95.静かなファーストコンタクト

 上空に航空機の反応が現れ、ブルースとシルバーは四機の航空機を見上げている。

 他の四人も空を見ているが何も見えない。


「ねぇブルー君、コウクウキってなに?」


「飛行機……空を飛んでいる物体だよ」


「え? まさかドラゴンではありませんわよね?」


「生き物じゃないね、人工的に作られた物、レーザー兵器搭載航空機型ドローンファランクスみたいな奴だよ」


 しかし見えていないので何とも反応が出来ない。

 空では一か所にとどまり、地上を見つめる四人の目があった。


「なぁ、あの二人、俺達を見てないか?」


「やっぱりそうだよね、僕達を見てるよね」


「他の四人には見えていないようだけど、あの二人は何なんだ?」


「ってか答えはわかってるだろ、バカかお前ら」


 四人のリーダー格の男がセンサーを使い、詳細を調べている。

 ブルースとシルバーのスキャンが行われ、モニターに表示された。


「これは困ったな、あの女はアンドロイドで、俺達が百年ほど前に使っていた技術に酷似している」


「だからんな事はわかってんだろ! さっさと破壊して終わりにしろよ!」


「ああ、ここまでは予定通りだが……問題はあの男だ。この星の人間に間違いないが、あのヘルメットはそれなりの技術だ、大体四百年ほど前の技術だな」


「え? じゃあ現地調査員の報告は間違ってたって事なの?」


「間違いという程ではないな、あのレベルなら警戒の必要がない。問題はあの技術がどこからもたらされたのか、という事だ」


「じゃあどうする? 泳がせるか?」


「そうだな、今は敵対行動をとらずにマークだけして情報を集めよう。他の現地調査員の情報も必要だ」


「チッ、面倒くせぇ」


 四機の艦載機はブルースとシルバーの反応にマーキングを施し、その場を去っていった。


「……いなくなったね」


「はい。我々を観察していたようです。恐らくマーキングされたでしょう」


「マーキング?」


「マスターの生体反応と、私の動力の固有振動を、どこにいても分かるようにしたのです」


「それじゃあどこにいても、四機は僕たちの居場所がわかるって事?」


「そうです。しかも四機は艦載機と見られますので、母艦にも情報は伝わっているでしょう」


 一方的に情報を持っていかれたが、ブルース達には相手の目的が分かっていないため、危険だとは理解できてもどの程度かはわからない。

 しかしシルバーも一方的にやられてはいないようだ。


「こちらもあの四機及び同機種の動きはすぐにわかる様、情報は集めました。十キロ以内に入ればわかります」


「わかった、また来たら教えて」


 家に入り、女性陣(シルバー含む)は風呂に入り、ブルースは夕食の準備をしている。

 一緒に風呂に入る事は何とか有耶無耶うやむやに出来たが、ホッとしたような残念なような顔だ。


「ねぇねぇブルー君、さっきの話だけどコウクウキって何しに来たの?」


 夕食中に、ローザが日中の出来事を聞いてきた。

 ブルース自身もハッキリと分かっていないため、シルバーが説明をした。

 詳しい理由はわからないが、ブルースとシルバーを見に来た事、そして自分達を今後も観察するであろうこと。


 みんな嫌がっているが、根本的な理由がわからない限りは対処のしようがなく、そもそも相手の方が全てにおいて上なので、こちらからはその場その場で対処するしかない。


「あ~落ち着くな~」


 食事が終わり、ブルースは一人で風呂に入り、大きな湯船でノンビリしていた。

 色々と考える事はあるが、今は何も考えずにいられるだろう。

 そう、今までは。


「ぶ、ブルーく~ん、入るね~」


「え!? ろ、ローザ!? ちょっと、今は僕が入ってるからダメだよ!」


 慌てて入り口から離れるが、ローザは大きなタオルを体に巻いて入ってきた。

 

「せ、背中をながしチェあげりゅね!!」


 噛みまくりだ。しかも顔は真っ赤、目玉ぐるぐる、動きも錆びたおもちゃのように硬い。

 湯船から逃げようとするも、すっ裸なので逃げ場がない。


 ローザは緊張のあまり足元が見えていないのか、湯船に頭からダイブしてしまう。


「……え? ちょっと? ローザ大丈夫?」


「ゲホッゲホッ! だ、だいじょびゅでし!」


 慌てて起き上がったので、タオルが体から落ちてしまう。

 

「キャー!」


 とブルースが両手で顔を覆って悲鳴を上げる。

 しかし指の隙間からチラリと見ると、ローザの豊かな胸が……真っ赤な布で覆われていた。


「あれ?」


「あ、あはははは、流石に裸は恥ずかしかったから、ビキニを着てたの」


「そ、そうだよね~、あービックリした」


 と気を抜いたのが行けなかった。

 湯船で立ち上がっているブルースの下半身が丸出しだ。


「お、おおっ! ぶぶぶぶ、ブルー君だ!」


「え? そりゃ僕だけど……キャー!」


 ローザの視線に気が付いてしゃがみ込む。


「ちょっとローザ! 抜け駆けは許しません!」


「お兄様! 私が背中をながして差し上げますわ!」


「もう一度お風呂に入るんだな、ダナ!」


「マスター、血圧が異常に上昇しています。直ぐに処置を」


 オレンジーナは白いビキニ、エメラルダは競泳水着、シアンはスク水、シルバーは迷彩柄の半ズボン袖付き水着。

 一斉に湯船に入り、ブルースに乗りかかるのだった。


「隊長! どうして様子見なんですか!?」


 衛星軌道上の船の中で、隊長に食い掛る兵士がいた。


「何度も言わせるなドナンジャ。まだ全容がわかっていないのだから、調べ終わるまで待てと言っているんだ」


「それなら星を焼き尽くせば良いではありませんか!」


「お前はまたそんな事を……俺達だって無暗に破壊をしていいわけではないんだぞ」


 どうやらドナンジャは早く自分の星に戻りたいらしく、目的を果たすための手段を選ぶ必要はないと進言しているようだ。


「とにかく、技術レベルが対象の二人だけが異様に高い理由を調べるんだ。仲間がいるのなら、そちらの対処もしなくてはならないからな」


「……わかりました」


 そう言って隊長の部屋から出て行った。

 しかし翌日、一機の艦載機が許可もなく出て行ってしまった。


「応答しろドナンジャ! おい返事をしろ!!」


 中型艦のコックピットから呼びかけるが全く応答がなく、艦載機は大気圏へと入っていった。


「この付近だったな。仲間がいるんならとっ捕まえて、吐かせればいいんだよ」


 ブルースの自宅の上空から、まっすぐ降りて来る小型艦載機。

 相変らず姿が見えないが、今回はさらに完全ステルス仕様で来たようだ。


 そのモニターに、家の前で洗濯物を干しているローザが映し出される。


「ん? ああそういえば女もいたな。原住民が一体何を……!!!!」


 ドナンジャの表情が固まる。

 そしてローザの顔から眼が離せなくなった。


「へ、へへっ、原住民でも良いのがいるじゃねーか」

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