175.牢獄入り

 貴族が集まる機会は直ぐに訪れた。

 なにせ毎日集まっているのだから、翌朝になれば全員が登城するのだ。


「僕も一緒に行って大丈夫?」


「大丈夫だよ! 私達はいつも集合時間が過ぎてから入るから、その時に一緒に入れば大丈夫だから!」


 どうやらローザ達は重役出勤が認められている様だ。

 ローザ達の後にギーゼラ皇后と皇帝が会議室に入り、戦争の話が始まるのが定例だ。

 ブルース達はローザの部屋でくつろいでいるが、そろそろ時間のようで全員で部屋を出る。


「すまぬな、私達の国の為に手を煩わせてしまった」


「構わないよグレイ。僕達だって目的があって来たんだし、騎士団に訓練してもらったお礼くらいさせてよ」


「……あれはズー・バウスを討伐してくれた礼なのだが」


「あれそうだっけ? まあいいや」


 あっけらかんと言い放つと、会議室の前に到着した。

 両開きの扉は開け放たれ、扉の脇には兵士が待機している。

 中に入ると、とてつもない熱量で話をしている貴族と軍人たち。

 戦争を始めるのが楽しみで仕方がないようだ。


「昨日までは私もこうだったのね」


「冷静になってみると、あまりに異常な光景ですわね」


「私のCPUはスキルに劣るのですね……ブラウンにお願いして強化してもらいましょう」


「うっわ、あの貴族なんて何人死ぬかって賭けをしてるじゃない! って昨日の私もしてたわね! あはははは!」


 オレンジーナ、エメラルダ、シルバー、ローザが言うだけいって落ち込んでいる。

 ボーダーレスとなり、更にランクが上がっているので自分に自信があったのだ。

 なのに簡単に術中にはまってしまい、嫌悪感が押し寄せているのだろう。


「とりあえず先に終わらせるね」


 ブルースがタイムパラドックスガンファランクスを構えると、百発以上の渦を巻いた弾が発射され、その場にいる貴族・軍人に命中する。

 全員が倒れ込み、会議室には静寂が訪れた。


 そして数分後、何も知らずに入って来る皇帝とギーゼラ皇后。


「それでは正式に開戦の日時を決め……ん? なんだお前達、なぜわらわの顔をじっと見つめている?」


 いつもの調子で会議を始めると、いつもと違う空気に戸惑うギーゼラ皇后。

 そして皇帝に渦を巻いた弾が命中し昏倒、ギーゼラ皇后の味方は居なくなった。


「さて、まずは私から一言いわせてもらうわね。あなたとは姉妹でも何でもありません! 勝手に兄弟を増やさないでください!」


「じ、ジーナ? 何を言っているのだ、私達は血の繋がった実の姉妹よりも深い絆で結ばれた――」


「へ・ど・が・で・ま・す。私の兄弟よりも深い絆ですって? 寝言は言わないでください」


「まったくですわ。私やジーナ姉様、ブルー兄様の絆よりも深い者など存在しませんもの」


 昨日までは従順だった者達が、今日になって牙をむいている事が理解できないギーゼラ皇后。

 しかも他の貴族達もうなずいているのだ。

 そう、皇帝・皇后が来る前に話は終わっていた。


聖女セイントだと思っていたら、呪言士ワードクリエイター? そんな恐ろしいスキルを持っていたとは」


聖女セイントかたったのだから、それなりの罰は受けて頂きますぞ」


 貴族達からあり得ない発言が相次ぎ、ギーゼラ皇后の顔色は徐々に蒼くなっていく。

 そもそも自分のスキルがバレているなど想像した事も無いのだろう。


「な、なぜ私のスキルの事を……⁉」


「そんな事はどうでもよいのです! 今は聖女セイントかたった事と戦争を始めようとした事をしっかりと説明してもらいますぞ!」


 イスからずり落ち、足に力が入らないのか立つことも出来ないギーゼラ皇后。

 生まれたての小鹿の様に何度も転び、その音で皇帝が目を覚ました。


「ん? なぜ私は寝ていたのだ?」


 ブルース達が皇帝に説明をすると、記憶にある内容と合致するためすんなりと話が進む。


「戦争などもってのほかだ。ギーゼラ、お前はしばらく牢に入っておれ」


 その一言で全てが解決した。

 ギーゼラは当分牢屋から出られないだろうが、一応は国に結界を張り、怪我人を治すという功績は残している。

 死刑にはならない、という程度だが。


 しかしいきなり聖女セイントが不在になるので大変かと思いきや、実はちゃんと聖女セイントが居たのだ。

 ギーゼラ皇后により追放されていたが、実は心ある貴族たちがかくまっていた。


 なので正式に聖女セイントの役職に就き、国の混乱は最小限に抑えられた。


「お前達には世話になりっぱなしだな。ズー・バウスの討伐だけでなく、戦争まで回避させてくれた。どうやって礼をしたらいいかわからないのだが」


 グレイがエリヤス邸の自室でブルース達に頭を下げている。

 一通りの事が終わり、ようやく一息ついたのだろう。


「なんだか思ったよりも大ごとになっちゃったね」


「お前達がいなければ、アルマルカ帝国は遠くない未来に戦争をしていただろう。一体どれだけの犠牲が出るか想像もつかぬな」


「行く前に防げたんなら良かった」


「……本当にもう行ってしまうのだな」


「うん。僕達にはやる事があるからね。アルマルカ帝国に来たのだって、その目的の為だったから」


「その、仲間にとは言わぬが、グラオの事を気にかけてやってくれないか? こやつはお前達を大層気に入っているのだ」


 グレイは自分が間借りしている体の主、まだ幼い少女グラオが心配なようだ。

 確かにグラオはみんなに懐いていたし、ブルース達もかなり感情が入っている。

 だが大公の娘であり、国を護る役目があるグレイは簡単に国を出る事は出来ないのだろう。


「そっか、グレイはもう仲間のつもりだったけど、グラオちゃんがいるから一緒には来れないんだね! じゃあアレを渡しちゃう?」


 ローザが目をキラキラさせてブルースを見る。

 ブルースもそのつもりだったのか、何も言わずにグレイにイヤリングを渡す。


「イヤリング? グラオには早くないか?」


「それは通信機だよ。それを付けると僕達と会話が出来るようになるんだ」


 通信機と言われても理解が出来ないが、悪い物ではないだろうとイヤリングを耳に付ける。

 すると。


『こんな風に声が聞こえるんだ。どこにいても会話は出来ると思うよ』


「ぬおおぉぉぉ!? なんだこれは! 耳の側で声がしたぞ!?」


 初々しい反応に思わず笑いだすブルース達。

 アルマルカ帝国を出て、魔動力機関装甲輸送車ファランクスの中で今後の話をしている。


「ベラヤ=バイマーク連合議会ですの? クロスボーダー教の本拠地があるのは」


「らしいよ。紙にはそう書かれてた」


「むぅ、ブルー君が一人で船を攻略したの? 私も一緒に行きたかったなぁ」


「遂に決着がつくのね。少なくともあのリック博士の暴走は止めないと、世界がおかしくなってしまうわ」

 

「リック博士が作るものは……気持ち悪いんだよ、ダヨ……」


「しかしマスター、このまま行ってはゴールドバーク国王が危険です」


 シルバーの言い分ももっともだ。

 なにせ現在ゴールドバーク国王は周囲の六国に攻め込まれているのだ。

 しかも相手は目が繊維の兵士を多数保有している。


「まずは六国との戦争を落ち着かせないとね。行くのはそれからにしよう」

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