153.情緒不安定な少女
このまま地下の船を探索したい所だが、今の状態では危険なため少女グラオの依頼を受ける事になった。
「ううっ、気持ち悪いのだ……」
「ほらしっかりしてくださいまし。回復魔法と治療魔法をかけて差し上げますわ」
後部座席で吐きそうな顔をしているグラオに、エメラルダが魔法をかけている。
オレンジーナ程ではないが、魔法を使える人はある程度の回復・治療魔法を勉強する。
ちなみに今のメンバーで魔法が使えるのはエメラルダだけだ。
「少し休もうか?」
「だいじょうぶふっ! ……なのだ」
口に手を当てて必死に我慢するグラオ。
この状態では本人よりも周りが気が気でない。
しかし本人は先を急ぎたいらしいので、少しでも揺れが小さくなるように地面の凹凸に気を付けて進む。
途中で一泊し、翌昼過ぎに帝都に到着した。
問題の場所は帝都の西にあるので一旦帝都に入り、現在の状況を確認してから再出発するのだ。
グラオは大公の娘なのでその屋敷も非常に立派だ。
どうやら帝都では四番目に大きな建物らしく、城や皇帝の別荘、公共の演劇場に次いで大きい。
屋敷に入る際にグラオの体調が悪いため、ブルース達が何かしたのかと疑わたが、何故か突然元気になったグラオが車から降り、いきなり敬礼をした門番と一言二言話すと通してくれた。
なぜ門番の態度が急変したのが気になる。
屋敷の入り口に車を横付けし、グラオは静かにゆったりと屋敷に入る。
約十分後には戻って来たのだが、今度は元気に走って来た。
「ここ! これに書いてある場所にいって欲しいのだ! あ、行ってください」
渡された紙には天然の関所となっている場所への道筋が書かれており、あらかじめドローンを飛ばして調べたルートと大きな差はない。
グラオは後部座席に座るとまるでお人形の様に動かなくなる。
移動中は時々唸り声を上げるので、気持ち悪いのを我慢しているのだろうか。
馬で約七日の距離を二日で移動し、国境に一番近い街を出る。
この街はかなり気温も湿度も高い。
そして目の前にはジャングルがそびえ立っていた。
そう、街から見える段階でも高い木々が生い茂り、まるで木の壁のようだ。
その中に幅二十メートル程の隙間があり、そこから関所へと進む。
曲がりくねった道を進むと遠くに大きな門とキャンプが見えてきた。
どうやら先行していた騎士団のようだ。
近くによると数名の騎士に止められ、応援に来た事を伝えるとグラオが立ち上がり車から降りた。
すると騎士団長だろうか、中年の
「わざわざ来ていただきありがとうございます。これからは副官の私が皆さんをご案内します」
副官だという青年の騎士は笑顔で挨拶をしてきた。
それにしてもグラオは一体何者だろうか。
騎士団長と普通に話しをするのはもちろん、なぜ国境の守りという重要な事にグラオのような少女が
副官に言われた場所に
「あそこに見える木のトンネルが問題の場所です。今は見えませんが、人が近づくとズー・バウスが現れて襲われるのです」
そこはまさしく木の壁になっており、幅約十メートル、高さ五メートル程のトンネルがあった。
距離にして五~六メートルだが、そこ以外には隣国へ繋がる道はないようだ。
「ズー・バウスというのは精霊なんですよね? 甲虫型の」
「はい。非常に厄介な奴でして、最初の頃は何があったのか分からない内に襲われてしまい、ほら、鎧がこんな事になっていました」
副官が近くに落ちていた鎧を拾うと、金属の鎧の腹と背中に三つずつ二~三センチの穴が開いていた。
「うげぇ、金属鎧って簡単に穴なんて開かないわよね? ズー・バウスって大きいの?」
「大きさはさまざまです。小さなものは十センチ、大きなものはニメートルを超える様です。私は見たことはありませんが、グレイ様はもっと大きなものを見たとか」
「グレイというのは騎士団長の事ですの?」
エメラルダに言われ副官はハッとした顔で慌てて否定する。
「いえいえ、騎士団長の事ではありません。時々視察に来る貴族です」
特に気にする事でもないので、すぐに本題へと話しが戻る。
「なら数は多いのかな、カナ?」
「数はわかりませんが、数十匹はいると思われます」
「質問があります。周辺を焼き払えば良いのではありませんか?」
シルバーの言葉に大慌てで否定する副官。
「とんでもありません! ここらの森は他の精霊種もたくさんおり、森を燃やすとそちらの機嫌を損ねてしまいます! そんな事になっては森を通過する事が出来なくなってしまいます!」
どうやらズー・バウス以外にも複数の精霊種がいるようで、害のないもの、人に利益のある者が居るらしく、そちらを敵に回す事は避けたいようだ。
「何よりこの森は神からの授かり物です。そこに傷をつける事など出来ません」
★☆天界☆★
「ねぇ、神が授けたって言ってるけど君、何かしたのかい?」
「ふぇ? なんの事?」
男神が女神に尋ねると、女神はクッキーを口にくわえたまま返事をした。
女神は何の事かと霧に映る映像を見る。
「そんなこと言ったらさ、この星全部が神が授けた物じゃない。森だけを大事にされても困るんですけど?」
「だよね。そもそも神が直接関与する事は禁止されているからね」
「そーそー。大体森なんて……もり?」
女神が映像を見なおすと、考えるようにアゴに手を当てる。
少しして「あ」と声を上げた。
「まさか君……」
「ちちち、違うわよ! 手を出したわけじゃないわよ!?」
「じゃあ何を出したんだい?」
「……落としちゃったの……植木鉢」
「はぁ……じゃあアレは神の世界の植物なんだね」
「そう……みたいな? あーそれであんなに大きく成長したんだ~。うんうん、元気に育ってよかった」
「良くはないよね?」
「ごめんなさい」
☆★地上★☆
「なるほど、神からの授かり物ならば、大切にしなくてはいけませんわね」
「その通りです! 神が何らかの意思を持ってこの場に森をお創りになられたのです。それを破壊するなんて恐れ多い事です!」
なんの意味も無いと聞いたらどんな顔をするだろうか。
そんな神の深い深い
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