133.ファランクス:次元航行ミサイル

 爆炎の中から無傷の外宇宙探索戦艦ファランクスが姿を現した。

 それを見た艦隊司令達は思わず椅子から立ち上がる。


「あの攻撃を耐えただと! ありえん! 威力だけなら惑星をいくつも破壊できるんだぞ!?」


「外部から確認できる範囲では……損傷が確認できません」


 爆炎が収まり宇宙が静かになるが、どうやら敵は呆然として直ぐには次の行動に移れない様だ。

 なのでブルース達は先に行動に移る。


『六名を射出します。バリアフィールドの心配はしなくて大丈夫です』


「わかったよブラウン。じゃあみんな、行こう!」


「うん!」


「行くんだな、ダナ!」


「行くわ!」


「行きますわよ!」


「シルバー、出撃します」


 六隻の戦艦が外宇宙探索戦艦ファランクスから射出され、ブルースとローザを先頭に敵艦隊へと向かう。


『艦長、残り二隻の要塞母艦も構造は同じです』


「わかった。じゃあそっちのエネルギー供給を絶とう!」


 ブルースの戦艦はみんなと別れ、残り二隻の要塞母艦へと進路を変える。

 目視できる距離ではないが、位置はわかっているので特定は簡単だ。

 戦艦の両脇からミサイルの射出口が二つずつ開かれた。


「行け! 次元航行ミサイルファランクス!」


 五十メートル級のミサイルが四発発射されるが、約一秒後ミサイルの姿は無くなっていた。

 その直後に要塞母艦の内部では爆発が起こり、要塞母艦からのエネルギー供給が無くなった敵戦艦は、通常のバリアフィールドしか使えなくなった。


「司令、他の二隻の要塞母艦も、ジェネレータートランスミッターが破壊されました……」


「確実にジェネレータートランスミッターを狙った事が確定したか……まるで爆弾がワープしてきたような攻撃だな」


 第一艦隊司令官の考えの通り、次元航行ミサイルファランクスはその名があらわす様に、途中の障害物の一切を無視して目標に直接攻撃する。

 第六ランク世界のワープは、重力で空間を湾曲させて専用の回廊を形成・そこを通る事で一気に長距離を移動する技術だ。


 だが次元航行ミサイルファランクス、第七ランク世界の技術なら重力を必要とせず、設定された物体をいきなり向こうに送り込むことが可能だ。

 厳密にいえば一瞬だけ別空間に入るが、その時間は一秒未満。


『艦長、敵要塞母艦、全てのエネルギー供給システムの破壊を確認しました。これでこちらの攻撃は通用するようになりました』


「じゃあ後はいつも通りだね。それにしても……みんな活き活きし過ぎじゃない?」


鬱憤うっぷんが溜まっていたのでしょう。発散の場所が出来て私もホッとしています』


 先にジェネレータートランスミッターを破壊した艦隊に向け、ローザ達五隻は突っ込んでいた。

 今までは駆逐艦以外には有効な攻撃が無く、逃げ回る事しか出来なかった。

 それがどうだろう、戦艦ですら通常攻撃が通用している。


「よ~っし、エメちゃん、アレを使うわ!」


「ええ、よくってよ」


 ローザの戦艦のすぐ背後にエメラルダの高速戦艦がつく。

 さらに背後から二隻を包むようにジズが現れ、大きな光の翼を前方に突き出した。


「姉妹活殺砲! ローザ……」


「パーンチ!」


 ローラに続いてエメラルダが言葉を繋げる。

 戦艦の間の空間が歪み、爆発的な勢いでローザの戦艦が発射される。

 ブレる船体をジズの翼で挙動を安定・方向修正されて一直線に飛び出していくと、まずは駆逐艦に頭から体当たりをする。


 互いのバリアフィールドが干渉して小さなプラズマが発生するが、ローザの戦艦が力で押し切り、ローザの船と同じ大きさの駆逐艦を真っ二つにした。

 その後も一直線に進み、途中にいる船をことごとく粉砕して突き進む。


 ローザの戦艦よりも大きな巡洋艦、戦艦、空母をぶち破り、その衝撃波は周囲の船まで巻き沿えにして破壊していく。

 そして遂に要塞母艦の真ん中に命中し、二隻のバリアフィールドは大きなプラズマとなり宇宙を照らす。


「くっそ~! 止められちゃった!」


 ローザが悔しがる一方、要塞母艦は小さな船に衝突されただけなのに凄まじい衝撃が襲っていた。


「な、なんだあの小型艦は! 向こうの主力艦だと思うが、こちらの駆逐艦と同じ程度の大きさなのに、あの出力は何だ!!」


 バリアフィールドが反発しあってローザは進路を変えられた。

 滑るように戦艦の向きが変わると、ようやく自前のブースターで動き出す。


「ローザ、エメラルダ、今の攻撃で約八百の艦船を破壊しました。連続使用は可能ですか?」


「え!? ちょ、ちょっとキビシイかな?」


「……私は何度でもいけますわよ?」


 ちょっと意地悪な笑顔でエメラルダが言うと、ローザは「勘弁して~」と悲鳴を上げた。

 それを笑いながら聞いていたシアンとオレンジーナは、次は自分たちの番だと気合いを入れる。


「シアン、次は私達がやりましょう」


「わかったんだよ、ダヨ!」


 今度は二隻を横に並べると、太い四本のケーブルが二隻を繋げる。

 シアンの高速戦艦の船首から五本のアンテナが放射状に延び、オレンジーナの高速戦艦の光が消える。


 ケーブルの接続部分が赤く光ると同時に、五本のアンテナからオレンジ色の光を放ち始める。


「「暗闇におびえろ!」ロ!」


 アンテナから一層強い光が発せられると、敵の様子がおかしくなる。

 攻撃の手が止まり、ブリッジやブースターの光が消え、船は徐々に斜めになっていく。


 全てのエネルギーがゼロとなり、第一艦隊の半分は宇宙を漂うゴミとなった。

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