110.再来・マッドサイエンティスト

 デモンスレイヤーの仕事で、アースドラゴンの一種である大型のワニの討伐に向かうブルース達。

 しかし出発前に受付嬢ジョディが言った言葉が引っ掛かっている。


「大型のワニは十メートルクラスなら時々現れますが、二十メートルを超える物は初めてなんです。何か原因があるのかもしれません」


 魔動力機関装甲輸送車ファランクスに乗り目的地へと向かうが、途中にある街へ情報収集のために寄るようだ。

 この街は住民千人ほどの街で、アースドラゴンの被害が多い。


「デモンスレイヤーの方々で? 早くあいつを倒してくださいませ!」


 町長らしき人物が出迎えるが、街にあるはずの門は完全に破壊され、家屋も半分以上が破壊されている。

 話を聞くとなんとワニは数匹いるらしく、背の高い個体もいるようだ。


 そして町長はワニが住み着いているらしい離れた場所にある森を指さすと、怯えた声で懇願する。


「もう何人も食われちまってるんです! お願いだ、アイツを何とかしてください!」


 魔動力機関装甲輸送車ファランクスで森に向かうと、妙に大きな足跡が沢山ある。

 少し地面にめり込んでいる足跡は、確かにワニの物のようだ。


「ジョディの話だと、こんなに大きなワニは初めてって言ってたけど、そんなのが何匹もいるっておかしくない?」


「そうだね。ローザならその大きなワニに後れを取る?」


「私が大きいだけのワニに負ける訳ないじゃない?」


「僕もそう思う。だからおかしな事があっても考えるのは倒した後にしよう。今は早くワニを倒して、街の人達を安心させたいんだ」


「それもそうね! とっとと倒してちゃっちゃと報告して終わりにしよう!」


 森の近くに到着し、四人は魔動力機関装甲輸送車ファランクスから降りて森を見る。

 ワニの足跡は草を踏んだものに替わり、奥へと続いている。

 だが木が折れていない。


「本当に木を避けて中に入ってるんだな、ダナ」


「体長は二十メートルあっても、体がすっごく細かったりして?」


「それですと地面がへこむほどの体重にはなりません。推定体重は三十五トン」


「三十五トンってどれだけの重さなんだな、ダナ?」


魔動力機関装甲輸送車ファランクスの三倍以上です」


 ローザとシアンは思わず魔動力機関装甲輸送車ファランクスを見る。

 そしてとてつもなく嫌そうな、困った顔になった。


「そんな奴が木々を避けて森の中に入るなんて異常だ。いつも以上に注意して進もう」


 ブルースは黒いパワードスーツを身に纏い、シルバーもレーダーをフル回転で森の中を進んでいく。

 だが森に入って数メートルで足が止まった。


「マスター、ワニの足跡が消えました」


「なんだって!? 脇にそれたとかじゃないのか!?」


「ぷっつりと足跡が途絶えています」


 ブルースはセンサーを切り替えて周囲を警戒するが、確かに足跡は無くなっているし、ワニがいる気配もない。

 二十メートルを超える巨体が忽然と姿を消した……そんな事があるのだろうか。


「どこだ? シルバー、そっちのセンサーに反応はある?」


「いえ、ありません。どのセンサーにも反応無し」


 そんな時、突如として一つの反応が出た。

 だがそれはあまりにも小さい。


「マスター!」


「僕にも反応があった! ローザ、シアン警戒して!」


 森の中、ブルース達の前方から一人の男が歩いてきた。


「ほっほぉ、まさかこんな場所で会うとはな。ワシに用があるわけでもあるまい?」


 男は真ん中から分けた長い白髪、顔はしわだらけで口のまわりとアゴにも白いひげを生やしている。

 右目は閉じており、右目の上から頭頂部にかけて縫った後がある。

 白いはずの白衣は様々な汚れで茶色くなっている。


「お前は……リック!」


「くかかかか。覚えていてくれたかねボーダーレスを超えし者。ここへは一体何の用があって来たのかね?」


 人間を改造し、バンデージマンという人造ボーダーレスを作り出したリックが、突如として目の前に現れた。

 

「あー! あの時のお爺ちゃんじゃない! なんでこんな所にいるのよ!」


「あわわわわ、バンデージマンの人なんだよ、ダヨ~!?」


「お前がここにいるという事は、今回の騒動はお前の仕業だな!」


「はて騒動? ワシは何もしておらんぞ?」


「ウソをつくな! 巨大なワニを作り出し、街を襲わせているんだろう!」


「うむ、ワニはワシが作った! あれはまぁまぁの出来だ。しかしあんなもので満足できるほどワシの志は低くな――」


 ブルースの肩にあるレーザーガトリングが発射された。

 しかしレーザーはリックに当たる前に消えてしまう。


「え!? 今のはなんだ?」


「かっかっかっか。その攻撃は恐ろしいな、油断をしていたら倒されていたよ」


「マスター、あの人間の周囲の空間がねじ曲がっています」


「おお、そこの娘さんは相変わらず鋭いな。人ではないからこその感覚か?」


 この男はどこまで理解しているのだろうか。

 賢者セージのスキルを持ち、あらゆる知識をどん欲に吸収したとはいえ、アンドロイドという存在を受け入れられるのだろうか。


「まあいい。知っているのなら付き合ってもらおうか」


 リックが指を鳴らすと、四匹のワニがブルース達を囲むように現れた。


「さあ動物のボーダーレスの力、試させてもらうぞ」

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