149.地下迷宮・帆船

「全長六百五十メートル、幅六十メートル、七階建ての超大型帆船が、地下五十メートルに存在しています」


 魔動力機関装甲輸送車ファランクスの中でシルバーの報告を受け、思わず下を見る面々。

 

「えっと? ねぇシルバー、船って地面を潜るんだっけ?」


「その答えは私が聞きたいですローザ。ひょっとしたら過去に地割れでもあり、そこにあった船が飲み込まれたのかもしれません」


「他にそれらしい物はありませんでしたの?」


「はい。地下水脈がある程度で、他には何もありませんでした」


「お船が地面に沈んじゃってるんだな、ダナ」


「でもそれしかないんなら、クロスボーダー教はそこにいるって事?」


「はいマスター、中にはいくつかの生命反応がありました。なのでいるのだと思います」


 他に何も無いのなら、リック博士が言った地下迷宮は船の事なのだろう。

 しかし船を迷宮と言っていいのかどうか、そこは意見が分かれるところだ。


「でも迷宮らしいものが船しかないんなら、行くしかないんだろうね」


 地下迷宮改め、地下の船へのルートは存在していた。

 街の外にある畑、その中に使われていない畑があり、何年も放置されているのか長い草が生い茂っている。


 その中の地面に木でふたがされているのだが、それをめくると更に金属の蓋がしてある。

 更にめくると中から急な角度の階段が現れる。


 階段は狭く二人が並ぶと窮屈なので、シルバーが先頭になり一人ずつ入っていく。

 階段を降りると中は暗く緩い下りになっており、シルバーの人差し指の先から光が発せられる。

 まるで車のヘッドライト並みの光で照らされた地下は、土が固められているだけだが、崩れるような気配はない。


 数百メートル進むと広い場所に出た。

 あまりに広いので全容が見えないため、エメラルダも魔法の光球を出して全体を見ようとする。

 だが予想以上に広いので、ドローンを大量に呼び出して地下空洞全体に配置した。


「これが……船?」


 明るくなった地下空洞に現れたのは、あまりに大きな木造船だった。

 喫水線きっすいせんまで地面にめり込み、まるで水面に浮かんでいるように見える。


 あちこちがちており、塗装やシンボルマークは無くなっている。

 いや、朽ちて見えるが腐っていないし、汚れと所々木が折れているだけで、マストが折れている以外は大きな損傷は見られない。


「海からそのまま持ってきたような状態ですわね」


「きっと海では綺麗な姿が見れたんだよ、ダヨ」


「とりあえず入る場所を探そう。この空洞で行き止まりみたいだから、船の中に入らないと話しが進まないよ」


「それなら大丈夫なんだよブルース。この船の造りからいって、入り口はこっちなんだよ、ダヨ」


 シアンがピョコピョコ歩いて行くと、左舷の真ん中から前に向かって階段があった。

 甲板かんぱんまで登る階段が船に沿うようについているが、下の方は少し折りたたまれているのか、地面には届いていない。


「あれ? 折りたたむタイプだったんだよ、ダヨ……」


「大丈夫だよシアン、一階分くらいならジャンプしたらいいから」


 そう言ってブルースは軽く飛びあがると階段に飛び乗った。

 それに続いてエメラルダ、ローザが続き、シアンも飛び乗るのを確認してシルバーが最後に飛び乗った。


 階段を上り甲板に出ると、どうやら客船だったらしく、テーブルや椅子が散乱していた。

 パーティーでもしていたのか、乾燥しきった食べ物が転がっている。


「あれ? そういえば地面の中なのに乾燥してるよね?」


 ローザが地面に転がっている乾燥した肉らしきものを指さす。

 そういえば通路の土もかなり乾燥していた。


「地下水脈が近くにあるのに、この空間は乾燥しています。何らかの力が働いているのかもしれません」


 広い甲板を警戒しながら進み、室内へ繋がる木製の扉を静かに開ける。

 きしみ音と共に押し開けると、ドローンのライトが届きにくいのか薄暗い。

 シルバーのライトで照らすとかなり広い部屋なのが分かる。


「ダンスホール? 床にかろうじて赤い絨毯が残っていますわね」


 ダンスホールの隅には豪華な階段があり、上にも何かがあるようだ。

 この船は甲板の上に五階、下に二階となっているので、今いる場所は三階に位置している。


 四階に上がるとビュッフェ形式なのか、壁際に沢山の大皿が並んでいる。


「なぁ~んにも出てこないんだけど、これって地下迷宮なの?」


 ローザの疑問はもっともだ。

 ここにいる誰もが「他に地下迷宮があるんじゃないのか」と思っている。

 だがローザがフラグを立ててしまった以上、ここは地下迷宮なのだ。


 その証拠に軽い地響きが起きた。

 警戒して周囲を見回すと、薄暗い室内にポツポツと光の玉が現れた。


人魂ひとだま?」


「いいえお兄様、船であることを考えると、セントエルモの火と言った方がよろしいかもしれませんわ」


「どっちでもいいよぅ! オバケはイヤー!!」


 ローザとエメラルダは剣を抜き、シルバーは両腕からレーザーブレードを出す。

 ブルースは黒いパワードスーツを身に纏い、シアンはブルースの背中におんぶされた。


「ふ・ふ・ふ、船ごと壊しちゃダメ⁉」


「「「ダメ」」」


 何の手掛かりもない以上、この船を破壊する事は出来ない。

 狭い上に脆い船内。

 そんな場所で戦闘を強制される事になってしまった。

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