129.極短距離ワープの包囲網

「こぉ~っちに来るな! あっち行け!」


 重装型人型機動兵器ハンマーを操り、敵駆逐艦を数隻まとめて破壊するローザ。

 ハンマーを通してスキルを使う事に慣れたため、もう生身で使うのと同じ感覚で戦っている。


「小さい船なら私でも大丈夫なんだよ、ダヨ」


 機動型人型機動兵器ヴェイロンVXに乗るシアンは、威力よりも手数が多いタイプだったが、駆逐艦を倒すために専用のライフルを持っている。

 肩に担ぐタイプなのでライフルよりもバズーカに近いが、その分威力がある。


「私は未だにこの巨人に慣れませんわね。でもサイズ的に丁度いいのが悩みどころですわ」


 エメラルダもヴェイロンVXに乗っているのだが、イマイチ操作に慣れない。

 しかしヴェイロンVXに乗るとジズとのサイズ感が良く、全長一キロメートルを超えるジズに乗ると、生身よりも行動の自由が利くようだ。


「私はやる事が変わらないから楽ね。コレって本当に機械なの?」


 オレンジーナはヴェイロンVXでかなり後方にいるのだが、時々ダメージを食らう味方の回復を行っている。

 ヒール……なのだが、なぜか破損した機械がヒールで修理されていく。


「皆さん、敵が一斉に後退を開始しました。深追いせずに私達も戻りましょう」


 シルバーの索敵によると、敵の後方から艦隊が接近し合流を始めたようだ。

 この宙域数百キロメートルの範囲にはレーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスが無数に展開されており、敵の動きが逐一報告されて来る。


 今はブルースから権限貸与という形で、六百機のドローンが貸し出されている。

 ちなみにこのドローン達も、完全大破しなければオレンジーナのエクストラヒールで修理が可能だ。


 そんなシルバーにブラウンから通信が入る。


『シルバー、敵要塞母艦の位置確認をお願いします』


「了解。現在要塞母艦の一隻は約八千キロメートル後方に、他の二隻は更に後方五百キロメートルの地点に……反応が消失しました! どういう事でしょうか、突如として二隻の要塞母艦と周囲の艦船の反応が消えました」


『注意してください! 空間湾曲と重力異常を確認しました。この艦のごく近くに何者かがワープアウトしてきます!』


 外宇宙探索戦艦ファランクスの前方で大きく空間が歪み、星の光が渦を巻くと中心から巨大な船、要塞母艦が姿を現した。

 その周囲には戦艦や巡洋艦も一緒にワープアウトしており、一艦隊が全てワープしてきたようだ。


『距離約五百キロメートル! 敵の主砲エネルギーを感知、緊急回避を行います!』


 外宇宙探索戦艦ファランクスのブリッジに戻って来た六人の視界には要塞母艦から発射された巨大なレーザー攻撃が目に入った。

 なんとか左に艦を傾けて回避に成功するが、外壁をかすり表面が溶けてしまう。


「キャー!」


 今までにない衝撃が外宇宙探索戦艦ファランクスを襲い、六人は立っていられずに転倒してしまう。

 

『さらにワープアウトしてきます!』


 かわした先の空間が渦を巻き、また中央から要塞母艦の艦隊が姿を現す。

 そのまま回避行動をとりレーザー攻撃をかわしたが、まだ終わらない。


『三つ目のワープアウトを確認』


 三つの要塞母艦が極短距離ワープをして、ブルース達と約五百キロメートルの距離に現れた。

 キレイに三方向から囲まれており、完全に逃げ道を塞がれてしまった。


「か、囲まれた? ブラウン状況は?」


『現在三方向から要塞母艦に囲まれ、いつ集中砲火されても不思議ではない状況です。なお敵のワープ距離に関しては情報が無く現在調査中です』


「わーぷってさ、星がうにょ~んって伸びて、真ん中から出てきたヤツの事?」


「そうですローザ。ワープには制限があり、百万キロメートルが最短のワープ距離です。それを八千キロメートルという短距離をワープで移動してきたのです」


『シルバーに補足すると、恐らくは更に短い距離でのワープも可能と思われます』


 距離を言われてもチンプンカンプンな面々だが、一つだけわかる事がある。


「つまり、私達は絶体絶命、という事ね?」


 オレンジーナに言われ誰も口を開けなくなる。

 こちらの攻撃は戦艦や空母、要塞母艦には通用しない。

 しかし向こうの攻撃は簡単にバリアフィールドを貫通して来る。


『三方向から同時攻撃、来ます』


 三方向から全艦による一斉攻撃が放たれた。

 回避行動をとるが広範囲による攻撃を回避など出来るはずがない。

 パキン、とイフェルーヒアの針が折れた。


 気が付けば敵の一斉攻撃から回避できていたが、イフェルーヒアの針は三回まで使用可能なはずだ。

 それが二回目で壊れてしまった。


「どうやら二回分をまとめて使ったようね」


 折れた針(アイスピックや千枚通しサイズだが)を手に持ち、消滅を確認するオレンジーナ。

 そして二回目の一斉攻撃が開始された。

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