96.最悪のセカンドコンタクト

 ドナンジャはモニターに映るローザに釘付けになり、舌なめずりをした。


「へ、へへっ、原住民でも良いのがいるじゃねーか」


 ドナンジャはパネルを操作し、艦載機をステルスから強襲モードに切り替えると、急降下してローザの直上一メートルまで接近する。

 ローザはまだ気付かずに鼻歌で洗濯物を干している。


 艦載機の底部に小さな穴が開き、そこから発せられた光がローザを照らすと意識を失い倒れてしまう。


「よし、じゃあ取りに行くか」


 シートが下に降り、そのまま地面まで降りて来た。

 濃い緑の強化樹脂の鎧を着たままシートから降りると、家の扉が乱暴に開けられた。


「マスターこちらです! いきなり現れた反応はコレでしょう!」


 そう言いながらドナンジャに飛び掛かるシルバー。

 だがドナンジャはさっさとローザを担いでシートに座ると、あっという間に艦載機へと戻っていく。


「ローザ! ローザー!」


 ブルースも直ぐに飛び出してきたが、ローザはすでに艦載機に囚われてしまい、今まさに飛び立とうとしている。


「逃がさない!!」


 黒いパワードスーツを一瞬で装着し、背中のブースターをふかしてジャンプするも、艦載機は音も立てずに高度を上げる。

 更にふかして追いつこうとするのだが、艦載機は更に速度を上げて移動を開始した。


「マスターいけません! それでは宇宙へはいけないのです!」


 そんなシルバーの言葉は耳に入らず、ブースターを全開にして艦載機を追いかけるのだが、やはり追いつけない。

 

レーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクス!」


 数十機のレーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスが現れ、艦載機に取り付きコックピットを覆い隠す。

 だがそんな事は関係なしに艦載機は上昇を続け、ブルースの速度は低下した。


 空気が薄すぎて、ジェットエンジンではこれ以上登れないのだ。

 艦載機にまとわりついていたレーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスもボロボロと落ち始め、数機だけが艦載機に固定出来たようだ。


「逃げるな! 僕と勝負しろ!」


 必死に手を伸ばし足をばたつかせるが届くはずもなく、ジェットエンジンが完全に停止してしまった。

 自由落下を開始し、艦載機は徐々に小さくなりそして、見えなくなった。


 落下するブルースを救ったのはシルバーだった。


「マスター!」


 レーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスを取り込んだシルバーのエンジンはブルースよりも強力だ。

 それでもここまで飛んで来たブルースを捕らえるのは至難の業で、何とかキャッチ出来たのは地上から百メートルも離れていなかった。


 だが加速の付いたブルースを止めるためにジェットエンジンを全力で噴射し、シルバーの膝が地面に付いた時、やっと止める事が出来た。


「マスター、無理をなさらないでください」


「どうして発見できなかったんだ!」


 シルバーから跳ねるように離れると、シルバーを指さして怒りをぶつける。


「あれが来たらすぐに分かるんじゃなかったのか!?」


「申し訳ありません。音も電磁波も、空気振動すら反応がありませんでしたので」


「なんで、なんでローザが……」


「マスター、レーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスの反応がまだ残っています」


 ヘルメット内の表示を見ると、艦載機に取り付いたレーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスが反応を出している。

 だが一つ減り二つ減り、数はゆっくりと少なくなりそして、全ての反応が消えた。


「無くな……った」


「マスター、ひとまずは家へ戻りましょう。すでに国をいくつもまたいでいるので、誰かに見つかると厄介です」


 動かないブルースを抱きかかえ、シルバーは周囲の反応を見て急いで飛びたつ。

 その直後、猟師らしき数名の男たちが現れる。


「ん? 今何かいたかのぅ?」


「いねえべや」


「んだんだ」


「気のせいだなや」


 家に到着し、力なく歩くブルースに肩を貸すシルバー。


「ブルー! 一体何があったの!?」


「お兄様? ローザさんがどうかなさったのですか?」


「ブルース、顔を見せて欲しいんだな、ダナ」


 シアンに言われヘルメットを収納すると、真っ青な顔で怯えていた。

 

「ローザが……誘拐された」


 全員の顔が強張る。

 オレンジーナはブルースを見るが、すぐにシルバーへと向き直る。


「シルバー、説明をしてちょうだい」


「はい」


 家に入り、ブルースをソファーに座らせてから、シルバーは説明を始めた。

 説明を聞いて、三人も落ち込む。


「まさかそれ程の手練れだったなんて思わなかったわ」


「私達はまだしも、お兄様やシルバーを出し抜くだなんて」


「ローザを無理やり連れて行けるなんて、どんでもない相手なんだよ、ダヨ……」


 それ以上は言葉が出てこなかった。

 ブルースとシルバーが追いつけなかった相手に、自分達が出来る事などあるのだろうか、逆に捕らえられてしまうのではないか、そんな恐怖すらあった。


 だが。


「! 反応あり、これはドローンの子機の物です」


「どうして今頃反応が? ドローンは全機落とされたんじゃないの?」


「予測ですが、ドローンが振り落とされる前に子機を潜り込ませ、待機状態に入っていたのではないでしょうか。周囲の状況が安定した事で、起動して信号を送ってきたのでしょう」


「ならこの場所にローザがいるって事?」


「可能性が高いです」


 その頃宇宙船内では。


「外せー! ここから出せって言ってるのよこんちくしょー!」


 ローザは台に乗せられ、手足を広げて固定されていた。

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