119.盟主の制裁
ハイナー艦長が頭を抱えて叫びだす。
帽子が落ちて頭を
目と鼻から血が流れ出し、頭が弾かれるように左に傾くと右側頭部が小さく破裂して大量の血液が吹き出した。
ハイナー艦長が苦しみながら口を開くと、全く別人の年寄のような声が発せられる。
「か……くか……盟主に許しを請うのだ。命をもって汝の罪を償い、
そういうとハイナー艦長は崩れ落ちた。
床には大量の血と小さな肉の欠片が散乱し、そこにいる誰もが言葉を失っている。
「な、何があったの?」
「マスター、盟主というのが『神のような存在』の事なのでしょうか」
「なんで死んだの⁉ この人は何か悪い事したの⁉」
「……」
シアンは立って目を開けたまま気を失っていた。
上司がこんな事になり、副長は歯がカチカチなる程に震えている。
次は自分の番だ、そう思っているのだろう。
『ハイナー艦長の頭に、突如として小さな爆薬が形成されました。頭が破裂した原因はそれです』
「ブラウン、人の頭に爆薬が転送されて来たのですか?」
『いいえシルバー、頭の中で作られたのです。私の知らない手段により、人体から爆薬を作り出したのでしょう』
ハイナー艦長は自分達を滅茶苦茶だと言っていた。
だがこれ程までに滅茶苦茶だとは思っていなかっただろう。
「私は……私達は一体何なんだ……」
副長が真っ青な顔でハイナー艦長の無残な姿を見ている。
明日は我が身、そう考えると捕らえた捕虜たちの状況は非常に危ない。
「かっ、帰そう! この人達全員送り返しちゃおうよブルー君! こんなの普通じゃない! 何がきっかけで死んじゃうかわかんないよ!」
ローザの考えはもっともだ。
しかしシルバーとブラウンの考えは違った。
「これは罠でしょう。一人を犠牲にする事で他のクルーの安全を確保する。良心に付け込んだ悪質な罠です」
『更にいうと、いつでも爆発物を作れるという脅しにもなり、ハイナー艦長を犠牲にする事で、他のクルーを恐怖で縛る事もできます』
「シルバーとブラウンの言い分も分かるよ。でもね……結局帰すしかないと思うよ」
今のブルースが最優先にしている事、それは身内の安全だ。
いつ何時爆発するかわからない、しかも爆発の規模が今回の程度で収まるという保証もない。
捕虜全員が強力な爆弾になってしまっては手の施しようがない。
結局全員をそれぞれの船に戻し、ある程度距離が離れた場所から記憶操作をして、
「ねぇブルース、あの人達の神様ってなんなのかな、カナ」
神様がなんなのか、そんな事はブルースはおろかシルバーにもブラウンにも分からない。
「もっと技術が上って言ってたけど、人の事を道具としか思ってないみたいだね」
「道具は大事だよ! 道具があるから生活ができるんだし、生きていくうえで必要なんだよ、ダヨ!」
「そうだね、ごめんシアン、言い方が悪かった」
そう言ってシアンを抱きかかえると、船団が去っていく方を
地上に戻り、気分を切り替えるために旅行に行こうという話になった。
もともとブルースは他の国を見て回りたいという希望があり、ローザもシアンも気晴らしをしたいので賛成した。
「今は戦火が治まってるから、ある程度の国には行けそうだね」
「そうだね! あ、この国はどう? 丘の上から見える景色がキレイなんだって!」
「この国もいいんだな、キレイな草原に小さな教会が立ち並んでるんだよ、ダヨ!」
あーだこーだと話し合っていると、オレンジーナとエメラルダが帰宅した。
その顔は疲れ切っているように見える。
「ただいま~」
「ただいま帰りましたの」
「お帰り二人とも。食事の準備が出来てるよ」
「ありがとう。早速いただくわ」
夕食をテーブルに並べ、二人が食事を始めると三人も食卓につく。
紅茶とケーキを食べているのだが、二人に旅行の話をするようだ。
「姉さん、エメ、僕達しばらく旅行に行こうと思うんだ」
「え!? お兄様どちらに行かれますの⁉」
「いま考えているのは三つの国で、とりあえず順番に回ろうかなって」
「お、お姉様! お兄様達が旅行ですっ……お姉様?」
なぜか口を横に大きく広げ、不敵な笑みをこぼすオレンジーナ。
そして食事を一気にかっこむとテーブルに身を乗り出す。
「それでどこへ行くの?」
三つの国の名前を上げると、当たり前のようにオレンジーナも付いて行くと言い始める。
そしてオレンジーナが行くのだからとエメラルダも行くという。
「エメはまだしも、姉さんは
「大丈夫よ、
そこで全員が首を傾げる。
「「「
「そうよ。言ってなかったけど、私も三つ目に突入していたの。ちなみにブルースはファランクスのままで意味が分からないけど、ローザは
ここで自分の能力を明かすオレンジーナ。
更に次の説明で四人は完全に混乱する。
「あ、みんなレベルが高いわね、しばらく出かけてたけど、何と戦ったの?」
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