150.三万のアンデッド

「ちょっとローザ! そんな大きな獲物を振り回さないでくださいまし!」


「ええっ!? そんなこと言ったって」


「マスターお下がりください。ここでは肩部のガトリングガンは使用できません」


「わかってる! だから格闘戦をしてるんじゃないか!」


「はわわわ、薬を使うには狭いし、私の魔法じゃオバケには効かないんだよ、ダヨ!」


 地下の船内で、ブルース達は大量の人魂に襲われていた。

 いつもならスキルを使用して簡単に殲滅できるのだが、船を破壊しないように戦うのは至難の技のようだ。


 特にブルースとローザは拳圧だけでも船を破壊してしまうので、普段の一割も力を出せていない。


 加減や閉所での戦いが出来ているのはエメラルダとシルバーの二人で、シルバーはアンドロイドなので必要な力の使い方が可能だし、エメラルダはきちんと戦闘教育をされているので、閉所での戦い方も心得ている。


 ローザは熟練のデモンスレイヤーだが、魔物討伐に関しては魔物の討伐が最優先であり、建物の破壊は許容されている。

 なので建物を破壊しない戦いは、今までに経験が無いのだ。


「もう! お兄様もローザも下がっていてくださいまし! 後は私とシルバーでやりますわ!」


 エメラルダに怒鳴られて、肩を落として後ろに下がる二人。

 珍しくエメラルダが怒鳴っているが、それは二人が戦った跡を見たらよくわかる。


 床には穴が開き、テーブルやイスは粉砕され、柱も一本折れていた。

 こんな戦いを続けていたら、いずれ味方が穴に落ちるか船が崩れてしまう。

 ローザは途中から大剣をしまい、ナイフを装備して戦っていたのだが、やはり力加減はできていなかった様だ。

 

 エメラルダとシルバーの戦い方はスマートだった。

 シルバーは手首の上から出るレーザーブレードをコンパクトに動かし、エメラルダはレイピアを突きではなく滑るように斬りつける。


 その戦い方を見て、ブルースとローザはため息をつく。


「全然ダメだね僕」


「それを言ったら私もだよ。あんなコンパクトに武器を使うって、私出来ないもん」


 その隣でシアンはジッと戦いを見つめている。

 エメラルダ、シルバー、そして人魂の動きを観察しているかと思うと、いきなり周囲を見回す。


「ダメだよブルース。このままじゃ戦闘が終わらないんだよ、ダヨ」


「え? 二人に任せておけば終わるんじゃない?」


「この船の大きさからして、三万人程が乗っていたんだよ。仮に全員がアンデッドとして出てくるとしたら、何日かかっても倒し終わらないんだな、ダナ」


 えっ? と目を大きくするブルースとローザ。

 それもそのはず、なぜ全員がアンデッドとなっている事が前提になっているのだろうか。


「シアン、船がこの場所に来た時は人が乗っていたって事かい?」


「そうなんだよ、上にも下にもいっぱい死んでる臭いがするんだよ、ダヨ」


「で、でもシアン? ダンスホールにはそれっぽい死体は無かったわよ?」


「誘導されて部屋に入れられたの。数か所に置いてある乾燥した花、あれは催眠効果があるんだよ、ダヨ」


 確かに部屋の隅や倒れたテーブルと一緒に、乾燥して砕けた花が落ちている。

 もしそうだとしたらこの場にいるのは危険だ。


「撤退しよう」


「で、でもどうするの! こんな沢山の人魂に囲まれてたら逃げられないよ!?」


「少しなら何とかなるんだな、ダナ」


 少し前に出てエメラルダとシルバーに声をかける。


「エメラルダー! シルバー! 撤退するんだよー! 少しだけ隙を作るから、一気に外に走るんだよ、ダヨー!」


 すると今度は部屋の隅に行き、両手を広げて何かを計るような仕草をする。

 何度か深呼吸をすると、ホールに声が響き渡る。


『君たちはもう死んでるんだよ、ダヨ』


 その言葉が聞えたのか、人魂は動きを止める。

 その隙を見てブルース達は一機に吹き抜けを飛び降り、扉を破壊して船外に飛び降りた。

 

 上を見ると人魂だけでなく、ガイコツがカタカタと音をたてて追いかけて来た。


「外に出るんだ!」


 船から離れ、長い通路を抜けて一気に階段を駆け上り、金属の蓋をはね上げて外に出る五人。

 どうやらここまでは追いかけて来れない様だ。


「あの船は一体何だったんですの?」


「わかりません。人がいる状態で地下に移動したとは思いませんでしたから」


「てかシアン凄いね! 人魂が動きを止めてたじゃない!」


「えへへ、なんか言った事がよく通じるようになったんだな、ダナ」


 船から逃げられて一安心だが、様子がおかしい人物が一人いる。

 ブルースだ。

 パワードスーツを解除したその顔は異様に強張っていた。


「ブルー君? どうしたの? 気分が悪いの?」


「……何でもないよ。一旦街に戻ろうか」


 てっきり魔動力機関装甲輸送車ファランクスを出すのかと思ったら、トボトボと歩きだすブルース。

 不思議そうな顔をしながらも、様子がおかしいので見守りながら街へ向かう。


 エージェイ農業都市に戻り、門をくぐった時だった。

 見知らぬ少女が腕を組んで待ち構えていた。


「アンタたちがゴールドバーグ王国の英雄でしょ! 命令よ、アンタたちはワタシの仲間になりなさい!」


 金髪で顔の両脇はドリル髪、高そうなドレスを着た十歳程度の少女が胸をふんぞり返って命令してきた。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る