171.キュアキュア

「ギーゼラの暴走を止めたいが、本人に言った所で聞き入れはすまい。であれば周りを攻める必要があるのだが……さて、久しぶりにメンバーを招集するか」


 城を出たグレイはエリヤス邸に戻って来た。

 そして急いで手紙を何枚もしたため始めるのだが……メンバーとは一体何のメンバーなのだろうか。


 その正体は翌日の昼に判明した。

 五歳から十五歳までの貴族令嬢が約三十人も集まり、グラオ(グレイ)の部屋に入っているのだ。

 キャーキャーと遊んでいるが、グラオが教壇のような場所に立つと静かになり、イスを持って五つの列を作り座る。


「よく集まってくれた! これより我々『プリティ戦士・キュアキュア』の任務を発表する!」


 グレイが右手を前に掲げると、貴族令嬢たちは大盛り上がりで拍手喝采だ。

 「キャーグレイ様ー」や、「わたくし達の出番ですのね!」「国の平和は私達が護るのです!」などと言っている。


「グレイ様、一つ質問がございます」


 中央の列最奥の年長の令嬢が手を上げる。


「うむなんだ? アンヌ」


「今回の招集内容は、グラオ様は御存じなのですか?」


「いや今回は言っておらん。お前達と同じだ」


「それならば安心しました」


 そう言って席に座る

 グラオは咳払いをして話を始めた。


「今回集まってもらったのは他でもない、この世界を揺るがす事件が起きようとしている!」


 世界を揺るがす事件と言われ、令嬢たちは「怖い」「一体何が」などと口にする。

 ざわめきが収まるのを待ち、グレイは言葉を続けた。


「もちろん我々は事件を阻止しなくてはならない! 作戦名は『肩車作戦』だ!」


 作戦の全容が説明されると、どうやら不満を抱えていた令嬢が大多数のようで、みんなノリノリで作戦に賛同した。

 はたして肩車作戦とは⁉

 ちなみに作戦発表後はみんなで楽しくお茶会をしたが、グラオは人気者のようでグラオを中心に輪が出来ていた。


 翌朝、早速作戦が始まった。

 とある貴族の邸宅で家族そろっての朝食のはずなのだが……様子がおかしい。


「ん? ナタリーはまだ寝ているのか?」


「アナタ、それが様子がおかしいのです。一緒に様子を見に行ってくれませんか?」


「五歳にもなって何を……まぁ見に行くか」

 

 令嬢の部屋の前にいくと、困り顔のメイドや執事がたむろしていた。

 

「どうした、まだナタリーは寝ているのか?」


「だ、旦那様、起きてはいらっしゃるのですが要領をえなくて」


 執事が額の汗を拭き、メイド達はチラチラと旦那様の顔を見てヒソヒソ話をしている。

 そんな様子に気が付く事もなく、旦那様は扉を叩いて大きな音をたてる。


「ナタリー朝食の時間だ、早く起きて出てきなさい!」


「イヤです! お父さまは私の事をキライいなんでしょ!」


「え? いきなり何を言っているんだ? お前の事を嫌いになるはずがないだろう」


「ウソ! 私やお母さま以外のオンナにウツツをぬかしているんでしょ!」


「何を言って――」


 ピシャーっと雷が落ちる音がした。

 旦那様が恐る恐る振り向くと、闇に包まれた奥方の目が真っ赤に光っている。


「アナタ……どういうことですか?」


「ぼ、僕が浮気なんてするはずがないだろう? ほら、僕はこんなにも君達を愛しているじゃないか!」


「ウソです! さいきんは私ともお母さまとも全然あそんでくれません!」


 奥方のプレッシャーもあり、錆びたおもちゃの様に動きがぎこちない旦那様。

 その顔は真っ青になり、冷や汗が止まらない。


「さささ、最近はちょっと忙しかっただけだよ! ほ、ほら今日はずっと遊んであげられるからね! ナタリーは何をして欲しい⁉」


「肩車してほしいです」


「よ、よーし、じゃあ朝食がすんだら庭で肩車をして上げよう」


 こうして旦那様は奥方と娘に負けてしまい、城で行われる議会を欠席する事になった。

 まあ一日くらい休んでも問題は無いだろう、と軽く考えていたようだが、実際はそんな簡単な物ではなかった。


 ・別の貴族宅


「お父様、お父様は堕落だらくしました」


「なん……だと? 私が堕落しただと?」


 同じく朝食の席で、十歳になったばかりの令嬢ミレイユが父親を指さした。

 

「人を指さすのはやめなさい」


「申し訳ありませんお父様。堕落したお父様に指摘されるとは、私も堕落していたのですね」


「なんなんださっきから。人を堕落したなどと」


 ナプキンで口元を拭きながら、娘の暴言に抗議する。

 ミレイユはフォークをテーブルに置くと、ナプキンで口を拭いてため息をつく。


「そんな事に気が付かないから堕落しているのです」


「私は堕落なんてしていない! 今だってしっかりとした目標を持って邁進まいしんしているんだぞ!」


「お姉様のお誕生パーティーをすっぽかしましたよね?」


「すっ、すっぽかしていない! 最初の方は参加しただろう!」


「結婚記念日にお一人でお出かけされましたよね?」


「そっ、それは緊急の用事が……」


「私との遊ぶ時間が減っています」


「だっ、だから忙しくて……」


「男子たる者、仕事と家庭を両立させなくてはなりません!」


「ぐわあああーーーー!! 俺は堕落してしまったのかー!」


 頭を抱えて叫び声を上げる父親。

 娘に指摘されただけでここまで落ちるものだろうか。


「それにこんなウワサを聞きました」


「……次は何だ」


「お父様は……男性がお好きなのでしょう?」


「はっ!? なんだそのウワサは!」


「夜な夜な屋敷を出て、数名の男性と共に離れに行くのですから、男性が好きなのだともっぱらのウワサです」


 思いっきり心当たりがあるため呆然自失の父親。

 ふとなぜこんな事をやっていたのかと疑問もわいて来る。


「俺は……俺は妻とお前達を愛しているんだー! 断じて男色ではないー!」


「では証明してください。その……久しぶりに、か、肩車をして欲しいです」


 十歳にもなると肩車が恥ずかしかったのか、少し照れながらお願いをするミレイユ。

 しかし目が覚めた父親は気合いを入れて肩車のスタンバイに入る。


 ・城の会議室

「ど、どうなっているのだ!? なぜ三十人近くも欠席している?」


 ギーゼラ皇后が多数の空席を見て声を荒げている。

 城の会議室では連日話合いがされているが、今日は大切は議決を取る日だった。

 三十人近くの貴族達それぞれが「自分一人くらいいなくても会議はとどこおらない」と考えた結果、三十人近くが休んでしまったのだ。


 これだけ貴族が欠席すると会議が進まなくなってしまう。

 なにせ軍人も休んでいるのだから、全く作戦が練れないのだ。


「一体何が起きているというのか……」


 まさか幼い令嬢たちの仕業とは思わず、第三の敵の存在まで考えてしまうギーゼラ皇后。

 そんな様子を想像してか、グレイは一人ほくそ笑んでいた。


「さて、これで数日は時間を稼げるな。後はブルースを見つけてあの四人を説得せねば」


 ☆★天界★☆

「ねぇ? いくら重装歩兵ファランクスだからって、この経験値は多すぎない?」


 地下の船で戦闘中のブルース達を、もやに映る映像で見ている女神と男神。

 ステータスを見ているとドンドン経験値が上がっている。


「どれどれ? アンデッド人魚が一匹で五万オーバー? これはアレだね、環境補正が入ってるね」


「何それ?」


重装歩兵ファランクスが水中戦なんかしてるから、有利不利がさらに広がってるんだ。それにしても良く倒せてるね」


「なんか薬を飲んだら動きが良くなったわ」


「薬? なんの薬だい?」


「知らない。それよりもさ、このままだと一気にランクがあがりそうよ」


「……本当だね、百匹はいるから上がるね」 


「そろそろ私はこっちへのお迎え準備をした方がいいかしら?」


「いや流石にそれは……個人で第十ランクを超えるなんてありえないよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る