111.モンスターもボーダーレス
「さあ、ボーダーレス化したモンスターの力、試させてもらうぞ」
リックが指を鳴らすと、四方にいる二十メートルを超えるワニが突進してくる。
その突進速度は速く、森の中なのに木の隙間をスルスルとすり抜けるように進みあっという間にワニの間合いに入る。
一口で数名を噛めそうな大きさの口を開くと、まずはシルバーが餌食となる。
そしてブルースが飲み込まれ、ローザはシアンを抱えて木の上へと逃げた。
「ブルー君! シルバー! そんな……二人がこんな簡単に……」
「怖いんだな、怖いんだよ、怖いよー! ヨー!」
シアンは手で顔を覆い隠し、ガタガタと震えている。
ローザはブルースとシルバーを襲ったワニを見るが、セリフの割には全く焦った様子が見えない。
「簡単に食べられたけど、二十メートルあっても二人には意味が無いんだよね~」
ワニに噛まれたシルバーだが、左腕と右足でワニのアゴを押さえており、全く飲み込まれる気配がない。
それどころか両手の甲からレーザーブレードを出し、まずは下あごを切断、そして上あごを切断した。
長い口の半分が無くなりワニは体をねじりながら暴れるが、レーザーブレードを首筋に当てると勝手に切り刻まれ自滅した。
そして別のワニ、ブルースはまだ飲み込まれてはおらず、口の中にいたようだ。
そのワニは顔の内部から爆発し、前足から上が無くなってしまう。
どうやらブルースが口の中でミサイルを発射したらしい。
パワードスーツが黒いから目立たないが、血が大量に付着している。
「モンスターのボーダーレスっていっても、元々がワニだから大した事ない?」
「どうでしょうか。マスターと私だから簡単に倒せただけかもしれません」
「ああそっか。それじゃあ」
そう言ってブルースはローザを見た。
目があったローザは口には出さないが「私!?」といった表情だ。
シアンをブルースに向けて放り投げ、ローザは地面に着地する。
まだ残っている二匹を見るが、その大きな体はやはり威圧的だ。
「剣が通じるかなぁ……ワニって皮が硬いんだよね~」
ブルースとシルバーには勝てないと理解したのか、二匹は木の間をスルスルと通ってローザへ向けて突進、左右から大きな口を開いた。
『レイジングスイング!』
大剣を横薙ぎすると、衝撃波でワニが吹き飛び……いや、動きを止めるのが精いっぱいのようだ。
すかさずローザは左のワニの懐に入り込み、一番弱いであろう腹に斬りつける。
「お腹はプニプニだから斬れるよね!」
ワニの腹を力いっぱい斬りつけるが、大剣はワニの腹に浅い傷をつけただけだ。
「げ! 大きいから脂肪も分厚いのかな⁉」
もう一匹の図太い尻尾がローザを襲うが、それは軽くジャンプしてかわした。
だがワニの攻撃は止まらない。
尻尾、噛みつき、ひっかき、しかも図体の割に動きが速いため、ジャンプまで可能で押しつぶそうと空から降って来た。
「のわっちゃぁ! あぶっ、あっぶな! うんちゃらトンもあるらしいから、潰されたらペチャンコになっちゃうじゃ――」
もう一匹もジャンプしていた。
それに気が付いたのは下敷きになった後だった。
「あ、流石にヤバイかな」
「どうでしょう。ローザは力もそうですが、頑丈さもずば抜けて高いですから」
「ローザが潰されちゃったんだな、ダナ! でもなんか、全然心配じゃないのはどうしてなのかな、カナ?」
心配じゃない? 三十五トンが上から落ちてきて、しかも潰されているのに心配じゃないとはどういう事だろうか。
その理由は直ぐに理解できた。
『ケータハムインパクト!』
ワニが宙を舞っていた。
空を飛んだワニの腹は激しく波打ち、地面に落ちた時には血を吐いて死んでいた。
どうやら内部にも直接ダメージを与える攻撃のようだ。
「おー、
ワニに乗っかられ、わずかな隙間で出した攻撃が予想以上に強力だったようだ。
残りの一匹は後ずさりしているが、リックが見ているため逃げるに逃げられない。
その迷いが命取りになった。
『ブラストアロー!』
弓を構えて矢を発射する。
矢はワニの背中に命中し爆発したが、硬く分厚い皮を貫く事は出来なかった。
その代わり火が燃えており、油でもついていたのか瞬く間にワニは炎に包まれ暴れ始める。
しかし火は消える事なく燃え続け、ワニは動かなくなった。
「時間はかかったけど、やっぱり大した事ないのかな?」
「ローザが強かっただけ、なのでは?」
「やったんだなローザ! カッコイイんだな、ダナ!」
三人に手を振っているが、まだメインが残っていた。
「ほうほう、ほう? 基本性能で上回るモンスターのボーダーレスを倒すとは、やはり更に上に行った者は別格なのだな。これはぜひとも調べなくては!」
リックは自分のモンスターを倒された事よりも、さらに上の存在のローザ達に興味が移っていた。
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