154.重装歩兵の本領

 一晩が過ぎ、翌朝からズー・バウス戦が開始された。

 精霊種であるズー・バウスは、姿を消している時はダメージを与えられない。

 精霊使いエレメンタラーやレベルの高い調教師テイマーなら姿を見る事が可能で、ダメージを与える事も可能だ。


 なら二種のスキル持ちを集めればいいのだが、高レベルの調教師テイマーは数がおらず、精霊使いエレメンタラーは数が少ない上に、今回の相手はズー・バウスが数十匹というあり得ない数だ。


 精霊使いエレメンタラーはメインの精霊一体、仲の良い精霊が数体というパターンが多く、大量の強力なズー・バウスが相手では何十人も必要になる上、精霊を失う危険が非常に高い。

 誰もやりたくないのだ。


 なら一体どうやってズー・バウスを倒すのだろうか。

 答えは簡単だ。


「ブルー君、本当にやるの?」


「うん。コレは僕にピッタリな戦い方だからね」


 関所を出て木のトンネルに向かう途中、ローザが不安そうな声でブルースに尋ねる。 

 エメラルダはもちろんシアンにも出来ない事で、シルバーなら出来るかもしれないが、なにぶん見た目は細身の女性なので、周りから止められた。


「よし! じゃあ行ってくるよ」


 そう言って黒いパワードスーツを纏い、単身で木のトンネルへと進んでいく。

 ブルースが木のトンネルに近づくと、トンネルの出口で何かが動いている。

 ズー・バウスだ。

 クワガタに近い姿をしているが、アゴであるハサミは短めだ。


 短いと言っても大きい個体は一メートル近くあるが。


 トンネルの出口にズー・バウスが群がっているが、ブルースに襲い掛かる気配はなく、様子を見ている。

 ブルースは止まる事なくトンネルの入り口にたどり着くと、いきなり五匹のズー・バウスがブルースの体にくっついた状態で姿を現した。


 大きなハサミを広げて顔、胴体、腕などに噛みつくが、ハサミのトゲがブルースの体にたどり着く事は無かった。


「今だ!」


 ブルースの合図とともに数本の細い緑の光がズー・バウスの体を貫く。

 レーザーはズー・バウスの頭と胴体を正確に撃ち抜き、脳と中枢神経を破壊した。

 頭を破壊しただけでは第二の脳である神経が生きており、暴れる危険があるのだとか。


 ズー・バウスは地面にボトボトと落ち、全く動かなくなった。


「うむ成功の様だな。ではブルースよ、引き続き作戦を続行するのだ」


 関所の屋上で、グラオが少女らしからぬ喋り方をしている。

 まるで大人、というよりも年寄に近い喋り方だ。

 「のだ」も子供のような元気な言い方ではなく、威厳いげんを持ち相手をさとす言い方だ。


 その後もブルースに群がるズー・バウスをシルバーが狙撃するのだが、慣れたのかブルース自身が自分の体に群がるズー・バウスを殴り始める。

 攻撃時には姿を現すズー・バウスを倒していくのだが、調子が良かったのはニ十匹前後までだった。


 ある時を境にピタリと姿を現さなくなる。


「む、彼奴等きゃつらめ、攻撃が通じないとわかって動きを止めたか。だが何もしなければブルースがトンネルを抜けてしまうのだぞ?」


 グラオが扇子を広げて口と隠し、目を細めて動向を観察する。

 ローザとエメラルダは不思議な顔でグラオを見ているのだが、今までも時々こんな事があった事を思い出す。


 魔動力機関装甲輸送車ファランクス内で妙に大人びた仕草をしたり、遠い目をする事があったのだ。

 二重人格なのだろうか。


 そんな事を考えている間にも、ブルースは木のトンネルを進み、そろそろ出口近くにたどり着こうとしていた。

 攻撃されないままトンネルを抜けてしまうのだろうか。


「なんか、思ってたより簡単に進んでるけど、ズー・バウスってあんまり強くないの?」


「いいえローザ、ズー・バウスは恐ろしい相手ですわ。鉄の鎧を簡単に貫くハサミ、硬い外皮は武器をはじき返し、姿を消し空を飛ぶのです。相手がお兄様でなければ何度も死んでいますわ」


「でもさ、全然攻撃してこなくなったよ? もう逃げちゃったんじゃない?」


 ローザがそう思っても仕方がない。

 そろそろトンネルを抜けようというのに、全く攻撃してくる気配がない。

 ゆっくりと進むブルースは、周囲を警戒しながらトンネルを……抜けた。


 その瞬間、頭上から現れた巨大なハサミに挟まれ、ブルースは持ち上げられてしまった。


「ブルー君!」


「ブルース!」


「お兄様!」


「マスター!」


 四人が木のトンネルへと走り出すと、木のトンネルの周囲には大量のズー・バウスが入り口を塞いでいた。

 

「どきなさいよ!」


 ローザが大剣を振り回してズー・バウスを攻撃すると、透明で光る魔法防壁がそれを阻む。


「魔法⁉ ズー・バウスは魔法を使うんですの!?」


 精霊種であるズー・バウスは、精霊術という魔法とは少し違う術を使う。

 精霊種しか使えない精霊術は、まだまだ不明な点が多い。


「早くブルースを助けなきゃいけないんだよ、ダヨ!」


 シルバーがレーザーライフルを構えると、ズー・バウスはすぅっと姿を消した。

 攻撃が通用しなくなるが、姿が消えたのならそのまま突き進めばいい、そう考えた一行は走り出すのだが、すぐに魔法防壁に衝突してしまった。


「姿を消している間も魔法は継続ですか。中々エグイ事をしてくれますね」


 シルバーが目を細めて魔法防壁を睨みつける。

 その頃ブルースは、全長十メートルをゆうに超えるズー・バウスのハサミに挟まれ、体を締め上げられていた。

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