140.囚われの姫君(?)

「じゃあ基本的な戦い方はこれで良いとして、どこから守ろうか?」


 自宅に戻り、攻め込んで来る敵国への対処方法を話し合っている。


「少ないって言うんなら西から行けばいいと思うよ!」


三方さんぽうをいっぺんに押し返せばいいんだよ、ダヨ?」


「戦力が多い所を先に攻めるべきですわ」


 ローザ、シアン、エメラルダが意見を述べるが、どれでも実行可能なので悩んでしまうところだ。

 シルバーにも意見を求めるのだが、シルバーの考えはこうだ。


「我々の力ならばどこをどう攻めても簡単に終わります。それならばいっそ、全員で分かれて攻めてはいかがでしょうか?」


「え? それはつまり競争って事⁉ 誰が一番早く敵を倒せるかを競うのね!!」


「……それでも構いませんが」


「待って欲しいんだよ。私は攻撃は苦手なんだな、ダナ」


「気にする事はありません。全体攻撃や個別攻撃の差こそあれ、一般兵相手には大きな差にはならない力を持っていますよ」


 シアンのスキルは魔女ウィッチ知覚者パーシーヴァと来て、何故か知覚者パーシーヴァでレベルが百を超え、現在は二百になった事でランクが上がっている。

 新スキルのテストだと思えばいいだろう。


「じゃあ僕達は五人で相手は六国だから、残った一つの国を倒した時点で試合終了で良いのかな?」


「さんせー!」


「わかったんだよ」


「わかりましたわ」


「了解です」


 その頃地下牢に閉じ込められているオレンジーナは、やる事が無く暇を持て余していた。

 下級貴族の部屋のような地下牢だが、やはり監視の目がありイマイチ気が落ち着かない。


「暇ね……ブルー達はいつになったら助けに来てくれるのかしら」


 壁に向けて置いてある机で本を読んでいるが、一冊読み終わったので背伸びをし、高い位置にある鉄格子の窓から外を見る。

 まだ日は高く、日差しが牢の中に差し込んで来る。


「まさか助けに来ないなんて事は……どうせ逃げれるんだから助ける必要ないよね? とか思われてたりする⁉ 違うのよブルー! 女の子は助けに来て欲しいものなの! いくら簡単に抜け出せるからといって、白馬の王子様に憧れない女の子はいないのよ!」


 なぜか悲劇のヒロイン風に立て膝を付き、高い場所の窓を見上げて指を組んで祈る仕草をする。

 そんなオレンジーナの大きなひとりごとが聞えて、兵士が様子を見に来る。


「あの、聖女セイントオレンジーナ様? どうかなさいましたか?」


 スッと何事も無かった様に立ち上がり、対外用の笑顔で振り向く。


「いえ何でもありません。あらアナタは……指の調子は大丈夫ですか?」


「は、はい! モンスターに噛みつかれ、ちぎれてしまった指はほら、この通り自由に動く様になりました! あの時は本当にありがとうございました!!」


 若い兵士らしいが、どうやらモンスターとの戦いで怪我をした事があるようだ。

 それをオレンジーナが治療し、元通りの生活が送れるようになった。


 そう、この国でオレンジーナの世話になっていない兵士はいない。

 なのでオレンジーナの実力もあいまって、逃げようと思えば兵士も協力するので簡単に逃げ出せるのだ。


 そんな事はアンソニー第一王子も分かっているが、頭を冷やしてもらうために投獄したのだ。

 逃げたら逃げたで更に罪をかぶせる事が出来るのだから。


「外の様子はどうかしら? 敵国の動きは?」


「はい! 今のところ攻めて来ていませんが、国境沿いに続々と戦力が集結しているようです!」


「そう、きっとアンソニー殿下でんかが何とかしてくださるわ。それに怪我をしても私が治して見せましょう」


「ありがとうございます! 聖女セイントオレンジーナ様のお陰で、私達は安心して戦場へ赴く事が出来ます!」


「ふふふ。では見張りを頑張ってくださいね」


「かしこまりました!」


 自分を見張っている相手に「頑張れ」とはおかしな話しだが、オレンジーナとしてもおしゃべりをしたいわけではない。

 さっさと兵士を定位置に戻し、やる事があるのだ。


「それにしても、ブルーは女心を知らなさすぎるわね。あれじゃローザと結婚するのはまだまだ先になりそう。ローザものんびりしていると、私がブルーを奪っちゃうわよ?」


 〇◎ここら辺からオレンジーナの妄想◎〇


「ああブルー、あなたの愛しい姉が投獄されてしまったわ。早く助けてくれないと、私はあくどい王子の手籠めにされてしまうわ!」


「クックック、オレンジーナよ、俺の女になれ。そうしたら世界の半分をお前にやろうぞ」


「嫌よ! 私はブルーという心に決めた人がいるの! きっとブルーがあなたを倒し、私を助け出してくれるわ!」


「クックック、俺の悪の力の前には何人なんぴとたりともひれ伏すのだ」


「ブルーは……ブルーの正義の力があなたを打ち倒すわ!」


「クックック、ならばお前の目の前でブルーとやらをなぶり殺して……グワー!」


「ジーナ姉さん!」


 剣を片手に颯爽と白馬で現れるブルース。


「ブルー! 助けに来てくれたのね! 悪の王子を倒して、私を助けに来てくれたのね!」


「もちろんだよ姉さん。僕の愛しい姉さんを助けるのは当たり前じゃないか」


「ああ、愛しているわブルー」


「僕もだよ姉さん」


「姉さんだなんて、ジーナって呼んで」


「ああ、愛しているよジーナ」


「ブルー……ん~」


「オレンジーナ」


「だからジーナって」


「オレンジーナ?」


「だからジーナって呼んで」


「何を言っているんだ? オレンジーナ」


 妄想終わり。


 目をつむって空中に手を伸ばし、タコのような口をしているオレンジーナ。

 ハッと気が付いた時には、牢の前にアンソニー第一王子が立っていた。


「どうした? 投獄はやり過ぎたかと思ったが、まさかそこまで取り乱すとは思わなかったぞ?」


「で、殿下でんか? い、いえこれは何でもありません。昔の劇を思い出していただけです」


「そ、そうか。コホン、え~今回の事だが、お前が俺の事を嫌っている事はよくわかった。だが王族の命令を無視した罪は消えない」


「わかっています。少々取り乱しましたが、結婚以外の事ならば、何でも罰を受けましょう」


「いや、それについてはもう話しが付いている」


「え?」


「ブルース達が侵略してきた敵国を追い返すそうだ。それが成功したら、お前の罪は無かった事になる」


(ああブルー、私のために危険な目にあってしまうのね)

 などと妄想しているが、本心では「そんな簡単な事で良いんだ」と落ち込んでいる。


「すでに向かっているから、監視の者が帰って来た時点で処遇を決める」


 ブルース達五人は城を出て、全速力で戦場へ向けて走っていた。


「お先に失礼します」


 シルバーは体にレーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスを纏い、空を飛んでいってしまった。


「あー! シルバーずるい! 私は飛べないのに!!」


「そっか、飛べばいいのか。じゃあ僕もお先に」


 ブルースはパワードスーツを纏い、同じく空を飛んでいってしまった。


「ルールは敵を早く打ち倒す事のみ。ならば私も飛んでいきますわ」


 エメラルダはペガサスに乗って飛んでいった。


「飛べないけど、足を速くする薬があるんだな、ダナ」


「さっすがシアン! 私にもちょうだ……あー!」


 薬を飲んで、一人で飛び跳ねて先へと行ってしまった。

 一人で地面を走って必死に戦場へ向かうローザ。

 もちろんというか、馬の数倍の速さで走っている。


「あれ? ひょっとして私が一番の足手まといだったりする?」


 そんな事を考えてしまい、更に速度を上げて走っていくのだった。

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