反対なんだよ、ダヨー!」


 山を下りると魔動力機関装甲輸送車ファランクスを消し、それぞれの国へと走っていく。

 今回は勝負なので、ブルースのレーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスの使用はブルース以外は禁止。


「ブラウン、各国の繊維目の位置はわかる?」


 ブルースは小型イヤホンに向けて語り掛ける。


『はい艦長。各国ともに一万前後、もれなく地下に収容されています』


「ではマスターにお借りしたレーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスは各国の上空でナビゲーター代わりに使いましょう。正確な位置と数が把握できなければ、勝負とは言えませんから」


『ではシルバーのドローンとこちらで情報共有します。それとこれをお使いください、それぞれに必要な情報が表示されます』


 ブルースとシルバー以外の四人に、ブラウンから何かが転送されてきた。

 小さな丸い樹脂製のケースに見える。


『そのジェルを左目の下に塗ってください。目の前に情報が表示されます』


 ケースの蓋を開けると透明なゼリー状のジェルが入っていた。

 四人はそれを左目の下に塗ると、左目の前に本人にしか見えない小さな情報が表示された。

 目標の位置、目標の数、時計、経過時間、現在位置、緯度経度など、目の前にあるから見えるが、他人からは目ない程小さな文字だ


「うわっ! なにこれなにこれ! すっごい便利そう!」


 ローザはとても喜んでいるが、シアンはどんな仕組みなのかを必死に考え、オレンジーナとエメラルダはあるがままを受け入れている。


『艦長とシルバーにも同じ情報を送りますので、好きな場所に表示させてください』


 ブルースはパワードスーツが、シルバーはアンドロイドなので情報を表示させる必要もない。


「よーし、じゃあカウントダウンよろしくね」


『では行きます。五、四、三、二、一、スタート!』


 一斉に飛び出す一行。

 ブルースとシルバーはロケット噴射で空を飛び、エメラルダはペガサスを駆り、オレンジーナは何かの聖遺物を使って天使の翼を生やし飛んでいく。

 ローザとシアンだが……


「えっへっへ~、実は長距離移動の方法を考えたんだ~」


「え!? ずるいんだよローザ! 一緒に走っていくんだよ、ダヨ⁉」


 ローザは両手に巨大な指のない籠手を装備し、地面を力いっぱい殴りつける。


「バーニングナックル!」


 拳の先から巨大な炎の竜巻が発生し、その勢いでローザは空を飛んでいった。


「ピー! ずるいんだよローザ! 私にはそんな技ないんだよ、ダヨ~!」


 ピーピー泣きながら、急いで足を速くする薬を飲みピョンピョンジャンプして進むシアン。

 それだけでも早いのだが、他の五人の速度が異常すぎる。


 一番最初に目的地に着いたのはオレンジーナだ。

 廃棄された村らしき場所へ到着し、少し離れた木の陰から様子を見ている。

 誰もいない様だが、姿を消す聖遺物を使いどうどうと真正面から潜入? を開始する。

 左目に表示される目標地点までの距離は五百メートル、


「んもう、地下ってジメジメしてて嫌いよ」


 表示される矢印の通りに進むがかなり深く、十メートルは潜っただろうか。

 通路は広いが階段もない穴で、たいまつがかけられているので問題なく進める。

 すると前に大きな木の扉が現れる。


「この中なの?」


『はい。この中に九十九パーセントがいます』


「残りは?」


『十体ほどは別の場所にいます』


「そ、中に人はいる?」


『人間は確認できません』


「わかったわ」


 そう言うとオレンジーナは道を戻り地上へと出てきた。

 地上から地下にあった扉の位置を確認すると、その先にあったであろう空間の上に向けて何かを放り投げた。


「ルードシッダの巨象!」


 小さな木製の象を投げると、地面を転がった木の象は強い光を放つ。

 そして見る見る大きくなっていき、その大きさは周囲の廃虚を破壊しながら全長二十メートルを超えた。

 そして……地面が抜けたのだ。


 轟音と共に地面が崩れ落ち、地下にあったであろう部屋を大量の土砂で押しつぶしてしまったのだ。

 オレンジーナの左目に表示されていた一万を超える数字が十になる。

 

『残り十体です』


 一瞬で目が繊維の敵を殲滅させてしまった。


「じゃあ残り十体を回収に行きますか」

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